第74話
「あー、気持ち悪い……」
魔物たちを爆☆散!ハルにおぶってもらいながら合流予定へと走って貰っていた。
「吐きそう……」
「あと少しだけ頑張って下さいマワル殿。今吐かれると拙者の背中が酷いことに……」
「がんばる」
切り札でもある結界の魔道具を使ったことにより、もれなく魔力不足に陥った俺は倦怠感と吐き気と頭痛に襲われている。魔力回復のポーションも一応は飲んだが、残念ながら魔力が回復したところで、そもそも無理に魔力回路を酷使したことによる倦怠感と吐き気と頭痛は暫くは治ることが無い。
「それにしても何か前より反動がデカい気はするが」
「そうなのですか?」
「効果範囲とか変わってないはずなんだけど、前より辛いんだよな」
色々と原因を考えてみるが、全く答えが浮かばない。前回の使用から少なくとも一月は経っているし、体が弱っている訳でもない。
「マワル殿!もうすぐで着きますよ!」
「あれ?ハルって探知系のスキル持ってたっけ?」
「いえ、魔力を広範囲に飛ばして自分とは違う魔力を感じてるだけです。『魔力感知』のスキルより精度も低いですが、フロスト殿とシスターの魔力は特徴的でわかりやすいですから」
自分を中心にして、セルフソナー探知みたいな事をしてるのか?いや、そもそもそんなこと出来るのか?疑ってるわけじゃないけど、非効率な上に魔力も大量に使うん____あっ、この娘あの『魔喰いの山』でも平然と歩ける魔力お化けだったわ。
「それにしても妙ですね……。フロスト殿とシスター殿の魔力以外感じません」
「あの数の魔物をこんなに早く撒くなんて、流石だな。……あー、ちょっとマシになってきた」
少しづつ引いていく副作用にほっと一息をつくとハルの背中から降り、自分の足で歩く。歩ける様になったのだから、何時襲われても良いようにハルの両手は空けておくべきだろう。
「マワル殿、大丈夫ですか?」
「さっきよりマシだしヘーキヘーキ」
「ふらついていますが……」
「気の所為だ」
別におんぶされながら帰るのが格好悪いとかいう理由でおぶってもらうのをやめた訳じゃないんだからね!あんなに担架切ったんだから格好良く帰りたいとかじゃないんだからね!
見栄を張りながら暫く歩いていると、草原に腰を下ろし休息を取っている二人の姿が目に入った。視界に入ると直ぐに此方に気付いたシスターが軽く手を振ってくれる。
「二人とも無事だったんですね〜」
「そっちこそ平気でしたか?結構な強敵が残っちゃったんで、逃げるの大変じゃありませんでしたか?」
「逃げるにしては荷馬車が邪魔すぎるな。命より大事なものなんかねーんだから、さっさと荷馬車捨ててくれれば楽だったんだけどな……」
「えっ、荷馬車まで守ったんですか?」
「……まぁ、一応な」
フロストの兄貴は何処と無く疲れた様な顔で水筒を呷った。商人たちの懐を考えると安易に荷馬車を捨てないのは正解かもしれないが、この二人がここまで消耗する位なら捨てておいても良かったのではないかと思う。
馬車の本護衛じゃない俺たちに被害が及んでる時点で、懐なんか知らないからさっさと荷馬車なんか捨てて欲しい。
俺が囮になった理由は、人的被害を減らしたいからであり、それが最も全員が生存する確率が高かったからである。これでもしも、二人に被害が及んでしまえば、俺が囮を受けた意味が無い。
二人なら囲まれようが逃げ切れると判断して、任せたのだから、二人が心置き無く離脱出来ない様な真似を正直いうとして欲しくなかった。
……まぁ、情報共有してなかった俺も悪いか。次からはもっと自分の意見を伝える様にしよう。
「何にせよ、二人が無事で良かったです」
「デカいのが数匹のびたら撤退してったからな。もう少し長引いてたらヤバかったかもな。」
「大型の魔物倒したんですか!?良ければ【解体】しますけど……」
「……あー、倒したのは俺たちじゃねぇ」
フロストの兄貴が気まずそうに言う。
「えっ、誰か応援にでも来たんですか?」
「はい、通りすがりの勇者様が助けてくれたんですよ〜」
「__はぁ!?」
「成程、それで……」
予想外過ぎる助っ人に驚愕する俺と、何処か納得したかのように頷くハル。
「……もしかして知ってたのか?」
「一瞬だけとんでもなく大きな魔力反応が一つ、お二人の場所に現れたので。本当に一瞬だったので勘違いかと思っていたのですが。……まさか噂に聞く伝説の勇者だとは」
「魔力を抑える魔道具でもつけてたんだろうな。……いや、あの感じからしてもっととんでもない物かもしんねぇが」
「全然気配なかったですしね〜」
「へ〜、俺も会ってみたかったです」
勇者とか胸が踊る肩書きを持った人とか会ってみたいに決まってる。やっぱり「ライ〇イン」とか使えたりするんだろうか?
「もしかしたらマワル殿と同じ場所から召喚されてたり……しませんよねる」
「流石にないって」
「___あっ、でもよく考えてみればマワル君と魔力が似てましたよ〜」
「……マジですか」
どうやら宝くじに当たるみたいな確率の珍事が起きてしまったらしい。
「マワル君と同じくらいの歳で、凄く美人で接しやすいフランクな方でした〜。それに、何処かいい家の生まれなのか隠し切れない気品さもありましたし〜」
「__気品あって、美人で、フランク……?」
一瞬脳裏に、頭のネジ飛びランキング一位の顔が頭に浮かんだが直ぐにその嫌な予感を振り払う。世界は広いのだ、美人でフランクなお嬢様なんて何処にでも居るよね……よね?
「そう言えば、マワルや嬢ちゃんみたいな黒髪だったな。「異世界サイコー!!!」だのよく分からん事を言ったり、コイツの服装にやたらとはしゃいでたり、ちょっと愉快な部分もあったがえらい別嬪だったぜ」
「……。……スゥッ______」
俺はザワつく胸の鼓動を収めながら、自分の心を何とか落ち着かせる。……いやいやいやいや!!!まさか…そんなわけないっての!そんな頭上に月の石が落ちてくるレベルのスーパーミラクルな奇跡のミラクルが起こるわけが無い。考えすぎだ!世界は広いんだ、あの人と同じような存在がいてもおかし______おかしいわっ!あの人二人いたら俺とセバスさんの胃が持たないっての!
「どうしたんですかマワル君〜?顔色が悪いですけど〜……」
「……大丈夫です。冷や汗かきすぎて脱水症状になりそうですけど大丈夫です」
「そ、それは大丈夫とは言わないのでは……」
「……因みに名前とか名乗りましたか?」
良く分からないことを言い出したハルを無視して、シスターに聞いてみる。もし、名乗っていなかったらシュレディンガーの変人となり存在は証明出来ず、存在しないということになる。……なるって言ったらなるんだよぉ!
「えーと、確か〜……」
「確か……?」
思い出すように顎に指を当てながら首を捻ったシスターの言葉を一言一句聞き逃さないように耳をこらす。
そして考えること数秒、シスターが思い出したかのように顔を上げる。
「_______モガミ アマネ様でしたっけ〜」
「______まじかよ」
フラグの建てすぎ故に最早予想通りと言うべき名前を聞いた俺は、ウンザリするほどには聞き馴染みのありすぎるその名前に脳が数分間フリーズしたのだった。
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