11-4
「––––以上、卒業生代表、萬屋和洋」
壇上の和洋が礼をし、体育館中から拍手が鳴り響く。
何事もなく卒業式は進行し、終わっていった。三月、春の始まり。桜はまだ咲いていないが、穏やかな晴天だった。
光はちょっとうるっと来ていたが、それより大泣きの隆太と乃梨子にびっくりして自分の涙が引っ込んでいた。いいカップルだなあ、と、光は思う。
おれもいいカップルになれたらいいなあ、と、思った。
卒業式が終わり、みんな外に出た。
穏やかな晴天だった。
「光」
と、スーツ姿の君尋がにこにこしながら光たちのもとへとやってきた。
「君尋さーん」
と、七人の中から光たち三人だけが君尋のもとへと行く。誰だろう、と、亜弥たちは気になった。
「招待してくれてありがとう」
「なにを言っとる。おれの保護者だろ」
「お前はもう成人したんだから」
光はにやりと笑った。
「でも、守ってくれるんだろ」
「まあね」
千歳と和洋は微笑む。
地獄耳で二人のやり取りを聞き、これはひょっとして、と、翼は思ったが、口には出さないことにした。そもそも他の四人が君尋に会うのはこれが初めてなのだ。だからこれは後でじっくり光に質問しまくらねばならぬ、と、一瞬で翼の頭の中はあらゆる質問で埋め尽くされた。
「この後は、みんなで過ごすのかな?」
「よかったら君尋さんもご一緒しません?」と、千歳は言った。「お時間あれば」
「時間ならあるけど、卒業生同士で過ごしたいんじゃないの?」
「いいのいいの。君尋さんのことみんなに紹介したいしさ。それに奢ってくれるんだよねー大人として」
「七人を!?」
「さすがに全額とは言わない」
君尋は笑った。
「じゃ、他のみんながよければ、ぜひ」
「おっけ。じゃ、行きますか」
と、四人のもとへ歩く。
「誰々〜? その人?」
と、翼が光に訊ねる。
「おれの保護者。後見人」
「ほう? それで、あとでじっくりいろいろ聞くけどしょうがないよね?」
「いいよ〜。今日はおめでたい日だもんね〜」
和洋は校舎を眺めていた。その様子に気づき、千歳は訊ねる。
「どうしたの?」
和洋はゆっくりと答えた。
「もう卒業なんだなあって。この制服も」と、和洋は全部のボタンの外れた詰め襟をさする。「今日でもう着ないんだなって」
そよ風が吹く。
みんなで校舎を見る。
「セーラー服も今日で最後か」と、乃梨子。「そうね。寂しいかも」
「なんか、考えなかったな」と、亜弥。「これで最後か」
「コスプレって手もある」と、光。
「いやいや」と、千歳ははにかんだ。「でも、うん、今日は、大切に着ていよう」
「おれは着れるうちは着ようと思うー」
「光くーん」
と、翼が光を小突く。
「なにを想像してるのかだいたいわかるけどいちいち言わなくていいからね」
「大丈夫。小説に書くから」
「これだから作家は」と、涙ぐむ隆太は突っ込む。「なんでもネタにするんだから」
はは、と、君尋は笑った。
「青春はいいねえ」
「じゃ、行こうか」
と、和洋が先導を切った。
「おっけ〜会長」
「そんなのとっくにだけど、俺はもう会長じゃないぞ」
「いいの。おれにとってはずっと会長は会長だから」
和洋は、ふっと笑った。
「ま、いいけど」
「よし、行っきまっしょ〜!」
そして子供たち七人と大人一人は歩いていく。
もうこの学校とはさよならだ。もちろん学校に訪れることはできる。でも、さよならだ。もう自分たちはこの学校の生徒ではなく、もう高校生ではない。別に今日を境に体の構造が変化するわけでもなければ精神が成長するわけでもない。でも、それでも、もういままでの自分たちとはお別れだ。
これが、さようなら。
みんなで歩きながら、千歳はちょっと立ち止まり、くるっと読者の方を向いた。
「それでは皆さん。これであたしたちのお話はおしまいです。皆さんになにかが届いたり、皆さんの心になにかが響いたりしてくれたらいいなって思います。ここまでお付き合いくださいましてどうもありがとうございました。あたしたちの物語はここで終わりますが、でも、それでもあたしたちの日々は続いていきます。それでも、もう皆さんと会うことはないけれど、それでも––––いつかまたきっと会えるって思ってます。あ、続編はあるんですけどそういうことではなくてね。とにかく次に会う日を楽しみにしています。重ね重ねありがとうございます。ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました!」
「あんた、誰に話しかけてんの」と、礼をする千歳に亜弥が突っ込んだ。
「じゃ、またね!」
穏やかな春の日。
実に楽しい日々だった。
LAST EPISODE
Thank You For The Youthful Days
the Eternal Triangle〜彼は彼女が好きで、彼女はあの子が好きで、あの子は彼が好きで……〜 横谷昌資 @ycy21M38stc
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