第28話 向かう未来

「なに? 全滅だと。あの3人。素行は悪いが、力は本物だったはずだ」

「ええ。ですが、No.4以降が中に入ったときには、すべてが消え去っていたようです」

「まあ惜しいが、また代わりは出てくるだろう」

 高そうな机の向こうでその人物は、椅子に座ったままクルクルと回り始める。


「何かの拍子に、力を手に入れる。そして進化。尋常ではない力を手に入れ。渇きを覚え人を殺し始めるか」


「おい大統領は、どうして回っているんだ?」

「新人か? 彼はああして世界を回すための、崇高な思考をしているんだ。じゃまをするな」

「イエスサー」



「どうして、こうなったの?」

 気がつけば一美は、一人になっていた。

 ちまちまと、小悪党を捕まえ食らっている。


「奏は最近、口を開けば、あのお方ばかり。何なのよ一体」

 この一週間、その状態もひどくなっている。

 だが今日は早々に、姿が消えた。


 奏は総の家に到着をすると、チャイムを押す。

 だが誰も出ない。

 庭へと周り、網戸を開けると、中へ入る。


 靴を、玄関にそろえると、総の部屋へと向かい。中に入ると。静かに座る。

 真っ暗い部屋で、ただ静かに。

 

 一方。随分仲良くなった杏果ちゃんに手を振り、見送られて帰宅をしてくる。

「あれ玄関に靴?」

 不思議に思いながら、洗面所で手を洗い。

 自身の部屋へと、向かう。

 探査をしても危険や警鐘はでない。

 だが、ふと繋がりを感じる。

「これは、一美の友人か」

 一週間が過ぎたことを思い出す。


 反対に、奏の方も、総が目前まで来ていることを感知している。

 そしてドアを開ける。

 言われたとおり、ひたすら我慢をした一週間。

 総を見た瞬間。思いが吹き上がる。

 涙と、鼻水。そしてよだれまで、噴き出す。


「ぐずっ。お待ちいたしておりました。お帰りなさいませ」

「おおう。ずっと、まって居たのか。ごめんね」

「いいえ。大丈夫です」

「じゃあ、約束だしね。力を与えようか」

 そう言って、抱きしめる。


 あああ。流れ込んでくる。主様の力。エネルギーと共に来る快楽。

 一時間後。つややかになり。軽やかな足取りで、帰って行く奏。


 ふと、総が、畳を見ると、彼女が座っていたところが、なぜかぐっしょりと濡れていた。


 あわてて、除菌消臭剤で拭き取り、ついでにドライヤーで乾燥させる。


 何だよ一体?


 晩ご飯を食べながら、テレビのニュースを見ていると、海外にある新興の宗教団体施設で謎の爆発があり。全員が、消滅したらしいと。何ともふわっとしたニュースが流れていた。

 画面に映し出されるのは、丸く切断された建物。

 その下側は、神殿だったようだが、柱がすべて無くなったため。今は立ち入り禁止のようだ。


「何か、変わった事件だね?」

 俺がそう言うと、父さんが珍しく話に乗ってくる。

「日本も、人ごとじゃないぞ。この数年で、行方不明者が爆増しているようだぞ」

「そうなんだ」


「まあ、そのおかげか、治安は良くなったが、どんどん人が減ると、社会が立ちゆかなくなる。困ったものだ」

「そうだね」


「アフリカで飛蝗現象が発生し、被害が拡大されています」

 映像には、一面を埋め尽くすバッタの姿があり。

 みるみるうちに、畑の作物がパタパタと倒れていく。

 その中で、おかしなものが画面に映った。

 人間の首に30cm位の大きなバッタが飛びつき、噛みつく。

 大騒ぎしながら、逃げ回り倒れる。

 そこでいきなり、画面が切り替わる。


「えー失礼しました。映像の方が途切れたようです。では次に、近年オーストラリアの沿岸では、鯨対サメの戦いが日々激化しているようです」


 マッコウクジラが、徒党を組んで。ホオジロザメを追い込んでいる。一角で戦いが始まっていく。一時期、増えすぎたホオジロザメのおかげで、人の被害が増えたことがあった。だがいつからか、鯨やシャチが覇者となっていく。


 またひげ鯨の類いも、魚に対して見境なく襲い始めた。


 とにかくどのニュースも、今までとは違う、そんな事を伝える。


 ライオンたちは、水牛の群れに潰され。大型の草食動物が覇者となる。

 そんな奇妙な出来事が、現実となっていく。


「ニュース内容が、色々ぶっ飛んでいるなあ」

「笑い話じゃないぞ。この前など、大量のGが、人を襲ったなんて言う話もある」

「へー何処で?」

「港の方だ」

 そう言われて、思い出す。


 あれは、Gじゃなくフナムシだよな。

 見た感じは変わらないか。

 そういえば、あの連中は何処に行ったのだろう?



「やっほー来たよ。って、何かこの部屋。生臭いというか。匂いがエッチい」

「そうか?」

 くみは、来た瞬間からヒクヒクと匂いを嗅ぎ、そんなことを言ってくる。


「ただね。残念だけど、出来ないから。抱きしめてキスして」

「ああ、それでいいなら」

 そう言って抱き合い、頭をなでながらキスをする。


「こういうのも良い。凄く良い。最近心が満たされていてとっても幸せ」

 そう言うと、疲れもあったのだろう。

 すぐに爆睡し始めた。

 いくら、力を得ても。一日数時間の睡眠だと、来る物があるよな。

 俺もすぐに、寝始めた。

 だが朝方奴は、別の方法を思いついたのだろう。

 僕の大事な力を。ごっそりと盗んで行きやがった。

 文字通り、吸い取られた。

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