千錯万綜
訃報と淵源
千錯万綜1
角頭が死んだ。
角頭は人物名ではなく、台灣の地元ヤクザの大親分の呼び名。もちろんグループは多数ある。今回死んだのもいくつものグループのうちのひとつ、そのうちのボスの1人。
人はいつか死ぬ、普通の話。問題なのは
無法地帯の魔窟は裏社会の人間達からしたら非常に魅力的、根城に欲しがる輩は後を絶たない。台灣のヤクザも例に漏れず、なまじ物理的な距離が近いこともあって九龍との小競り合いは頻繁。しかしこの角頭の力でいくらか抑えられていた節はあった。
それが消えてしまった現在。台灣での不幸を対岸の火事と眺める訳にはいかなくなり。
火花は九龍城砦のあちらこちらで散り始めた。
「まーた売人
台灣から流れてきた訃報からこっち、九龍では地域の関係なく死人が出ている。死んでいるのは一般市民ではない裏社会の住人ばかりだけれど──そもそも
「
「えっ!?
「いやそれは知らないけど…でも誰も怪我とかしてはないみたい。店が
「あー!!良かった!!」
お気に入りの女の子でも働いていたのだろうか。胸を撫で下ろす
街区を選ばず、のべつ幕なしに刃傷沙汰が起こるのはよろしいことではない。比較的安全だった中流階級エリアもハザードマップに入ってしまい
とはいえ角頭の他界によって巻き起こっているこの縄張り争い、次に台灣のシマで台頭してくる人物がどう動くかにもよるが、何年もドンパチが続くわけではない。
黙って遠くから眺めるのも手ではあるけれど───街を歩くだけで降ってくるトラブルを
「しょうがないんじゃない、敵とか来たら倒せばいいし」
「それ倒せる人だけが言える台詞よ…?俺は倒される側だからね」
敵、というのもなんだが、
「別にいつも俺と一緒に居たらいいじゃん。そしたら守れるよ」
「やだカッコいい」
モシャモシャと
そこへ、平安饅頭の袋を抱えた
「あれ、1人?
「学校迎え行こか思っててんけど、
裏社会と直接的な関わりが無い
「またなんか事件あった?」
「社公街あたりで揉め事。多分、死んだんとちゃうか」
平安饅頭を手に取り
「この前の天成楼のと関係あるのかな」
「いや…
様々な人間が九龍城砦での覇権を争っている。混戦に次ぐ混戦、正確な勢力図の把握は難しかった。
それに
まぁそれでも、目立つ動きをしない限り特に重大な問題には発展しないように思われた。
ある人物と出会うまでは。
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