第11話
ある日の夕方。学校から帰宅した雪丸はにまにまと笑顔を浮かべながら、機嫌良さそうに宿題と向き合っていた。
「どうしたの、雪丸くん。さっきからにやにやしちゃってさ」
テレビを観ていた信幸だったが、あまりにも雪丸が楽しそうで、口笛まで吹き出したのでテレビから顔を逸らし、そう尋ねた。
信幸の問いかけにその言葉を待ってました、と言わんばかりに雪丸が口を開く。
「聞いてくれよ! 実はさ、毎日同じ電車の、しかも同じ車両に乗ってる女子がいるんだよ! これって間違いなく運命だろ!」
雪丸は机をダンッと力強く叩きながら、そう熱狂的に言葉を発した。
これは絶対に運命だと熱く語る雪丸を見つめる信幸と紙飛行機を作っていた晴暁の目は完全に冷めていた。
「いや、偶然だろうな」
「つうがく」
冷めた目と同じくらい冷めた口調で二人はそう言った。しかし雪丸は食い下がる。
「い、いいや、これは運命なんだ! たぶん向こうもそう思ってる!」
「絶対気にしてない」
「きづいてない」
「うぐっ」
信幸と晴暁の冷静かつ的確な言葉に、雪丸はうめき声をあげてうずくまった。雪丸は妖怪や陰陽師の存在は信じていなかったが、運命だとかそういうものは昔から信じるタイプの人間だった。今だっていつ運命の人と出会えるのかと毎日楽しみにしている。
「絶対、あの子が俺の運命の人だと思うのに」
「雪丸くんはたぶん、今までにも同じようなことを言ったことが何度もありそうだな」
ぼそりとつぶやく雪丸に、信幸はそう言った。そんなことない、と雪丸は過去の記憶を思い出す。
「えー、そんなことないって……小学校のときに同じ調理チームになった子とか、中学で三年間同じクラスだった子とか、そのくらいだって」
「恋に恋してる、といったところか……若いな」
「そんな目で見るな!」
運命を信じる雪丸を、信幸は生暖かい目で見つめた。話をしながらも、紙飛行機を作っていたはずの晴暁も雪丸を見て、眉を下げて苦笑している。
「運命はな、絶対にあるんだよ!」
ほんとだぞ、と息巻く雪丸に信幸はにたりと笑った。
「ふぅん、そんなに運命運命と言うのならば、俺たちも運命と言うやつじゃないか? ほら、俺も雪丸も名前にゆきが入ってる」
「男との運命なんて願い下げだ!」
雪丸が欲しいのは通学路でぶつかった相手が実はクラスメイトだったとか、本屋や図書館で取ろうとした本が偶然同じで手が触れ合ってしまうやつとか、そんな運命だ。しかもできるならかわいい女の子との。
「くっそー。絶対女の子と運命の出会いをしてやる」
「はは、頑張れ」
「がんばれー」
「心のこもってない応援、どうもありがとう!」
やけくそになって雪丸は叫んだ。
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