第四十四話 空飛ぶ魔物は
見事、暗殺者集団を返り討ちにした。それで得たものは現在の安心。
失ったものは未来の安心。
ハイドラント家との、つまらん因縁が出来た。
ミルキィも、何とか穏便に収まるように協力はしてくれるそうだが、期待は薄い。
息子を殺されて、大人しくしてくれる訳がない。
「やだやだ。他に五人の子がいるんだろ。一人くらい欠けても大目に見ろよな」
親子仲は知らないが、情よりも貴族家としての体面が、それを許さないと思われる。
ヤのつく方々と一緒。舐められっぱなしで終われない。
但し今回のこれは、流石に看過出来ない、大きな不祥事。
高位騎士が私怨で、他機関の人員を無理やり巻き込み、罪の無い協力者を闇討ち。
返り討ちで殺されたとはいえ、カルドの罪は問われる。
ハイドラント家も。
現在は少なくない対応に追われ、こちらに手が回らないに違いない。
「とは、ミルキィの見解。んー、大きくは外れていないか」
勉強はしているのだが、この国の司法が、何処まで遵守されているか分からない。
どの世界の法律にも言えるが、完全に守られるなんて思わないし、無暗に無視されているとも思わない。国家が維持できないからだ。
俺は、その塩梅が知りたいのである。
暫くは大人しくしてくれる筈だが。
迎え撃つ力を溜める時間は、あると信じたい。
「装備品も回収したかったんだけどな」
転移の魔道具や魔剣は、国の管理する備品だからと、返却を求められたのである。
これ以上、余計なとこに睨まれるのも馬鹿馬鹿しいので従った。
賠償金が少々上乗せされたが、割に合わないので嬉しくはない。
あと、転移の魔道具だが、返却前にラセリアに調べて貰った。
それは青い腕輪だったのだが、面白いことが分かった。
「この短距離転移の魔道具ですが、寿命を縮める危険性がありますね。気軽に使うようなものではないと思います。道具も使用者も使い捨て、という設計思想が見て取れますね」
との事だ。一回しか使えないとか、性能は予想通りではあったが、使用者のリスクに関しては想像以上であった。
「前に、召喚術について説明したことがあると思いますが、転移術も基礎となる術式部分は同じです。対象が自分であるというだけ」
「本来、物凄く手間が掛かって、危険でもあるのは変わらないと?」
「はい、そうです。なので、こんな雑に簡略化された行程で空間を超えたら、体細胞のズレ、魂魄に負荷など、よろしくない影響が多々出ますね」
「なるほどね……これは、どちらにせよ、カルドは使わなかったか」
固有スキルの影響ではない可能性もあったということ。今更どうでも良いが。
ミルキィは諸々の雑事を終わらせると、聖殿の調査へと戻っていった。
「結局、聖剣の封印は、どう処理するのかね?」
何時までも、あんな辺鄙な場所で、騎士達を遊ばせておくのも無理がある話だ。
誰も手が出せない様に迷宮を潰すか、又は……いや、まさか?
「だからこその英雄クラスか? うっわ、可能性高そう」
つまり今は、戦力分析中か。勝手に、向こうだけでやる分には問題ないんだが。
「うん、俺はもう関係ない。きっとそう」
彼女らの健闘を祈り、無関係であることも祈る。
全く謎ではない焦燥感を胸の内。
一時の平穏を無駄にしないためにも、今日も今日とて森の奥。
創力稼ぎの狩りである。
そろそろ【創力進化】がリセットされる。貯めて置きたい。
ただ最近、大物の数が減ってきた。
場所を移さないといけないのだが、候補地は湿地帯の先を考えている。
「雑魚狩りの方が好きなんだけど仕方ないか。新規狩場の開拓に取り掛からないとな」
高い岩山が乱立し、更に強い魔物が徘徊する、現在の俺でも危険な場所だ。
危険度が高い最大の理由は、魔物との相性の悪さにある。
巨大な猛禽類の群れ。鳥の頭と翼に、獣の体を持つ魔獣グリフォン。下位竜のワイバーンも見かけた。
飛行型の魔物が多いのである。空のアドバンテージが活かせないのだ。
耐久力と素早さもあるだろうし、確実に近付く前に仕留めるとはいかない。
現段階の手札では、何れ空中で接敵されてしまうだろう。
「だから、足を踏み入れなかったんだが、この魔法が完成した今ならいけるか」
手札が無いのなら、手札を増やせば良いじゃない。
そう簡単な話でもないのだが、楽をして倒すための対策は練っていた。
逆に楽を出来ないなら、攻略は次にお預けである。
「新魔法、ディスペル・スフィア。上手くハマればいいが……こればっかりは、試してみない事にはなー。結局一回は、リスクは冒さないといけないか」
俺の周囲から一定範囲の、魔法効果を解除するというものである。
光属性と闇属性を組み合わせた魔法である。残念ながら最強とは程遠い魔法だ。
薄く広がる力場で魔力に触れて、その力場ごと魔力を消失させる。という仕組みだ。
本人が魔力消失に巻き込まれない様に、少し離れた位置から外へ向かって放たれる。
何でもかんでも魔法を消せる訳ではない。
強い魔力が込められたものは無理である。それは、別種のディスペル魔法で対処しなければならない。開発中だ。
必要総力は百。範囲は半径十メートル。
創力を十増やす毎に、半径一メートルずつ範囲を拡大できる。
「半径一メートルでスタートが出来れば、なお良かったんだけどな」
最初の発動で、必ず勢いよく十メートル広がるのである。
それも些細な欠点だ。必要条件は十分満たしている。
何故、これが攻略の鍵になるかというと、大型魔物の飛行能力の仕組みにある。
あの大きさで、どうやって揚力を得ているのかという話だ。
素人の化学知識でも分かるだろうが、構造的にあれで空を飛ぶのは不可能である。
どれだけ翼が大きくて筋力があろうとだ。ホバリングとか論外。
でも実際に飛んでいる。何故か? はい魔力です。俺もそれで飛んでますので。
空中の挙動を観察するに、全身に浮遊力場を作っているのだと見ている。
それを狙うのだ。
「理想は墜落死。最低でも行動抑制を期待してと、最初は半径三千メートルでいくか」
創力を三万も使うが必要経費である。
まずは、どの程度の効果があるのか、安全圏から確かめないといけない。
高い木の上で身を隠して、ターゲーットを補足。
「グリフォンでいくか。一番理不尽な飛び方してるし。少しは羽ばたいて飛べよ」
ディスペル・スフィア発動。
「あ、落ちた。ああ、けど途中で体勢を立て直したか」
バタバタとしながら垂直落下。二、三秒程でまた上空へ。
間違いなく効果はあった。ただ魔法の持続時間が短いので、地面に落ちる前に飛行能力を取り戻してしまったのである。
「ま、余裕で攻撃する時間は作れた。成功だな」
念の為に他の魔物でも試していったが、概ね同じような結果を得られた。
準備は整った。
質と量を期待して、狩りを開始する。
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