第10話 密かに広がる変死事件
とある、所轄警察署。
「またですよ。法医の先生が、体液がなかった。って、行政解剖の鑑定書を出してきていました」
「ちょっと、地図を出せ」
若い方が、地図を持ってくる。
報告書類を見ながら、住所をマークしていく。
「関連性は特になしだが、電車の沿線なのは間違いないな」
「じゃあ大型の蜘蛛じゃなく、人間ですか?」
「ああ。それは素晴らしい意見だ。蜘蛛が、電車に乗っていないか、聞き込みするか?」
「そうですね。操車場。車両基地でメンテナンスの際。車両の台車付近とかに、張り付いているのを、見ていないか聞き込んできます」
「うん? あいつ、蜘蛛だと思っているのか? 俺は人間による猟奇的殺人だと思ったが。ふむ。血を抜いて殺し。遺体をネバネバした蜘蛛の巣へ。巣を作るのは大変だし、あの糸。本物だと検査結果が出ている。超大型の蜘蛛の方が無理がないのか?」
捜査は難航していた。
この周辺では、毒殺や鋭利な何かで刺されたもの。変死が続いている。
ああ間違えた、この周辺でもだ。
この数年で、変死は凄く多くなっている。
傷跡のあるもの、無いもの。
事故か自殺か判断が付かないもの。
それが世界中で、まるで伝染病のように広がっていった。
多くの犯罪者が、私刑に掛けられていると、どこかの新聞が報じたことがある。
確かに多い。だが、それだけでもないのが現状。
人口の多い国や、元々犯罪の多い国では、ちょっと事情が違うようだ。
頻繁に特殊能力とか、力ということを表す単語が、流れている。
そして、その固まりが、グループを作り、他のグループ同士での抗争が発生。
その抗争は、一般人の想像を超えた凄惨なもので、いくつかの地域そのものが放棄された場所がある。そして、そこに巣くうのは人間ではないと、警官どころか軍も手出しをしない。抗争初期に突入した軍は、戦車ごと細切れにされたそうだ。
一方で。
「また船が沈んだそうです」
「タンカーだろう。それも30万重量トン級」
「ご存じでしたか?」
顎で指し示す。
傍らのテレビには、燃え上がるタンカーの上で、ヘリが中継をしている。
船の周りを、頭に複数のとげを生やした、鯨が泳いでいる。
「あれは鯨ですか? 見たことがないタイプですね」
「「あっ」」
画面に向かって、とげが飛んでくる。
見事に撃ち抜かれて、ヘリが撃ち落とされる。
当然、ニュースにもならないが、海中でも同じ。
静かな、最新鋭潜水艦は大丈夫なようだが、旧型のものは多数撃沈されていた。
海中生物のじゃれつきによって。
こんな世の中を見て、世界がカホピの道を進んだと、密かにうわさの流布が始まる。
あるものは黙示録が始まったといい、あるものはクトゥルフは現実になったと訴える。
そして。
「明智くん。つ~ぎ~よ~しぃ~くん。あ~そぼ」
矢継ぎ早にチャイムが鳴らされる。
「何だよ一体? 朝っぱらから」
「おう。おはよう。じゃあ出せ」
そう言って手を伸ばす。
「なんだ。なにを」
「スマホ」
俺はにっこりと笑う。
「くみに続いて、花蓮とも付き合うことになった。花蓮の巾着姿。あのとき胸まで写っていただろ。彼氏としておまえのおかずになるのは許せん。出せ。それと、馬鹿みたいに電話するな。いいな」
丁寧に説明したのに。こいつは、目と口を開き。固まりやがった。
「黙るなら、耳と目を閉じ口をつぐむものだ」
そう言って、ポケットをまさぐる。
スマホを取り出し、顔認証なので、目の前にいる埴輪に向けて解除をする。
「写真。写真。どれかなーって!!」
うーん。ギルティ。
この前、会ったときの。
この、にゃんこキャラは覚えがある。
机の下からの激写だな。
スカートの中が、1ま~あい。2ま~あい。3ま~あい。あ~沢山。ポチポチと選択。削除。
よし。そっとポケットに返す。
一応、電話。いや通信アプリでいいか? 体調を聞こう。
そう思いながら、てくてくと帰り始める。
すると、後ろで叫び声が聞こえる。
電話の着信と共に、奴が走ってくる。
響き渡る、ベルの音。
位置特定のために、ベルを鳴らしたか。やるな明智君。
手元でのチリリンと言う音。必死の形相で走ってくる。明智くん。
うん。怖いな。だが、斉藤総。むざむざやられはせん。
ラリアットとアックスボンバーどっちで受けよう。
右肘を曲げ、待ち受ける。あっサポーター忘れた。
首はまずいから、胸辺りに一撃。
彼は、見事に、一回転して座り込んだ。
「かなり軽くやったのに。おかしいなあ」
そうぼやく。
僕の顔を、下から、恨めしそうに見上げてくる。明智くん。
「僕の大事なコレクションが。僕のすべてが。何をしてくれるんだ」
「いや、普通に盗撮は犯罪だ。警察に行かず。消しただけ良心的だと思ってくれ。友情裁量だな」
「犯罪? そんなもの知ったことか?」
「本気か?」
じっと見る。
奴が下がる。一歩前に進む。奴が下がる。
「あー君達。喧嘩かね?」
「ああ。おまわりさん。こいつが」
「わー。おまわりさん。僕たち遊んでいただけです。とっても仲がいいです」
素早く立ち上がり、肩を組んでくる明智君。
「何もないなら、いいのだが。最近物騒だから。それと、道路で遊ばないように。分かったね」
「「分かりました」」
なぜか、息ぴったりに頭を下げる。
警官二人は、まだこっちを、時々見ながら去って行く。
「あーそうだな。犯罪はいけないよね」
微妙な笑みを浮かべながら、明智君が殊勝なことを言ってくる。リアルおまわりさんが、効いたのか?
「花蓮ちゃんに、同意の上で撮らせてもらおう」
「だから。それをするなと。言っているだろうがぁ」
あっ、つい手が出た。
ひっくり返った明智君を引きずり、玄関先へ運んで放りこむ。
また、ポケットをまさぐり、認証解除。
連絡先から、2人の名前を削除する。
残りの連絡先は、俺と、学校。それに両親の携帯かな。
探すのが楽でいいね。
そっとポケットに戻すが、なぜか涙が出た。
俺の携帯も、連絡先は、7つだ。
当然一つは、自分の番号。
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