第123話 配信者魂

『いよいよだなほんじょー』

『ほんじょーがスト鯖出るって言うからこっちもドキドキした』

『俺は正直、ひとりぼっちでやることのないほんじょーを眺める期間になるかと思ってた』

『バカヤローほんじょーの活躍見てねえのかよ?』

『可愛い女の子たち関わりのあるほんじょーがぼっちになるわけない』

『なんだかんだハーレム築いてない?』

『ええやんかそれでも。ほんじょーの配信見てると仕事がんばろって思えるし、応援したくなる』


「えーみなさん。ここまでお付き合い頂き感謝しかありません。爪痕を残せるかわかんないですけど、やってやります」


 僕は横目でモニターを覗きコメントに返事をする。


 そうだ。ここまで来たんだ。


 あとは……やるだけ。


 配信者としての魂をぶつける時が来たんだ。


「ほんじょー準備して!」


「あいよ!」


 バディの合図に短く答え僕はマウスを握りなおした。


 銀行の外では戦車が暴走しキャタピラが軋む音が聞こえる。


 ――今だ!


「並等さん!」


「はい!」


 準備していたハシゴをドロップさせ外壁にかける。


 予定通り侵入口の窓は開いている。


「右に走って! 階段があるからっ!」


 さぁ突入だ!


 銀行内に入ると僕たちは右に向かって走り出す。


 この先に地下へと続く階段があるからだ。


「やっぱり警備は手薄だね。外の暴徒を止めるためにみんな駆り出されてるみたい」


「予定通りすぎて逆に怖いけどちょっとだけほんじょー見直した……かも。知らんけど」


 最後の言葉がなければ僕も気分がいいが、今は触れないでおこう。


 というより女の子が知らんけどって言わない方がいいかもしれない。おっさんに見えるから。


「この階段だ! 下るよ!」


 そして見つけた例の階段。


 金庫は地下一階にあるから一直線に進めるはず。


「ここ進めば金庫があるんでしょ? セキュリティ解除コードはどうするの?」


 後ろを走るバディが不安げに投げかけてくる。


「えーっと、そうね」


「えっ?」


 その「えっ?」は、今さら何言ってんの? って言ってるように聞こえた。


「コードは……最後までわからなかった! ごめん!」


「――はあああぁああああ!?」


「ちょ、声抑えて抑えて!」


『さすがやなほんじょー』

『絶対なんかあると思ってたもん』

『浮気がバレた時のよそよそしさがあったのを俺は気づいてた』

『お前が浮気されるわけねーだろ彼女いないんだし』

『黙れ童貞』


「コメント欄の博識なみんなに問う! コードを知ってる人はいないか!?」


「呆れた……ほんじょーらしいけど、ほんと呆れた」


「大丈夫! まだあわわああわ慌てる時間じゃない!」


「言葉がダメなことを物語ってるけど……」


 だって。


 だってわかんなかったんだもん!


 ナイトプールイベの時にポリスの人から聞き出そうとしたけど、怖くて話しかけられなかったんだ。


『コードって特定のポリスが知ってるんだろ? 悪僂みずきの配信覗いたときにそんな感じのコードをメモってた気がするけど』


「だにぃ! 本当ですかそれ!」


『ハッキリとは覚えてない』

『誰かみずきちゃんの配信見て来いよ』

『お前が行け』

『じゃあ俺が行くわ』

『俺も行く』

『行くのは俺ね』

『みんなイキスギィ!』


「ほんじょー一回落ち着いてよ」


 その言葉に僕は足を止めた。


「僕のリスナーが情報くれてさ、悪僂みずきってVの子が知ってるみたいなんだ」


「ほんとに?」


「うん。今、刺客送ってるとこ」


「それならいいんだけど銀行内に人が戻ってきたと思うんだよね。外が静かになってきたから」


 確かにさっきより外は静かだ。


 砲弾の音も聞こえないし、銃声も止まっている。


 僕たちがいるのは……B1と書かれた掲示板がある踊り場。


 ならば金庫は目前だ。


『ほんじょー逃げろ!』

『みずきちゃんが近くに来てる!!!!』


 ファっ!?


「みずきさんが!? 今どこなの!?」


『この背景は』

『同じ階段か?』

『ほんじょーみずきは後ろにいる!!』


 コメント欄に視線を送った刹那、近づいてくる足音に気づく。


「止まって!」


 ビクンと身体を震わせ僕はマウスを振った。


「みずきちゃん……どうしてここが」


「ほんじょーの姿が見えないから探してた。要注意人物がこの騒動に顔を出さないなんておかしいから」


「あなたが悪僂みずきさんですか?」


「あなたは?」


「答えて」


 怖っ。


「そうです。私が悪僂みずきです」


「金庫の解除コードを知ってるって聞きました。本当ですか?」


「さぁ、知らない」


「なら身体に聞くまで」


「ちょっと並等さん、物騒なもん構えてどうするつもり!?」


 並等さんは拳銃を構えてみずきさんに向けている。


 グラフィックがいいせいか、真っ黒な拳銃は蛍光灯に照らされ淡い艶を表現していた。


「私と戦うつもり? エイムなら自信あるけど」


「ダメだよ並等さん! みずきさんのセンスは僕がよーく知ってるし、一緒にゲームしたから実力もわかってる。勝てる相手じゃないんだ!」


 みずきさんはお喋りや愛嬌で勝ち上がってきたわけじゃない。


 そのセンスで数々のゲームをクリアし高いランクにまで登りつめた努力家だ。


 このゲームは射撃がメインじゃないけど、安定したエイムは練習しないと手に入らない。


 だから僕は銃を諦めて釘バットを所持してるというのに。


「ほんじょー!」


 ヒィ!?


 並等さん怒ってる!


「私だって事務所入ってからゲームの練習したしみんなに認められるまで頑張り続けたの。頑張ってるのは私も一緒。だから引きたくない」


『並等さん頑張れ!』

『俺らも応援する!』

『みずきちゃんはかなり強いけど肉弾戦に持ち込めばわからないよ!』


 ……みんな。


「先に行って。コードはメッセするから」






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