第41話 危ない世界

「うわっ。いきなりかよ」

 周りに、影を展開して、ついでに足下を食らう。

 無機物は相変わらずまずい。


 その穴に入り、どんどん食われていく影を、追加しながら、上方の光が収まるのをまつ。

 周囲を探るために伸ばしていた影も、全部食われてしまった。

 一気に、力を使ったせいか、頭痛がひどい。


「しかし、あんなにひ弱だったのに、いきなり力を増したな」

 攻撃は、強力だが十秒も無かったと思う。

 そっと、影を伸ばし、周りを感じる。


 光は無い。

 飛び出して、奴を探す。

 様子見なんてしていたら、今のあいつにはやられてしまう。

 一気に影を周辺に広げる。


「はっ? なんで」

 奴は、必死で逃げていた。


 俺は訳が分からなかった。


 影を先行させ、足を捕まえ。面倒だからそのまま食う。

 無論、ゴロゴロと転がる。奴を感じる。

 ダミーじゃないよなと、周囲を警戒し確認。


「何もいない。あれだけの力があって、一発で逃げる? 訳が分からん」

 いまも、足は地面に付ける事が出来ず、四つん這いで逃げている。

 当然、手と膝を捕まえる。


 俺の足音に気がついたのだろう。くるりとこちらを向くが、手と膝が固定されているから、向くことが出来ない。


「ちょっと待て。もう俺には、おまえをどうこうする力は無い。何もしないから逃がしてくれ」

 奴は何とかして、こっちを見ようと、右や左に顔を振るが、人間そんな骨格になっていない。

 四つん這いで首がこっちを見たら、ホラーだよ。


「あれだけの力があって、どうしてだ?」

「あっあれは、終焉の光。刹那の時間、自身の下に繋がる奴ら。その命を燃やすものだ。もう使えない」


「はっ? 守るべき仲間を、武器に使ったのか?」

「俺さえいれば、また集められる。集めてもおまえ達には手を出さん。約束する」

 目の前で、後ろが向けず。きょろきょろしているこいつが、人ではなく、ひどく陳腐なモンスターの出来損ないに思えた。


「もういいや」

「や、あっ……」

 奴は本当に、抵抗も出来ず。一気に飲まれた。


 そこから警戒をしながら、進んでいくが、本当に静かだった。


 駅前。賑やかだったあの場所に、千数百は居るだろう。

 土下座ぽく蹲った。人だったもの。

 命令して、バッテリーとして使われた人たち。

 そのままの形で、そこにならぶ物を一気に食らう。


 周辺を探査するが、繁華街に人はいない。


「よし呼ぶか」

 仲間に向かって、オープンで呼びかける。

「繁華街確保。探検しようぜ」

「「「いくよ。久々、おデート」」」


 これは、花蓮達だな。


 つい最近まで、賑わっていた町。

 ぐるっと、今度は目で確認する。

 割られたドア。

 ひっくり返った車。


「パニック映画か、世紀末か。ゾンビはいないな。今はまだ…… かもしれないが」


 駅前広場の真ん中で、ぽつんと立ち。意識を広げていく。


 華やかな商店街のすぐ側。

 そこに広がる、飲み屋街。

 そこには、人が結構居る。

 いや居るし、出入りもある。

 この状態で、普通の営業をしているのか?


 ふと思う。おかしくなったのはこの辺りだけで、一歩外に出れば、変わらぬ営みがあるのではないか?

 一歩踏み出し、ためらう。


 くみ達も来ているはずだし、それからでもいい。

 ベンチまで、移動し腰掛ける。

 無論この状態でも気は抜かない。

 意識は広げ、警戒はする。


 次の瞬間。意識の端。頭の片隅で自分の首が落ちた。


 体の周りに、シールドを張り巡らせる。

 すると、すぐ後ろ。

 何もない空間から、ナイフが生える。

 いや、長さからすると、山刀か。


 横に薙いでくるその山刀を起点に、影を流し込む。

 影によって、浮かび上がる女の姿。

 中では、何かの力が働いている。


「あー光学迷彩的な物か。体温や吐息までコントロールできるのか。凄いな。仲間にも一人居るが、君のレベルには至っていないよ」


「やっと。いけ好かない。光野郎が居なくなったのに。おねえちゃん」

 そう言って泣き始める。

「お姉ちゃんじゃ、ないんだが」

「当たり前よ。あんたが、何かをしたんだろ」

「何が何?」


「あの光野郎が居なくなって、お姉ちゃんに声をかけたのよ。そこの広場に蹲っていたの」

「ああ、あの中にいたのか」

 そう言いながら、もう食ってしまった。返せって言われたらどうしよう?

 そんなことを考える。


「そのうち、全員光り出して…… 光が収まると、みんな死んじゃってたの。私じゃどうしようもなくて。このベンチで、みんなを見てたの。すると、あんたが来たのよ。そしたら今度は、みんなが消えて。あんた、上を向いてぶつぶつ言っていると思ったら、こっちへ来るし。私がどかなかったら、あたしの上に座るところだったじゃない」


「そりゃ悪いが、それでいきなり、首を落とそうとするか?」

「それは、なんとなく。美味しそうだったから」


「知っているか? 殺しに来たら、殺されても文句が言えないって」

 その瞬間。彼女は、力を発動して全力で逃げようとするが、顔以外には影がまとわりついている。逃走は無理だ。

「いやっ」

 彼女はそう言いながら、恐怖のあまりか、俺の影に包まれた状態で、お漏らしをした。


「あー。味のイメージが頭に広がる。しょっぱい。人におしっこ飲ますなよ」

「えっ。分かるの?」

「ああ。分かる」

「ひょっとして、あなた。私の体、味わっているの?」

「今は、外側で包んでいる状態だから、分からない」

「変態。離して」

「面倒」

 浸食した。

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