第14話 溶岩地帯のボス

グノーとの再会から三週間


私は、積極的に格上に勝負を挑み、何度も怪我をしながらもなんとか大幅なレベルアップに成功した。

そして、そのままの勢いで30階層へ到達し、ついにボス部屋の前までやって来た。


……でも、すぐに挑んだりはしなかった。


だって、徘徊ボス的な立ち位置としてグノーとか言う化け物がいるんだよ?

流石に無いとは思うけど、もし30階層のボスがグノー級の化け物だったら、私勝ち目ない訳よ。

だからね?私頑張った。

せめて下位竜くらいは倒せるようになろうと思って頑張った。めちゃくちゃ頑張ったよ。

その結果がコレよ。


【名前無し

 グレータードラゴニュート Lv34/120

 スキル 鑑定 槍術 再生 豪力 威圧 剣術 空間収納 探知 魔力操作 炎魔法 魔力装甲 竜鱗 思考加速 熱耐性 無慈悲 潜在能力解放             】


いつの間にかね?

すんごく強くなってた。

まず進化してグレーターになった。

グレーターがどれくらい強いかというと…


【グレータードラゴニュート

 非常に強力なドラゴニュートの上位種。成長した個体は一体で下位竜を仕留めるほどの実力を持つ。遭遇した場合は刺激しない事をオススメする】


本当、強くなったよ。

レベルを上げれば下位竜とタイマンできるらしい。

でも、それはドラゴニュートの話。

私の場合、色々とスキルを持ってるから現状でも下位竜とタイマン張れるくらいは強い。


そして、いくつかのスキルが上位派生した。

まず、怪力はグノーと同じ豪力に。

火魔法は、炎魔法にグレードアップして、魔力鎧も魔力装甲に進化した。

さらに、新しく能力解放なるスキルを獲得した。


【潜在能力解放

 一時的に、普段使うことのない潜在能力を解放するスキル。使用後は酷い倦怠感と、全身の筋肉痛に襲われるが、簡単にパワーアップすることが可能であり、非常に有用】


おそらく、火事場の馬鹿力的なのを意図して発動するスキルだ。

副作用が地味に大きく、安全な場所のない溶岩地帯では使用を躊躇う機会が多かったので、未だに使ってない。

まあ、スーパーなんちゃら人みたいになれるスキルかも知れないし、いざという時に使おう。


とまあ、こんな感じでかなり強くなった。

正直、これでもボスに挑むのは不安だけど、これ以上グズグズしてるわけにもいかない。

というわけで、オープン・ザ・ドア!


ボス部屋の扉を開き、中へ入ると自動で扉が閉まって、部屋の中央に光の輪が現れた。

そこから現れたのは、何処かで見たことのある姿の生物。

というか、何度も見てきた厄介なモンスターだ。


【名前無し

 ドラゴン(下位竜) Lv100/130

 スキル 怪力 鋭爪 剛牙 竜鱗 飛翔】


私の目の前に現れた30階層のボスは、レベル100の下位竜だった。


スキルは少ない…しかも全部下位スキルだ。

でも、レベルがめちゃくちゃ高い。

それだけ見ると私よりも圧倒的に格上なんだけど……とにかくスキルが少ない。

しかも、コイツ熱耐性のスキルを持ってないから炎魔法が効く。


「シャアアア…?(意外と余裕?)」


そんな事を考えていると、ドラゴンがおもむろに口を開き、魔力を集約させた。


ヤバイ!ブレスだ!!


私は急いで回避行動を取って、なんとかブレスを回避する。

しかし、ドラゴンはブレスを吐くのを止めず、そのまま首を振って私を狙ってきやがった。


「シャアアアア!!(ヤバァァァァイ!)」


私は、ひたすら走ってブレスから逃げ続ける。


例え魔力装甲と竜鱗を全力で展開したとしても、アレは耐えられない。

相当な熱を持ってるだろうから熱耐性でも威力が落ちるだろうけど……超高密度のエネルギー波は熱耐性じゃ防げない。

活路は……クソッ!こうなったら前に出る!


このブレスは、いくらか扇型に近い形をしてる。

扇形の攻撃の利点は、遠くへ行くほど攻撃範囲が広くなるから遠くの敵に攻撃を当てやすい事。

だから、距離を取るのは悪手。

逆に言うと、遠くに行くほど攻撃範囲が広がるって事は、近付くほど攻撃範囲が狭くなる。

至近距離まで来られると、直撃を当てるしかなくなってくるのだ。

つまり、近付けば近付くほどこのブレスの利点を殺せる!


「シャアアア!(そんなのに当たるか!)」


私が思い切って前に出ると、まさか距離を詰めてくるとは思っていなかったらしいドラゴンが、一瞬驚いて動きを止めた。

その隙をついて、私はさらに距離を詰めて、攻撃を当てにくくする。

どうやらこのドラゴンも扇型の弱点を知っていたらしく、目に見えて私から距離を取ろうとする。


でも、後退りと全力疾走のどっちが速いかなんて、言うまでもないよね!


「シャアアア!(一旦それ止めろ!)」

「グアッ!?」


私はドラゴンの頭上に飛び上がると、上顎に踵落としをした。

すると、口の中でブレスが爆発し、その勢いで無理矢理ドラゴンの口が開く。

私も爆発の勢いで上顎から吹き飛ばされたし。


これは痛いだろうなぁ…

ブレスが口の中で爆発するなんて、絶対ヤバイわ。

……ほら、口から血が流れ出してるし。


ドラゴンの口からは血が流れ出しており、ブレスで口内に傷を負った事は間違いなさそうだった。

そして、ドラゴンは忌々しそうに私の事を睨みつけ、飛び上がったかと思えば空中で旋回飛行を始めた。


……何やってんのアイツ。

空を飛び回って口の傷が癒えるまでの時間稼ぎをしようってこと?

別に再生のスキル持ってないんだから、そんなの意味無いでしょ。

何やってんだか。


私は、ドラゴンのやっている事の意味が理解できず、ただ飛び回るドラゴンを見つめるしかできなかった。

やがて、わざわざ見上げているのも飽きた頃、


「ガアアアアァァァア!!」


ドラゴンは私目掛けて空中から突っ込んで来やがった。


「シャアアア!(甘い!)」


私はそれを易易と回避すると、お返しとして横薙ぎの一閃をドラゴンにお見舞いする。

しかし、鱗が硬すぎて剣は弾かれてしまった。


うっそだろオイ…

アイツ硬すぎんだろ…

レベルの高いドラゴンの竜鱗って、こんな馬鹿みたいな強度してんの?

これでも豪力と進化で腕力はめちゃくちゃ上がってるんだよ?

それなのにこれって……


「シャアアア……」


カウンターの一撃が意味をなさなかった事に驚き、私は警戒しながらドラゴンと一定の距離を取る。

その距離は、攻撃を仕掛けられても対応できて、ブレスを吐かれてもすぐに詰められるようなちょうどいい間合い。

私はそこで剣を構え、魔力操作で全身に送っていた魔力の量を増やす。


攻撃が効かないなら、威力を上げればいい。

魔力操作の出力を上げて、全身を巡る魔力の量を増やせば、身体能力が上がる。

本当は魔力を練りまくって、その質を上げてから使ったほうがいいんだけど…今の私に高密度の魔力を生み出す技術はない。

だから、純粋に量を増やして筋力を上げればいいんだけど…これが効かなかったらヤバイ。


「シャアアア!」


私はドラゴンとの距離を詰めて、剣を下から上へ振り上げる。

ドラゴンは、それを前脚で受け止め、防いでみせた。

……硬すぎる鱗を使って。


「シャアアア…(お前硬すぎだろ…)」


これは、本格的に不味くなってきた。

距離を取って炎魔法を発動し、炎の槍をドラゴンにぶつける。

槍はドラゴンにぶつかると同時に爆発し、オレンジの爆炎がドラゴンの体を覆う。

しかし、熱耐性を持ってないにも関わらず、ドラゴンは涼しい顔をしている。


竜鱗の魔力撹乱効果か…私自身魔法攻撃を受けたことがないし、溶岩地帯の敵は大抵熱耐性があるから魔法を使わなかった。

竜鱗の効果を試す機会が無かったけど…想像以上だね。練度の低い魔力じゃ、ほとんど意味をなさないかも。


手持ちのスキルはほとんど使った。

残りは潜在能力解放だけ。

これがほとんど意味のないスキルだったら、私は詰みだ。

流石に潜在能力解放なんて壮大な名前なんだから、現状を打破するのに使えるはず…

スキル説明にも有用って書いてあったし。


「シャアアアアアア!!(頼む!コイツに勝てるようなスキルであってくれ!!)」


私は現状の打開を祈りながら潜在能力解放を使った。

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