第87話
「雰囲気は完全に日本のお祭りだよな」
イルミネーションのある通りの手前にある屋台で、パレードが始まるまで時間を潰すことにした俺たちは、一頻り屋台を楽しんだ後、メインストリートの噴水前にて休んでいた。何でも、片方の勇者が抜け出して遊んでいた性で、パレードの予定がズレたらしい。何やってんのあの人。
「先程、このパレードは勇者殿が立案したと聞きましたが、これらの屋台は全てマワル殿の世界にあったものなのですか?」
「あぁ、毎年の様にあるイベントだよ。人によっちゃ行かないなんてのもザラだけど……俺は弟に誘われて毎年行ってた」
俺は本来、人が大勢いる所は余り得意では無いのだが、我が最愛の弟に誘われて行かないという選択肢があるだろうか?
いや、ない。俺の弟は儚くて、凛々しくて、格好よくて、そして何処かぬけてて可愛い……そんな神の奇跡の様な存在を、一人であの人混みに行かせる勇気は俺には無い。俺は毎年、弟にぶつかった奴を一人ずつぶっ〇していくつもりでお祭りに挑んでいたものだ……。
懐かしき戦場の香りに思いを馳せながら、(匂いは)イカ焼きに似たものを齧った。うん、味も完全にイカ焼きだ。この世界にもイカ、居るんだな。
「この規模の行事を勇者の責務と同時に行うなんて、勇者様は凄いですね〜」
「あの人、頭のネジは飛んでますけど、基本的に"超"有能なんです」
俺たちの人生をすごろくに例えると、俺が一日一個しかサイコロを触れないとしても、煉司は三つ振れるだろう。それを考えれば、煉司も大概頭おかしいのだが、会長はそもそもサイコロを振らない。
あの人は俺達がせっせと行動している間にに、一気ゴールに直通するワープカードを使う。まじで料理と人間関係以外は何から何まで完璧な人間、それが会長だ。
「マワル殿がそこまで言うとは……流石、勇者に選ばれるだけあって多彩なのですね。この『じゃがばたー』なるものも美味しいです!」
「……うん、味わって食えよ」
「?」
俺の複雑な心境から出てきた小さな声にハルが首を傾げてじゃがバターを頬張る。……いや、俺もマジで感謝して食べないとな。
……何で感謝するかって?そりゃあ、お前、この料理を再現するために会長の料理の犠牲となった人達に決まってんだろ。多分、途中からは王城に居る料理人とかに作業がバトンタッチされたと思うが、あの人自分が料理上手だと勘違いしてる節あるからな……。
味を再現しようと進んで、我先にと厨房に入っていく会長の姿がありありと浮かんでくる。そして、生み出したその物体xを意気揚々と煉司や他の人に……。
「おっ、おい、どうした!?やっぱ、なんか、やべぇもんでも入ってたのか!?」
「いえっ、この料理のために何人も死にかけたと思うと、辛くて……!」
普段であれば、俺とセバスさんが真っ先に被害に合うのだが、この世界には両者ともに存在しない。つまり、被害に合うのは俺の親友だ。
会長は味見をしないのかって?……あの人の害悪すぎるところは、自分で作った料理を決して口にしないところだ。何でも『一流の料理人は自分の料理を口にしないものなのさ。だって、美味しいって分かってるからネ!』との事だ。
そういう事は一回、自分の飯食ってみてから言えよ!!!アンタのは料理じゃなくて、具材を燃やして悪魔合体させてるだけなんだよ!何でホットケーキ作ろうとして、黒色のフリスビーが出来るんだよ!?
焦がすにしたって限度があるんだよ!後、何であんなに死ぬほど硬くなるんだよ。噛んだセバスさんの歯が欠けるとか、どうなってんだ。
懐かしい思い出を振り返りながら、イカ焼きを食べきる。……うん、この料理に関わったこの世界の人達へ心の底からご冥福の言葉を送ろうと思う。さらばだ、煉司。お前は最高の親友だったよ。
「____あっちですわ!」
「____えぇっ!?いや、逆方向だと思うよ……!?」
我が人生最高の親友へ供養の言葉を唱えていると、後ろで何やらお嬢様みたいな口調の人と、聞くからに爽やかイケメンっぽい青年の声が聞こえてきた。……やはり、お祭りにはカップルが引き寄せられる運命なのか。非常に妬ましい限りである。
「でも、俺もそんなにここら辺の道に詳しいわけじゃないし……あっ!」
嫉妬の念を後ろのカップルへと送っていると、何やらその二人組の声が此方へと近付いてくる。
「あの、その着ぐるみ着てるってことは、運営の騎士団の方ですよね?ちょっと、道を教えて貰いたいんですけど……」
……成程。どうやら、会長が作った着ぐるみを着ている性で運営の人に間違えられたみたいだ。それにしても、どっかで聞いたことのある声だな。まぁ、世界は広いし、聞き覚えのある声くらい、この世に溢れてるか!
てか、なんか、フロストの兄貴とシスターは固まってるんだろうか?もしかして、食べすぎてお腹でも痛いのだろうか??
「あ、あの、聞こえてます?」
「……」
……ふん、よかろう。イチャイチャカップルの分際で、着ぐるみ姿のこの俺を笑いに来たのだと言うのなら、お前ら二人ともオムツ履かなきゃいけないくらいびっくりさせてやんよ!
……よし、行くぞ!振り付きざまの大声量に腰抜かすがいいさ!
「__カップルがオレに話しかけるんじゃねぇモオオオ……ぉ?」
「えっ」
俺と青年は互いに目線を交わし、そして同じように固まった。いや、マジかぁ。……うん、まさか、そんな偶然エンカウントするとか思わないじゃん。
「………あの、一つ、聞いていい?」
やたらと爽やかな雰囲気のイケメンが、困惑した表情のまま一度大きく深呼吸をする。……うん、世界を好き勝手に回ってる親の顔より見たイケメンだ。
「……ナンダモウ……」
「廻はこんなとこで何してんの?」
……そんな名前シラナイモウ。
異世界来たのでガチャを回します!〜最強何それ美味しいの?〜 あるたいる @sora0707
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