第13話 お前……何故ここに?

29階層攻略20日目


「キシャァァァ……」


私は、もはや格下となったドドガにトドメの一撃をお見舞いし、その生命を断つ。


やっぱり、格上か同格しか居ない環境下ではレベルの上がりが早い。

一度の戦闘での労力は半端じゃないけど、かなりの速度でレベルが上がっていった。


【名前無し

 エリートドラゴニュート Lv81/90

 スキル 鑑定 槍術 再生 怪力 威圧 剣術 空間収納 探知 魔力操作 火魔法 魔力鎧 竜鱗 思考加速 熱耐性 無慈悲】


転生してすぐの頃と比べれば、レベルアップの速度は落ちたけど、それでも十数日でこれは早すぎる。

多少危険でも、こういう状況下のほうが強くなりやすいんだろうね…

ハイリスク・ハイリターンってやつだ。


「シャアアア…(ふぅ…一旦休憩)」


流石に連戦が続いて疲れた。

充分な休養を取る事も、強くなるための一歩だ。

とても休める環境じゃないけど、水飲み場の近くなら多少涼しいからそこに行こう。

……まあ、気休めでしかないけど。



私は、最寄りの水飲み場にやって来ると、噴水のように水の湧き出している部分に口をつけて、水をガブ飲みする。

衛生的にはあまりよろしくないし、マナーも悪い。

でも、ここはダンジョン。

衛生的?

こちとら毎日返り血を浴びて、血塗れになってるぞ?

マナー?

確かに直飲みは、今時ネットに上がれば炎上間違い無しのマナー違反だね。

でも、ここはダンジョン。

自然界ですらあり得ないような殺し合いの場だよ?

マナーなんて気にしてられないよ。


「シャアアア〜!(あぁ〜!生き返るぅ〜)」


この溶岩地帯で噴き出すにしては冷た過ぎる水をガブ飲みしたおかげで、かなり上がっていた体温が一気に冷えた。

……今更だけど、水が噴き出すって言ったら熱水噴出孔ってイメージがあるけど……ここは冷水が噴き出してるんだよね。

まあ、溶岩地帯に入ってすぐにあった明らかな人工物の水飲み場なら分からなくもないよ?

でも、普通に岩の穴から水が噴き出してるのに、氷水並みに冷たいのはどうしてだろう?


「シャアアア?(…ん?お客さんかな?)」


探知でこの水飲み場に近付くモンスターの気配を感じ取り、私は水飲み場を離れる。

すると、真っ赤な体毛の犬が水飲み場にやって来た。


【名前無し

 ファイアーデスウルフ Lv78/90

 スキル 剛牙 熱耐性 炎纏 炎魔法 強顎 即死攻撃 死牙         】


なんか凄いオオカミが来たんだけど!?


レベルはほぼ互角。

スキルも明らかにヤバそうなスキルを二つ持ってる。

相当ヤバイモンスターであることに間違いはないだろう。


「シャァ……シャアアア?(何あいつ…新手の化け物か?)」


即死攻撃って何?鑑定できるかな?


【即死攻撃

 ごく低確率で相手を即死させる攻撃。耐性を持っていなければ、決して防ぐことのできない究極の攻撃】


はいヤバイ。

耐性が無いと決して防ぐことができない?

それを世間ではチートって言うんだよ。

つまりあれでしょ?

レベル1のスライムが即死攻撃を使って、あのグノーを攻撃したら低確率で死ぬって事でしょ?

絶対攻撃喰らえないじゃん!


という事は、死牙ってスキルもヤバイんじゃ…


【死牙

 ごく低確率で相手を即死させる牙。即死攻撃を併用すると成功確率が上昇する】


うん、知ってた。

あのね?

ただでさえ凶悪な即死攻撃の成功確率を上げてどうするの?

私もう絶対アイツと戦いたくないんだけど?

低確率で攻撃を受けたら死ぬ運ゲーとか嫌だ。

仕方ない、逃げるか。


流石に低確率で即死は怖いのでこの場から退散する事にした。

あのオオカミは殺してみたかったけど、好奇心と命を天秤にかけて、どちらを取るかなんて決まってる。

いくら私でも、命には代えられないのよ。


しかし、相手は私と同格のオオカミ。

足音か、返り血の臭いか、はたまた動く影が見えたのか。

理由は分からないけど、簡単に逃げおおせる事はできなかった。


「アオォォォォン!」

「シャ?(は?)」


急に遠吠えを上げたかと思えば、私に向かって飛びかかってきた。

不意を突かれた私は反応しきれず、牙による攻撃は防いだものの、爪で引っ掻かれた。

その爪は、スキルを持っていないにも関わらず、私の鱗を切り裂くほどに鋭利であり、まともに喰らえば即死攻撃が無くとも危険だと分かった。


しかし、それ以上に攻撃を受けしまったことに対して、ヒヤリと背筋が凍るような感覚を味わった。


(あっぶね〜!あの一撃で即死攻撃が発動して、ワンキルされなくて良かったぁ…)


改めてこのオオカミの危険さを再認識した私は、牽制としてオオカミの顔に火魔法をぶつける。

熱耐性を持っているコイツに対して、火魔法は効果が薄いだろう。

しかし、目眩ましにはなる。

それに、いくら耐性があるとはいえ、突然目の前で炎が発生して顔にぶつかってきたら、本能的に逃げたくなる。

私の予想通り、オオカミは反射的に後ろに飛んで、私から距離を取った。


私は私でオオカミから距離を取り、威圧を出してオオカミを牽制する。

すると、オオカミもスキルに頼らない威圧で私を牽制する。


「シャアアア…」

「グルルルル…」


一歩ずつ後ろに下がって距離を取り続けるが、オオカミはそれに合わせて距離を詰めてくる。

私が止まるとオオカミも止まり、私が進むとオオカミは下がる。

緊迫した空気が私とオオカミの間に流れる。


その時、私の探知にあり得ないモノが飛び込んできた。

ソレはまっすぐオオカミに突っ込み、その強靭な前脚と鋭い爪から繰り出される斬撃によって、オオカミを八つ裂きにする。


「シャアアア…(なんで……お前がここに…)」


忘れもしない。

忘れるはずがない。

そして、アレと同等の力を持った怪物がそう何体も居ていいはずがない。


【名前 グノー

 ドラゴン(上位竜) Lv159/300

 スキル 豪力 断爪 剛牙 逆鱗 火炎纏 飛翔 炎魔法 魔力操作 探知 隠密 威圧 咆哮 覇気 王力          】


「シャアアア…(グノー…)」


26階層に居たはずのグノーが、29階層に現れた。

…まさか、コイツも階層を移動できるのか?

もしくは、溶岩地帯は全てどこかで繋がっているのか。

溶岩が噴き出すための縦穴があってもおかしくはない。


「グルルルルル……」


グノーは私を見つめると、何処か嬉しそうにニヤリと笑い、何処かへと飛び去っていった。


……まさか、グノーは私が強くなった事を喜んでいるのか?

いずれ、自分と互角に戦えるかもしれない存在が現れて、嬉しかったのかもしれない。

だから、私の事を見逃したのか…

オオカミを襲ったのは、私が即死攻撃で死ぬのを恐れての行為かな?

別に、死ぬつもりは無かったけど…まあ、即死の脅威を未然に防いでくれたと考えればありがたい…のか?


まあ、どんな理由があれ、私はグノーに目をつけられた訳だ。

いずれ自分と互角に戦えるかも知れない、未来の好敵手として。

……だとしたら、私その内グノーと互角になるくらい強くなるってことだよね?

私、そんなに強くなれるのか…


「シャアアア…(グノーを倒す。意外と現実的な話なのかもね)」


なんたって、当の本人がそう見込んでるんだもん。

私の未来の実力は約束されたようなものだよ。

そうと決まれば、今から強くならないと!

まあ、今以上に積極的に攻撃を仕掛けるようになると、疲弊し過ぎて死期を早めかねないかも知れないから、堅実にやるつもりだけど…

でも、積極的に格上に勝負を挑むのはありかもね。

モンスターの皆にはレベル上げのため、私の経験値になってもらおう。


グノーからも、いずれ私がとんでもなく強くなることを期待されている。

そのためにも、私は強くならなくちゃいけない。

私は、もう一度水飲み場で水分補給をすると、次の獲物を探して歩き出した。

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