第75話

「おい、マワル。さっきから顔色が悪ちぞ?トラブルも有りはしたが、もうすぐ安全な王都に着くってのにどうしたってんだ?」


「__や……いや……いや。……監禁はいや……」


「……監禁だぁ?そんなの俺たちが護衛にいる限り心配する必要ねぇだろ」


 何やらフロストの兄貴が意味のわからないことを言っているが気にしない。三人が幾ら強くても、あの人の誘拐スキルはレベルが違う。あの人、何であんなに由緒正しい家の出なのに、あんなに遵法意識が薄いんだよ。

 

「__石炭を食わせないでください。レシピを見て料理をしてください。いや、料理しないで下さい__セバスさんと俺の胃に暴力振るうの辞めてください」


「マワル殿が壊れました!?」


 思い出すだけで胃がキリキリムカムカズキズキグチャグチャする。


「そら、あおいなぁ」


 現実逃避のために空を仰いでみたけど、世界って広いなぁ。


 ……嘘だよ、広くねぇよ。別世界から呼び出されたのがよりにもよって俺と死ぬほど縁が深い会長とかどうなってんだ。てか、ゼロ様絶対知ってて黙ってただろこれ!


 いや、まぁ本来関わる確率なんて死ぬほど低かっただろうから、教えなかったとかだろうけどさ!実際問題、ギルドマスターが俺に仕事を振らなきゃ、俺はあの街の近辺から出なかっただろうしな!


 それに召喚された相手が会長だって教えて貰ってても、関わりに行こうなんて思わなかったし。あの人、魔王倒しても俺がこっちの世界に居るって知ったら絶対元の世界帰らないからな。


 自惚れにも程があると思うかもしれないが、あの人は俺と自分の両親なら俺を取るくらいには重い。愛が重すぎて俺潰れちゃうよ……。


「もしかして、勇者様ってマワル君の知り合いですか〜?」


「____どっ!?……どうしてそんにゃに根拠の無いことを?」


「動揺しすぎて噛んでますよ〜」


「噛んでないです。……嘘です噛みました」


 ついでに言うと、運命の歯車も歯車も噛み合ってしまっている。上手いこと言えたのに、全然嬉しくないんですけどぉ!?どうなってやがんだ、運命様よォ!

 

 偶にしか此方に微笑んでくれない運命に悪態をついてみるが、憎たらしい顔で微笑んでいる姿しか浮かんでこない。


 今の状況を説明するなら、そうだな______ログインしかしてないソシャゲのガチャを回したら最強キャラが出たみたいな感じだ。………いや、大分違うな。


「どうにか会わないで済むと良いんですけど」


「友達じゃないんですか〜?」


「いや、友達なんで会いたい気持ちはあるんですけどね。……色々すっぽかしてこっち来といて今更合わす顔がないと言いますか……」


「勇者は魔王を倒せば元の世界に自動的に帰るわけだし、余計な未練を相手に残すだけだよな」


「そうなんですよね……」


「まぁ、お前も異世界人だから一緒に帰れる可能性も無くは無いんじゃねぇか?」


「うーん、それは……」


 ……流石にそれはないだろう。何せ一回死んでこちらに来ている訳だし、俺は向こうにはきっと帰れない。それに、帰っても向こうじゃ死んだことになってる……と言うか死んでるのに、向こうに帰った所で居場所がない。


 この世界の人には俺が向こうで一回死んでるなんて言ってないし、異世界繋がりで帰れると思うのも無理は無い。


 改めて自分の立ち位置って特殊だなと思っていると、服の裾がちょいちょいと引っ張られる。振り向くと、ハルが不安そうな表情でこちらを見ていた。


「……マワル殿はもし帰れるのなら、元の世界へ帰ってしまうのですか?」


「いや、帰らないぞ?」


「元の世界に未練とか無いんですか〜?」


「あるっちゃありますけど、何だかんだここでの生活も気に入ってますし。どっちも選べるなら迷いますけど、急にいなくなったくせして、今更帰ったところで居場所もないですよ」


 あの父親のことだ。居ないならアイツの私物売って良いんじゃないか?とか言うに決まってる。あのパチカスが俺の激レアオタクグッズを売り払おうとしないわけが無い。


 世界一可愛い俺の弟が止めてくれてるだろうけど。……母親?料理しようとして家燃やして俺のグッズごと全焼させるんじゃないかな。「燃えちゃった、テヘッ☆!」っとか抜かす姿が浮かんでくるぜ。


 悪意は無いんだよ、悪意は。


「弟の結婚式に出れないのは後悔してるけどな。多分、人生の中で一番後悔してる」


「弟さん好きなんですね〜」


「はい、世界で一番愛してます」


 おい、シスターさんや。アンタが聞いてきたのにドン引きするんじゃありませんよ。……あれだぞ、シスターだって俺の弟見たらきっと同じ気持ちになるぞ?その証拠に俺の弟の周りには何時も可愛い女の子が沢山集まっていた。


 そして兄である俺の周りには変人が集まっていた。……何だこの格差は!!!公園の砂山ととエベレスト位の高低差があるこの現実に、俺はどう立ち向かえばいいの?


「そんな勇者なんて予定が詰まりまくってる有名人と、街でホイホイ出くわす事なんてないだろうよ。なんせ、今から向かう王都はこの国で一番大きい大都市だからな」


「……そうだといいなぁ」


 ……あの人、俺が天才作家中二病拗らせガールに連れられて日本を旅行してた時も勘だけで俺の居場所突き止めてきたんだよなぁ。……王都がどの程度の広さなのかは知らないけど、半径二百メートル以内に近寄ろうものなら匂いで見つけられるし。警察犬か何かですか?


「王都って香水売ってますかね?」


「売ってるんじゃねぇか?……どうした?女でも口説きに行くのか?」


「勇者対策です」


「……勇者は犬か何かなのか?」


「いえ、人です。見た目は」


「その言い方だと中身は違うみたいに聞こえますが……」


「中身は……俺にもわからん。でも、何時も頭のおかしい行動するから人間じゃないと思う。鼻が利く上に思考も読んでくるタイプの地球外生命体だ」


「「えぇ……」」


 ドン引きするフロストの兄貴とハルに俺は聞いてみたくなった。


__連絡先を聞きたいが為に、学校中の生徒を洗脳してヘリで追いかけ回してくる頭のおかしい人に会ったことはあるか、と。

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