273 気分は第3者

 そして2日後、2月5日の水曜日。時刻は午後17時過ぎ。


 ヤミ子先輩から全てを聞かされた日に柳沢君にメッセージを送り、「ヤミ子先輩から大切な伝言を預かっているから直接話をしたい」と伝えた僕は彼の了承を経て阪急川西能勢口駅近くのファミレスで柳沢君と直接会った。


 久々に会った柳沢君は見るからにやつれていて、ひげはちゃんと剃ってきていたが髪の毛はボサボサでおそらく理髪店にも行けていないのだろうと思われた。


 とりあえずドリンクバーを2名分頼み、お互いウーロン茶をコップにいでくると僕と柳沢君は4人掛けのテーブルで向かい合った。



「……それで何の用? 何で白神氏が伝言を伝えに来るの?」

「あのさ、柳沢君。まず言わせて貰うけど、どれだけ辛いことがあっても大学には出てきてよ。このまま休み続けたら診断学は再試だし、林君もカナやんも壬生川さんも皆心配してるんだよ。僕だってわざわざ1時間かけてここまで来たんだから」

「それは……悪かったと思う。心配かけてごめん」


 柳沢君は現在ふてくされているが本来は他人に過度なまでに気を遣う性格なので、強い調子で投げかけた言葉は素直に受け止めてくれた。



「計算してみたけど、明日から毎日全出席すれば診断学の本試験はちゃんと受けられるからとにかく明日からは絶対に出てきて。今からショックなことを聞くかも知れないけど、それとこれとは別の話だから。失恋のショックで留年したってもっと辛くなるだけだよ?」

「……うん。親からもいい加減大学行けって叱られてるし、とにかく明日からは毎日登校するよ。……それで伝言っていうのは?」


 柳沢君はようやく冷静になってくれたらしく、僕は静かに頷いてから話し始めた。



「まず、ヤミ子先輩は柳沢君を傷つけたことを真剣に反省してて自分が全面的に悪かったってちゃんと理解してる。実は今日ここまで来てくれてるんだ」

「えっ、そうなの?」

「僕が来た本当の理由は伝言を伝えるためじゃなくて、第3者として立ち会うため。ヤミ子先輩はそれぐらいショックなことを柳沢君に伝えるから、僕も横で聞いてる。共通の友達としてヤミ子先輩に頼まれたから」

「わ、分かった。俺も白神氏がいてくれた方がいいような気がする」


 柳沢君は割とあっさり僕の立ち合いを認めてくれて、僕はその瞬間にスマホを開くとヤミ子先輩に短くメッセージを送った。



 すぐに店内の入店チャイムが鳴り響き、店の近くで待機していたヤミ子先輩が入店してきたらしかった。


 しかし、なぜか近づいてくる足音は一人のものではなく、



「久しぶり、柳沢君。来てくれてありがとう」

「……」

「ヤミ子先輩……と、解川先輩!?」


 僕らのそばに現れたのはフォーマルな私服姿のヤミ子先輩と剖良先輩だった。


 ヤミ子先輩は一人で来るという風にしか聞いていなかったので、まさかこの場に剖良先輩を連れてくるとは思わなかった。

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