キャラクターは「流れる」ように動いているか?

 まず小説中のキャラクタ―、主に主人公の動きに注目しよう。

 キャラクターは「流れる」ように動いているだろうか?


 ※以下の文章では、あえてプロットという言葉を使っていない。プロットやそれに類する言葉は、それ自体が余計な意味を持ち始めている。私は新鮮な気持ちで理解してほしいために、そういった「小説用語」は意識的に使用を避けた。


 この文章を書いている私は、小説の書き方は2種類あると考えている。


 1つ目の方法は。作品世界とそこに生きるキャラを考え、彼らを行動させ、その状況を文章として描いてい「直書き」だ。


 その名の通り、小説家は頭の展開から、つらつらと展開を書いていく。

 世界のなりたち、人物から次々書いていく、書きながら新しいアイデアを盛り込みながら、エンディングに至る。


 つまり、自然な流れに任せるということだ。


 著者の頭の中で、おぼろげな形になっているもの、それを具体化していく。

 全てのシーンで「創作」を行うので、意外性が有り、楽しい。


 小説の方向性を「ギャグ」「楽しい」「気楽」という方面で考えているのなら、この作り方をするべきだと私は考えている。


 この方法には、メリットもあればデメリットもある。

 以下に記そう。


 ▲「直書き」のメリット


 ・とにかく早く書ける。一時間2000文字のスピードは簡単に出せる。


 ・滑らかでのびのびとした動きをだせる。


 ・即興的に作るストーリーなので、キャラクターに勢いがある。


 ・非常に「創作的」。小説の世界で自然に起こることを捉えていくからだ。


 ・無意識の心理から意外性が生まれる。誰も君の心は覗けない。


 ・やっててストレスがない。楽しい。


 ・ある種の催眠術、魔法に書けられたような楽しさが、その話の中にある。


 ▼「直書き」のデメリット


 ・先のことがわからない状態でスタートするので不安になる。


 ・展開が間延びしやすく、話数が多くなりがち。


 ・キャラクターの性格がよく変わる


 ・構成的な正しさが失われる。本来展開すべき場所で話が進まなくなる。


 ・校正と改稿が大変。


 ・どんな話が出来上がるか、作者にも想像がつかない。

 編集者はとてもハラハラすることだろう。

(直書きの場合、読み手は作者に対してこの話は面白いんだ!と「信頼」することが必要となる。ファン相手の商売なら良いが、始めての相手にする方法ではない)


 直書きの特徴は以上だ。


 さて、次に構成を練って小説を書く方法だ。

 Save The Catの法則、Wの法則、21原則。ヒーローズ・ジャーニーの原則……


 色々あるが、それらをここで説明することはしない。

 ここで重要なのは、「計画を立てる」ということだからだ。

 

 小説家は展開とシーンの計画を立て、どんな描写が必要化を考える。そしてそれらをつなげて文章を書き、予定されたエンディングに向かっていく。


 この方法で作れば、(当然腕前によるのだが)話のまとまりが良くなり、わかりやすいものになる。


 仮にこの方法を「構成書き」とでも言おう。

 やりかたの名前は重要じゃない。どんなメリット、デメリットを持つかだ。


 ▲「構成書き」のメリット


 ・作者が語るべきこと、テーマをはっきり認識できる。


 ・シーンごとの内容が明確になる。


 ・各シーンのキャラクターの目的は?それを理解しているので的確な状況描写ができる


 ・秩序立っている。正しい時間で正しい出来事が起きる。(物語の中盤で転換が起き、ラスト近くで逆転が起きる等)


 ・他人が、要は編集者が、作家が今何をしているのかを理解できる。


 ・協調性のない芸術家ではなく、仕事人として認められる。報酬が支払われる。


 ▼「構成書き」のデメリット


 ・キャラクターの<動きの流れ>がなくなる。


 ・用意された展開に向かうため、下手な作家がやると、不自然さがでる。


 ・↑を修正しようとして、更に妙なことになる。


 ・予定調和が見えてくる。冷静になってしまう。作業感が見える。


 ・誰もができるような方法に、「ウォォォ!」となる楽しさはあるのか?



 さて、構成を批判するような話に見えると思う。

 だが構成は批判していない。メリットデメリットの話だ。


 話を鵜呑みにしないで欲しい。

 基本、で商売をしている人間の話はポジショントークだ。

 基本自説を補強するための情報しか出してこない。


 彼らの話は蛇口をケチって開いている。

 本当に重要な、その奥にあるでっかい何かを出したくないのだ。


 商売人なのでそれは仕方が無い。

 だが私は技法を公開することで特に直接金銭を受け取るわけではない。

 なので今後は自説に不都合なことも話そうと思う。


 森沢明夫はその著書「プロだけが知っている小説の書き方」でさらっと最初にそれを出してくれた。だがあまりにも自然に吐き出していたので、その重要さがおそらく読んだ人には実感できないだろう。


 以下は彼が説明してくれた内容に、私の個人的な考えを足したものだ。


 物語とはなにか?

 それは物語は、「無秩序な人間の一生」を書いているということだ。


 面白い部分も、そうでない部分も当然存在する。


 ある部分を切り取って、切り売り、量り売りしているのが物語だ。

 人生の切り売り。これが物語の本質だ。


 だから「流れ」がある。

 物語の部分に到達するまでの「前」と「後」がある。


 この「流れ」をどう見せるかなのだ。


 その「流れ」とは何か?


 ・普通に何も考えずに生きていた人間が、

 ・とんでもない幸運や不幸にぶちあたって、

 ・それを経験する内に人生の上り下りを経験する。

 ・それをどう乗り越えたのか?


 本当か?と疑っているなら、こういうのはどうだろう。


 ・ネットゲームであそんで毎日廃人生活していた男が

 ・ふとネットで面白がって特定の団体の書類の不備をつついたら、

 ・その団体と弁護士集団から起訴された。

 ・男はネットゲームでの「闘争」の経験を使い、この起訴を乗り越える。

 

 どうだろう?「流れ」を感じないか?


 君の描いたキャラクターは「流れる」ように動いているか?

 言い換えよう。彼の「人生」はあるのか?




 追記


 「直書き」と「構成書き」を織り交ぜた著述法を説明しよう。

 これは前述した二つの技法を、意識的に使って書いた作品を、書き終えてからやった方がいい。基礎がない内に応用に手を出すのは無謀だ。


 まず先ほどの「流れ」をあらすじとしてスケッチしよう。

 これが最初の計画になる。


 そしてストーリーを書く。キーとなる出来事を書くのだ。


 しかし、人生でキーとなる出来事とは、後で見返して、アレがきっかけだったとわかるものじゃないか。どう見分ければいいんだ、ねくろん君?


 簡単だ。「問題を乗り越えた」から、それがキーとなる出来事なのだ。


 ・団体と争おうとする弁護士が見つからない。だが一人だけ見つかる。


 ・裁判に使う資金がない。ネットで募集したら、ものすごい金額が集まった。


 問題発生、解決。の一文一意で書くこと。

 多くの情報があると混乱する。


 だが、これらを具体的に書くにはどうしたら良いんだ?ねくろん君!


 結論から言おう。


 ネット小説における2000文字一話のシーン。これの具体的な部分を作るのは、「予備動作」と「人が何かに影響を与える動作」だ。


 シーンで発生する動作の基礎構造を前もって設計のメモとして残すのだ。


 まだ分かりづらいのでもっと具体的に言おう。


 ネットで弁護士を探す>そんな事できない、と断られる。

 足を使って更に探す>断られる。事態の深刻さに気づく。

 とある弁護士に、いちるの希望を託してコンタクトする>次話につづく


 こういったアクションを記載する。


 しかしこれらの設計のメモは、「ガイド」として使う。

 例えるなら、定規で線を引いた上をなぞって、手で線を引くのだ。


 全体像を理解した上で、もう一度最初から手を動かす。


 シーンの一動作をひとかたまりとして一気に書き上げる。

 その時々の自由な発想を取り入れつつ、「直書き」していくのだ。


 この方法では、「直書き」を何度も繰り返す。

 そしてその都度、不都合な点を修正する。

 もしそれが「ガイド」に原因があるなら、「ガイド」も修正する。


 だがこれは慎重に。キリがないからだ。


 この方法で意図するのは、計画的なものと、偶発的なもの、両者をうまくコントロールすることだ。計画の冷静さと、人間的な情熱、熱情のバランスをとるのだ。


 初稿はこうして書き上げる。


 後のブラッシュアップには、また別の方法を使う。

 そちらは機会があれば説明しようと思う。


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