眼鏡と工芸茶
往事渺茫 5
わざわざ確認する必要もなかった。
マフィアが揉め事起こしたらしいよ。やっぱ市内でも香港は物騒だよね。市内だからじゃないの。撃たれたとか?血ぃ、すごいって。警察きてる?あの道路通行止め。外国の子かな?死んじゃったみたい。
──外国の子かな?死んじゃったみたい。
ドクンと心臓が脈打ち
もう…遅い気がしていたから。
角を曲がる。街の喧騒がうるさい。裏通り、1本抜けて、2本抜けて、通行止め。一般人には無名で、
人だかりの間から覗き込んだ。血溜まりの中からちょうど誰かが運ばれていくところ。
わざわざ確認する必要もなかった。
「…………
周囲の人間が何やら口々に話している。聞けば、どうやら売人が持っていた
驚きはしなかった。悲しいというのも違うように思えた。いずれこうなることがわかっていた、そんな
「…………なんでだよ」
なんでもなにも、今更だ。全部今更だった。また。
道の端、物陰に隠れて落ちている、レンズの割れた
‘知り合いだ’と声を上げて駆け寄ることもできた。けれど、
行くあてはないな。行きたい所も。というより、全部どうでもいい。紫煙をくゆらせつつ
道路のあちこちに飛び出すネオンの看板。電飾の光がやたらと眩しく目に染みて、少し、視界がボヤけた。
◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆
「それから、なんもヤル気が無くなった俺はなんとなぁく裏社会に足を踏み入れました。そのままズルズルやってたらラッキーな事にご存知【黑龍】にスカウトされました。あとはこの前話した通りです。おしまい」
そう締め括ると、
「面白かった?」
「面白い…かは、わかんないけど、
「えっ!?ほんとに!?」
声の調子を弾ませる
「
「ん?悪くないよ。これ素通し」
言われてみれば、老眼にしては若いし近眼にしては
「外したほうがいいかな」
「なんで?大事じゃん。似合ってるし」
大事ではあるが。昔を引き摺り過ぎているような感じもした。
「
「ていうか
「一応ね、本体は
ふぅんと頬杖をつく
「うん。ありがと」
「何がいい?」
「
「任して」
席を立って台所へ向かう
「どした?」
「え?どうもしない、来ただけ」
「こーゆーのは、あとから出すから良いんだって。見た目も味わうやつだし」
「あ、花茶だ。可愛い」
「でしょ?前、
いつもの午後、【東風】店内に響く仲の良さそうな話し声。昼下りの
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