嘘と切り札・前
枯樹生華 7
「…すごい降ってる」
「
「俺も」
とある午後、いつものお茶会の途中。
快晴だった空は一転して分厚い灰色の雲に覆われ、
近場の店の軒下に2人で逃げ込み、アスファルトにはじける大きな雨粒を見詰める。この様子だと暫くは止みそうにない。
九龍灣の波止場で海を眺めながら遊んでいたため屋根のついた場所まではかなり距離があり、スコールの様に降りしきる雨に2人の服は
「ビチャビチャだ、搾れるかも。こんなことになるなら海入っちゃっても良かったね」
天気いいし砂浜でも行く?えー準備してないよ服濡れちゃう、けど行きたいね…なんて、ちょうど話していたところだった。
「ふふっ!そうね!今度は行っちゃおうよ」
笑って頷く
と、ノースリーブのワンピースからのぞく肌に
「
あらわになった二の腕にある、無数の痣。
変色したその打撲痕は痛々しく、白い肌とのコントラストがよりいっそう異質さを際立たせている。
「こ、転んじゃったの!」
明らかに取り繕った言葉と表情。転んじゃった?いや、どれだけ派手に転んでも、こうはならない。
「本当のこと教えて?」
「……
どうやら、
しかし詳しく聞いていくと、
躾だとしても手を上げるのはどうかと思うが、ただの憂さ晴らしであればこの
「ごめん…俺、知らなかった…」
「え?
謝る
それでも気が付くべきだった。注意深く見ていればわかったことだ。
「人に言うような事でもなかったし…」
家庭内暴力は、本来であれば人に相談するような事のはずだが。───
「
「え?嫌いよ」
「えっ?」
想像と違う答えに
「嫌いよあの人。
「じゃあなんで転んだって…」
「だって
そういうことか。
「
「そうかな…でも
「それは
日頃の
唯一の近しい身内から‘お前が悪い’などと常日頃言われれば、そう思い込んでしまうのも無理はない。
大人でさえそういった
この状況、どうにか出来ないのだろうか。
「
「うん、おばあちゃん優しいから大好き。パパが死んじゃってからはあんまり会えてないんだけど…」
‘パパが死んじゃってから’。
祖母のもとへ預けてもらえないのは、伯父が
仕事を強奪するにあたり
このまま九龍での企みが進展しなければ伯父は機嫌を損ね、
‘伯父は嫌いで祖母と暮らしたい’と、その言葉だけを受け取れば問題は無いようにみえるけれど…。
だがこちらとしても、【黑龍】とアンバーの問題がある以上このまま見過ごす訳にはいかないのだ。
「
切り札をきろう。
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