第86話

「変なのが混じってる〜?この警備が頑丈な王都にですか〜?」


「えぇ、アルマさんが言うには、ですけど」


 早速三人にアルマさんから忠告されたことを伝えると、三人揃って悩ましげな顔をした。


「お前はそれを信じんのか?そんなあやふやで不明瞭な忠告を?」


「……そうなりますね」


「拙者はマワル殿が信じると言うのなら、その決定に従いますが……本当にアルマ殿の忠告を信じていいのですか?」


 おい、誰にでもお人好しのハルにここまで心配されるとか、アルマさん信用無さすぎるって。いや、出会って一日で信用を勝ち取れてたら、それはそれで気持ち悪いか。


だけど、ここまで疑われるのは、あの人の全身から胡散臭いオーラが湧き出てる性だと思う。基本的にはいい人なんだけど、見た目と雰囲気がなぁ……。


「別に俺が信じるからって、三人がそれを信じる必要なんて無いですよ。俺はあの人に何度も助けられてるので信じますけど、三人は心の隅っこに留めて置く位でいいと思います」


 俺だって最初からアルマさんを信じていた訳では無い。寧ろ、胡散臭すぎて殆ど話半分で聞いていた。それが今となってはここまで信頼を置く間柄になったのは、あの人が根っからの世話焼きなのだと気付いたからである。


何だかんだ文句を言いつつ会長の事を守ろうとしているし、怪しげな笑顔で捨て猫を保護していたりもする。果てには気持ち悪い笑みで煉司のケツを触った__いや、最後のは駄目だ。良いとこもあるが、セクハラ野郎であることも忘れてはいけない。


 それはさておき、あの人の忠告は基本的に相手を気遣っているが故だ。そこに悪意が全くないからこそ、俺も、根っこの部分では人と距離を取りがちな会長もあの人を信頼しているのだ。


「うーん、マワル君がそこまで言うなら、一応準備だけ整えておきますか〜。どうせ、私達の仕事はマワル君の護衛ですからね〜。マワル君がその忠告を念頭に置いて行動するならそっちに合わせた方が良いでしょうし〜」


「ありがとうございます」


「マワル君には返してない恩がまだまだありますからね〜。その位の事でお礼なんていりませんよ〜」


 返してない恩とは言うが、そこまでのことはしてないと思う。基本的にシスターとかハルの凄まじい戦闘能力のお陰で何とかなっているだけだし。


「マワル殿が信じると言うのなら、拙者も信じるのみです!」


「別に無理に全部信じる必要は無いぞ?あの人胡散臭いし」


「いえ!拙者はマワル殿を信じ抜くと決めていますので!」


 ハルが何故そこまで俺を信じてくれるか分からないし、時々無理してるんじゃないかと疑ってみたりするんだけど……本当に目が真っ直ぐすぎて、毎回疑ったことを謝りたくなるんだよね。なんなら今も謝りたくなったよ。素直な良い子過ぎるよこの子。


 ……方や、人の善意を疑う俺、か。全く、俺がこんなに人を疑うようになったのは、アルマさんが胡散臭いせいだから、アルマさんが全部悪いってことにしておこう。


「……ここで、俺だけ足並み揃えねぇってのは無理だろうが。まっ、、俺はあくまで護衛だ。護衛主の指示にはある程度従ってやるよ」


「そんなにアルマさん胡散臭いですかね」


「言っちゃ悪いが、雰囲気が詐欺師のソレだ」


 兄貴が言いたいこと、めっちゃ分かる。……好みのタイプに『胡散臭いから』って理由で悉く距離を取られてるだけあるぜ!せめて、あの謎の化粧落としたらもうちょっとマシに……いや、そしたら雰囲気が謎の黒幕になったんだった。


「まっ、取り敢えず、今日のところは大丈夫みたいですし、気兼ねなくパレードでも回りましょう」


「あのなぁ、幾らコイツらがア____ゔぅん。単純だからって、そんな風に切り替えられるわけ……」


 今、絶対に二人のことを「アホ」って言いそうになってた。


でも、確かにフロストの兄貴の言う通りだ。俺も、ちょっと固くなり過ぎた雰囲気を切り替えてみるために言ってみたりしたが、内心では『変なの』とやらの正体が気になりまくってるわけだし。


アルマさんが言うからには、本当に今日明日は平気なんだろうけど、気になるものは気になってしまう。


 それは、他の二人も同じはずで______


「あっ、マワル君〜!見たことない食べ物が売ってますよ〜」


 ……。同じはずで_____


「__ま、マワル殿、何やら『きんぎょすくい』なるものがあるのですが、御一緒に如何ですか!」


 _____同じじゃないみたいだ。


「…………」


「……言いたいことは分かるが、無言でコッチを向くな。怖ぇよ」


 俺はそれぞれ別の方向へ俺の腕を引っ張ってくる二人(着ぐるみの為おっぱいの感触は分からない)から顔を逸らし、疲れたように溜息を吐いているフロストの兄貴の方へ顔を向ける。そういや、俺、虚無な瞳した着ぐるみだったわ。


「まっ、それだけそいつらは、お前のことを信じてるってこった。___ほらっ、行ってこい」


 ズルズルと引っ張られている俺の背がバシッと叩かれる。


 そこまで信じてくれる様な事をした覚えは一切無いが、二人の笑顔から察するにそれは決して嘘偽りでは無いのだろう。なら、俺に出来ることは、その信頼に応えられる様に必死に頑張ることだけだ。


 ……今日のところは、煉司の顔を見れるように頑張るだけだけどな。

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