第84話
シスターとの買い物を終えた俺は、宿屋の一室にてフロストの兄貴に買い物の成果を見せびらかしていた。
「なんで更にチンケな格好になってんだ?」
「いや、ちょっと楽しくなっちゃって……」
シスターと買い物をした結果、更なる変化を遂げた俺の姿を一言で表すのなら_______不審者一択だった。
金のヒーロースーツに牛の被り物。更には絶対呪われてるようにしか見えない髑髏の紋章が多々入ったチャンピオンベルト。……うん、どっからどう見ても化け物だね。
「俺は気晴らしに行けって言ったんだぞ、更なる変化を遂げてこい、なんて言った覚えは無いんだが」
「なんか、途中から俺もよく分かんなくなったんですって」
どんだけふざけた格好してもシスターが『似合ってる』って喜ぶから何処まで許容されるのか気になってしまったのだ。結果として、基本的にどんな格好だろうとシスターは肯定してくれました。
……なんなら、笑顔でビキニアーマー着させられかけた。あの人、俺の尊厳地面に叩きつけようとしてるよ。てか、ビキニアーマー存在してたのかよ。嬉しいような、嬉しくないようななんともどっちつかずな微妙な感情がせめぎ合っている。
そんなよく分からない気持ちを頭を振って振り払った俺は、いそいそと先程購入した牛柄の着ぐるみを着た
「一応、牛のコスプレ出来るようになりました」
「……何に使うんだ」
「大自然に放牧された時に使えます」
「されるか!……いや、あのギルドマスターなら或いは」
考え込むように黙ったフロストの兄貴。……いくら冗談でもそんな怖いこと言わないで欲しい。口に出すと本当に起こるかもしれないから辞めて。
「ヒーロースーツよりは変態度下がりません?」
「それは、そうだな……」
あの格好は『ヒーローである』と元の世界では認識されていたからこそ、コスプレとして成り立っていた。……だが、残念ながら、この世界にはニチアサなんて存在しないため、唯の変態に成り下がってしまうのだ。
それに引きかえ、この着ぐるみはどうだ?顔は確かに可愛くないが、多少なりともこの世界で『コスプレ』感が出せる。変態から変人にまでランクアップ出来るのだ。ヒーロースーツよりも動きにくいと言う難点はあるものの、中身の秘匿性はヒーロースーツよりも高い。骨格とかも分からないし。
「それにこっちの方が子供に人気出そうじゃないないですか?」
「お前がそれでいいなら別に良いけどな?扉通りにくくなるぞ」
フロストの兄貴の言う通り、何せこの着ぐるみを着ると図体が一回り二回りほどデカくなるので、先程までスムーズに通れていたはずの扉が通れなくなってしまう。しかし、その程度の困難、俺にとって何の障害にも_______
「_______くっ、頭がっ……!」
「……言わんこっちゃねぇ」
無理やり扉を通ろうとしたところ、着ぐるみの無駄にデカい頭が挟まってしまい、身動きが取れなくなってしまった。そして、そんな俺を見たフロストの兄貴が呆れたようにため息を吐き、頭が挟まった俺を引っ張り出してくれる。
「宿屋で着るにはやはり無理があるか……!」
「別に宿屋とかこの近辺なら変装する必要も無いんじゃないか?」
「……いや、あの人やたらと間が良いんで、丁度着てない時に限って鉢合わせしますよ」
俺にとっては、間が悪いことこの上ないのだが、あの人の野生の勘と言うやつは本当にげに恐ろしいのだ。お嬢様の癖して、何であんなにえっぐい精度のセンサー持ってるのか俺には分からない。ハイスペックすぎて怖いよ。
「……仕方ない、宿屋とかお店入る時はヒーロースーツ着て、外歩く時は着ぐるみ着ることにします」
うん、二重コスプレなら流石の会長も俺に感づくなんてことは出来ないはずだ。ヒーローコスプレでも誤魔化しは出来ていたが、何処で勘づかれるか分からないからな。
「なぁ、マワル」
「はい?」
いそいそと牛の着ぐるみを脱ぎ脱ぎしていると、何かを察したみたいな表情をしたフロストの兄貴が俺の瞳をじっと見つめた。
「お前は……いや、何でもねぇ」
「何ですかその間。途中で止められちゃうとめっちゃくちゃ気になるんですけど」
直ぐに逸らされた視線と、中途半端なまま終わってしまった会話。こうも露骨に話を終わらせられると、逆に詳細を知りたくなってしまう。もし、わざとやっているのなら大した性格の悪さだが、フロストの兄貴に限ってわざとなんてことは無いだろう。
「悪い悪い、忘れてくれ。いや、聞くべきかどうか迷ったんだが、お前の為にも他の奴らの為にも今は聞かない方が良い気がするもんでな」
「俺の為にも他の人の為にも?」
「あぁ」
「そうですか。なら、聞かないことにします」
俺の為だけじゃないのなら、詳しくは聞かない方が良い。いや、勿論気になるのは気になるのだが、俺の為じゃなく、他の人の為にもに話すのを止めたフロストの兄貴の考えを尊重することにしよう。イケメンだし、カッコイイし、強いし、その選択が間違ってても全然許せるしな。
素直に言うことを聞いた俺にフロストの兄貴は、柔らかな表情のまま俺の頭をガシガシと揺らすように撫でる。ヒーロースーツがシャカシャカと音を立てているのが、何とも珍妙な雰囲気に変質させている。
「よし、じゃあ荷物置いたら早速パレード行くか」
「えっ、着ぐるみ脱いだところなのに」
やっとの思いで脱いだ着ぐるみを再装着することが決まった瞬間であった。
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