第12話 赤ゴリラ
「シュウウゥ…」
突然、格上の赤ゴリラに襲われた私は、防戦一方で常に押されていた。
このゴリラ、力押しでめちゃくちゃな攻撃をしてくるくせに、ちゃんと私が反撃できないようにしてる。
野生の勘か、これまでの経験か…
どちらにせよ、このままだと不味いって事は確かだ。
「ガアッ!」
「ッ!?」
炎纏のスキルで、燃え盛る炎を纏った拳が私に向かって振り下ろされる。まともに喰らえば大ダメージは免れない。
剣で防御すれば吹き飛ばされる。
回避は速度的に間に合わない。
この場ですべき事は……
「シャアアア!(受け流しだよね!)」
私は剣を使って赤ゴリラの剛拳を受け流す。
しかし、それでもかなりの負荷が腕にかかり、反撃はできなかった。
……そう、剣ならね?
「グガッ!?」
私は前に出て赤ゴリラの腹に飛び膝蹴りをお見舞する。
格上といえど、私だってパワーはそんなに負けてない。
いくら体格のいい男性でも、女性に本気で蹴られたら痛いのと同じ。
だから、この赤ゴリラにも小さくないダメージが入ったはず。
「グガァ……ガアッ!!」
「シャアアアッ!(甘い!)」
私なんかの反撃を受けて、苛立った赤ゴリラは簡単に避けられるようなパンチを放つ。
私はそれをヒラリと躱し、懐に潜り込むと赤ゴリラの脇腹を切り裂いた。
「ガアッ!?」
かったい筋肉の鎧をなんとか切り裂き、それなりに深くやったつもり。
しかし、赤ゴリラは痛がってはいるが、ピンピンしている。
やっぱり、筋肉の鎧を完全には貫通することはできなかったみたい。
それどころか、腹を切られて血を流したのを見た赤ゴリラは、顔を更に真っ赤にしてブチギレてる。
「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」
赤ゴリラはドラミングをしながら雄叫びをあげ、全身の毛を逆立たせる。
そして、殺意に染まった目で私の事を睨みつけてきた。
「グガァ!グガァッ!!」
叫びながら拳を振り上げた赤ゴリラを見て、私は直感的に後ろに飛ぶ。
なに……?
なんか、気付いたら体が動いて――ッ!?
私がさっきまでいた場所に、赤ゴリラの隕石のような灼熱の拳が振り下ろされる。
そして、その拳は地面を砕き、近くにあった小石が飛び上がるほどの衝撃を発生させた。
まるで地震でも発生したかのように地面が揺れ、体勢が崩れそうになる。
「シャアアア…(化け物め…)」
怒りでパワーアップした赤ゴリラは、今まで以上に強大な力を有しているらしい。
あんなのをまともに食らったら一発で死ぬ。
ましてや、速度重視の軽打でさえ当たったら不味い。
くそが…私が一体何をしたって言うんだ……
いきなり襲いかかってきたから、私だって身を守るために戦ってるってのに…急にキレられて私はどうしたらいいんだよ。
心の中で悪態をつきながら、赤ゴリラに剣を構える。
すると、赤ゴリラは地を蹴って飛び上がると、両手を握って私の脳天めがけて振り下ろしてきた。
一般人なら、それで叩き潰されて肉塊に変えられただろうね。
でも、私にそんな大振りな攻撃が当たるとでも?
私はそれを横に飛んで回避し、地に伝わる衝撃も空中にいるため意味をなさない。
そして、あまりの攻撃力の高さに地面に拳がめり込んでしまったのを見て、私は赤ゴリラの首めがけて剣を突き出す。
「シャアアアッ!!」
まだ拳は地面にめり込んだまま。
取った!…そう思った矢先、
「ガアッ!」
「っ!?」
赤ゴリラは地面から手を強引に引き抜き、私めがけて裏拳を放ってきた。
その剛拳が私の顔面を捉えそうになった瞬間、首をグッと下げてなんとか回避する。
そして、そのままの勢いで前に進み、赤ゴリラの首に剣を突き刺す。
流石に首までは筋肉の鎧もついてはおらず、抵抗こそ感じたが刃は確実に突き刺さった。
「シャアアアッ!」
グリップを強く握ると、全身の力を使って首に突き刺さった剣を振り、赤ゴリラの首を切り裂いた。
「――!?」
突然首を切り裂かれた赤ゴリラは何が起こったのか理解できず、呆然としていた。
そんな隙だらけの状態を私が見逃すわけもなく、一回転して剣に速度を乗せると、赤ゴリラの首目掛けて振り上げ――丸太のように太い首を切り落とした。
赤ゴリラは最後まで自分の身に何が起こったのか理解することはなく、私の経験値となった。
切り飛ばした首は少し離れた所に転がり、その岩陰に何か動く影があった。
……ん?
何か居る…のか?
漁夫の利を狙う狡猾なモンスターか、死体を食いに来たモンスターか…
剣を構えながらゆっくりその岩陰に近付くと、岩陰から小さな子ゴリラが姿を現した。
「シャアアア…(まさか…)」
…変だと思ったんだよ。
確かに私はあの赤ゴリラと比べれば格下だよ。
でも、私よりも弱くて餌になりそうな大きなモンスターはいくらでもいる。
それこそ、ヨトカレとか、ドドガとか。
この赤ゴリラなら全然倒せたし、わざわざ食べる場所の少ない私を狙う必要はなかった。
…でも、これなら納得できる。
赤ゴリラは、自分の子供たちを守るために私に攻撃をしかけたんだ。
子供を守るため、かぁ…
守ってくれる親を失った子供たちがどうなるかなんて、目に見えてる。
きっと、そこらのモンスターに一飲みにされるだろうね…
私は、既に息絶えた親の顔をペチペチ叩いて起こそうとする子ゴリラの元へやってくると――ひと思いに真っ二つに斬った。
これから他のモンスターに食われるくらいなら、私が殺して経験値にしたほうが有用だ。
だってそうだよね?
これから死ぬんだもん。
他のモンスターに殺されるくらいなら、私がやったって一緒だ。
限りある命なんだし、私が有効活用してあげる。
赤ゴリラは筋肉質過ぎて食べられないから放置するとして……子ゴリラも食べる場所が少ないから別にいっか。
経験値は手に入ったし、残りは他のモンスターのご飯にしてあげよう。
子ゴリラは楽に死ねる。
他のモンスターは簡単にご飯にありつける。
私は経験値を貰える。
うん、誰も損してない!
赤ゴリラ?
あの世で我が子と再会できるじゃん。
ほらね?誰も損してない。
さーて、赤ゴリラ殺したから、少しはレベル上がってるんじゃないの?
【名前無し
エリートドラゴニュート Lv26/90
スキル 鑑定 槍術 再生 怪力 威圧 剣術 空間収納 探知 魔力操作 火魔法 魔力鎧 竜鱗 思考加速 熱耐性 無慈悲】
えーっと、さっきまで24だったから、2上がったのか。
しかも、新しいスキル手に入れてるし。
【無慈悲
一切の容赦なく殺生を行うものに贈られるスキル。攻撃的行動を行う際の精神状態に補正をかけ、罪悪感を抱きにくくなる。なお、このスキルを持つものは、相当な危険人物であるため、下手に刺激しないことをオススメする】
なるほどね〜?
確かに、私今まで罪悪感とか感じたことないわ。
モンスター=経験値、でやってきたからね。
相当な危険人物って言うあたり、私みたいなサイコパスとか、快楽殺人鬼みたいな狂人に贈られるスキルなんだろうね。
罪悪感を抱きにくくなるとか…あってないようなスキルだね。
…隠し効果とかないのかな?
私は新しく手に入れたスキルに隠し効果が無いか調べてみたが、そんなものは一切なく、結局あってないような無駄スキルとなった。
もっと有用なスキルが欲しかったなぁ…
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