第85話

 パレードを見に行くために宿屋を出た俺は、先ほど購入した着ぐるみを装着した。


「マワル殿がまた珍妙な格好に……」


 俺の姿を見たハルが呆然としながら呟く。……だって、こっちの方が変態感無くなるんだもん。俺も別に好きで着てるわけじゃないし、多少なりとも珍妙な格好だったっていいだろう。……まぁ今の格好は多少じゃ済まないけどな。


「マワル君、可愛いですよ〜」


 ……ニコニコしながら言うのやめようか、シスターは。俺が痴態を晒すのを見て、笑顔になるとかやっぱりこの人おかしいよ。俺は別にスターを笑顔にする為にこんな格好してるんじゃないんですからね。


「シスター、笑ってないでさっさと行きますよ」


「は〜い〜」


「ハルとフロストの兄貴はちょっと離れてても良いですよ。流石にこんな格好のやつと歩くの恥ずかしいでしょうし」


「い、いえ、そんな事は……」


 ハルは俺の事を気遣ってそんなふうに言ってくれる。それに引き換えシスターはさぁ……人の心とか何処に置いてきたの?


「マワル君マワル君、私は離れてちゃ駄目なんですか〜?」


 人の心をゴミ箱にダンクシュートした疑惑が出てきたシスターが、そんなことを言って俺の隣に並ぶ。


「シスターは別に、他人からの視線とか気にしないじゃないですか」


「そんなことないですよ〜?」


 人からの視線が気になる人は、街中を血塗れな身体で徘徊したりしません。後、オークの頭をそのままギルドに討伐の証として持ってきたりしません。……マジでフロストの兄貴のクエスト達成報告を見習って欲しい。


 別に綺麗に解体して、マジックバッグに入れてこいとは言わないから、ずた袋とかに入れて報告に来よう?オークの頭をカウンターに並べられる俺の気持ちとか考えよう。


「そんな笑顔で言われても説得力ないです。あっ、ところで何ですけど、パレードって何やるんですか?」


 いつも通りニコニコしながら俺の隣を歩くシスターを放って、俺がいない間に色々と調べてくれていたらしいハルとフロストの兄貴に話を聞いてみる。


「パレードってのは軍による演武やら行進とかはあるが、基本的に豪華な馬車に乗って、俺らみたいな庶民に手を振るってのが普通何だが……」


「今回は違うんですか?」


「なんでも今回は勇者殿の案で少し趣向が変えたらしいのです。光の魔道具や魔法を使った『いるみねーしょん』とやらで大通りや馬車を装飾しているのだとか」


 ……うわぁ、絶対会長の案だろコレ。あの人、イルミネーション大好きなんだよな。元の世界でも財力を活かして自分の家を息を飲むレベルで豪華な飾り付けにしてたし。


会長のお父さんが夜中だろうが構わずライトアップする会長に対して、泣いて許しを乞いていたのは記憶に新しい。


 毎年毎年、クリスマスになると会長の屋敷で行われるパーティーに強制出席させられ、年色々な面倒事に巻き込まれたのも今となっては良い思い出……いや、良い思い出ではないな。


 ……あー、てか、成程。だから、昼間じゃなくてこんな夕方と夜の境目にパレードがあるのか。普通は昼だもんな。


「今頃、大通りは大賑わいだろうな。昼の時点で結構な数の奴らが居たし」


「『いるみねーしょん』の手前には勇者殿の世界の食べ物が売っている屋台なども出るらしいですよ!」


 ……全く、何処までも自分の欲望に真っ直ぐなところは一切変わっていないらしい。てか、勇者業務と一緒にそんな激務をこなしている辺り、相も変わらず死ぬほど有能な人である。


それと同時に大分抜けてる所も相変わらずなんだろうけど。パレードに出席するの嫌がってた癖に、催しごととか大好きな所も相変らずだ。カリスマあるんだから矢面に立たされるのなんて分かりきってるくせに、懲りずに色々と企画しては泣きを見ていたのを覚えている。


「開始時刻は大体後一時間後ってところか?勇者の顔が見てぇなら、さっさと馬車が通る所に移動した方が良いと思うぜ?」


「この格好で勇者の通る道を張ってたら警備の人に捕まったりしませんかね」


 俺のそんな懸念に微妙そうな顔をする三人。……うん、その顔から分かるよ。捕まる可能性、あるんだね。


「その点に関しては平気よ」


「___うぉっ!?……なんだ、アルマさんか。驚かせないで下さいよ」


 いきなり俺たちの背後から発せられた声に勢いよく振り向くと、そこには胡散臭さ満載の格好をした美丈夫ことアルマさんが居た。


「あら、ごめんなさいね。ちょっとしたイタズラみたいなものよ。__だから、武器から手を離してくれると助かるわね?」


 アルマさんの視線の先を見ると、臨戦態勢で固まった三人の姿が目に入った。……この人、本当に気配消すの上手いんだよなぁ。


「……一目見た時から思ってたが、アンタ何者だ?」


「今は唯のしがないデザイナー。それだけじゃご不満かしら?」


 臨戦態勢を崩さずにそう問いかけたフロストの兄貴に対して、目を細め、怪しい笑みを浮かべたアルマさんが答える。……いつ見ても胡散臭い人である。


「不満っちゃあ、こんな往来で武器を抜くのは俺らの護衛対象が嫌がりそうなんで止めといてやるよ。ただ、次は無いぞ?」


「あら、ありがとう。アタシもちょっと急いでるから此処でいざこざを起こしてる場合じゃないの」


「なら、変に脅かしたりしないで普通に来て下さいよ」


「ごめんなさいね、コレは性分みたいなものだから、ちょっとやそっとじゃ直らないのよ、オホホホッ!」


 笑い方まで胡散臭いや。まぁ、頼りになるのは頼りになるから、多少なり胡散臭いのは許容せざるを得ないけども。


「それで、俺の格好が平気なのは何でですか?」


「パレードではアタシが作ったマスコットの着ぐるみ達も出るのよ」


 子供によってはイルミネーションに興味が無い子もいるかもしれないからな。……そこら辺の配慮だろうか?


「……この着ぐるみの製作者アルマさんだったりします?」


「大正解〜!……って、言いたいところなんだけど、ソレはあの小娘のデザインね。あんまりにも売れないから露店で売らせてたのよ」


 ……可哀想な会長。あの人、絵上手いのに絶妙にデザインが可愛くないんだよな。ちょっと気に入っている俺が言うのも何だが、売れないのも必然だろう。


「態々、それ言いに来たんですか?……その顔はなんか別件ですね」


「そりゃあ、そうよ。この程度の裏話なんてまた会った時にでも話せばいいもの」


 そこまで言った、アルマさんが俺の耳元に口を近付ける。背筋にゾワッと冷や汗が出てくるが、この人の忠告に無駄なものが無いことを、身をもって知っている俺は、逃げたい気持ちに蓋をしてそのままアルマさんの言葉を聞く。


 それにしても、なんで俺だけに_______


「__詳しくは分からないけれど、なのが街に入り込んでるっぽいわ。その三人と居れば問題ないとは思うけれど……もしもの時に逃げる準備はしておきなさい」


「……アルマさんがそこまでふわふわした忠告するのって珍しいですね」


 アルマさんは何処で何が起こるかとか、鮮明では無いもののある程度輪郭のある忠告をしてくる。そんなこの人がここまであやふやな忠告をしてくるのは珍しいと言える。


「……アタシもまだこの世界に慣れてないのよ。一応あの二人にも忠告してくるから、マワルちゃんも少しでいいから警戒しておいてちょうだい」


「わかりました」


「そこの三人に話すかは任せるわね。ここまで信憑性の無い忠告だと信じてくれない確率の方が高いし」


 ……成程、俺にだけ話したのは三人に話すかどうかの判断を俺に委ねるためか。アルマさんから話すより、付き合いの長い俺から話す方が、納得してくれる可能性高いしな。


「パレードの前に不安になるような事言って、ごめんなさいね?少なくとも今日、明日は絶対に平気だから、安心してパレードを楽しんできてちょうだい」


「アルマさんも一応気を付けてくださいね?どうせ、平気だと思いますけど」


「あらあら、乙女は男に嘘でも心配して欲しいものなのよ?」


「それなら、もうちょっと弱そうなオーラ出してください」


 相も変わらず怪しさ満点のアルマさんは、俺の言葉に妖しく笑うと、この場からスタスタと歩いて去って行ったのだった。

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