日常と閉幕
往事渺茫 4
それから
作物や動物、遺品は全て売り払って生活費に。残して行っても埋めて行っても誰かしらに奪われて同じ事をされるからだ。
けれど
たった1人だけ残った、同胞。
「お互い医者でもいいんじゃないの?」
せせこましい部屋に申し訳程度に附属されたベランダで煙草を吸いながら
ノートと参考書を広げて机に向かっている
「
手癖の悪さなど、そんなもの薬師になったって同じ事である。不満げな顔をする
「っていうか、もう煙草5本目でしょ。今日はそれでおしまいだよ」
「えー?まだ4本目よ」
「嘘つき。さっき隠れて1本吸ってたの知ってる」
「うわぁ!めざとい!お医者サマ怖い!!」
ことあるごとにぶーぶー言う
そんな生活の中、
心労からくるのだと考えていた。
フラッと流れ着いてさほど長居したわけではない
だけどいずれ…いつかは、癒えるはず。自分が手助けを出来るのかはわからないけれど。そう思い、
だがその見立ては甘かった。そもそも、
その時の自分の判断を、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
様子がおかしかった。
床に散らばる薄茶けた粉末。そこで気が付いた。いや、むしろどうして今まで気が付かなかった?
「
内心の動揺を悟られないように、なるべく落ち着いた声で問う。顔を上げた
「んなタチ悪ぃもんやめとけ」
「でも…僕、これが無いと…」
細い肩が震える。
「だって、忘れられないんだ…あの日の事…みんなが死んじゃって…それで…」
「おい、やめろよ
「だって…だって、だって」
症状はかなり悪化していた。完全な依存症。
なんにも、忘れられてなんていなかった。当たり前だ。もう助けるべき村も無いのに何故医者を目指す?信念があるから?違う。
あの過去が、まだ、足を引くから。
「僕はお医者さんになるんだ…それでみんなを助けて、それで…いっぱい勉強したんだ、ずっと、いっぱい勉強してたから…」
「わかったって、
「邪魔しないでよ!!僕はお医者様になるんだ!!その為には
「
思わず
「……俺が、用意してやっから。
泣き出す
なんだそれ。
けれど、やっぱり、次の言葉は何も思い付かなかった。結局自分だってひとつも変われていない…
あの夜と同じように冷たい風が、暗闇に沈む部屋を抜けた。
それからは、今まで以上に薬の研究に明け暮れた。薬というよりドラッグだったが。副作用があまり無くて、身体への悪影響も低くて、依存度も高くない薬剤。
そんなもんあるわけねぇ。
もっと早く気付けていれば大麻あたりの効能でもどうにかなったかも知れない。だが既に手遅れだ。
オリジナル配合。朝から夜まで、夜中だって、寝る間も惜しんで研究を重ねた。
バカみたい。薬師になって人を救うったって────こんなやり方あるかよ。
けれどそれ以外なかった。
本当に普通の日常。起きて、勉強をして、たまに良くないバイトもして、買い物に行って、飯を作って、寝て。
その日も
家を出る前、机で医学書を読みふける
「ちょっと出掛けてくるから。ちゃんと家で待ってろよ」
いつもは軽く手をあげて見送るだけの
「
「ん?」
「ありがとう」
唐突に礼を述べられ、返す言葉が浮かばなかった
それが最後だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます