第72話

 時は少し遡り、廻とハルが離脱した直後まで遡る。


「アイツ、魔物寄せのスキルとか持ってんじゃないだろうな……」


「それは流石にないと思いますけど〜……多分」


 何処か自信なさげにフロストの言葉を否定するシスター。自身の知りうる同郷にしては珍しいどっちつかずの態度に、ガシガシと頭をかいた槍使いが気疲れしたような声を出す。


「自信無くなってんじゃねぇか。それにしてもアイツ、自分が護衛対象だって分かってんのかね……」


「______お、おい、あの青年と少女だけ行かせて良かったのか!?奴らが弱い相手を好むのだとすればあの少女一人では……」


「心配ありませんよ〜。確かにマワル君の身体能力は低いですが、彼がと言ったのなら何も問題はありません〜。そんな事より貴方達は早く逃げる為の準備をして下さい〜」


 商隊の一人が焦った様に言った言葉に、先程の曖昧な答えとは打って変わってはっきりとシスターが述べる。


「ったく、随分と信頼が熱いこって……俺は残念ながらそこまで手放しで問題ないとは言えないけどな」


「そんなこと言いつつ、全然心配してない人に言われたくありません〜」


「あのからあのステータスで逃げ切った奴を心配する方が無駄ってもんだろ。そんなこと考える暇があんなら______残ったヤツをどうするか考えないとな」


 フロストが銀に輝く槍を構え、恐らく何者かにの命令によって此処に残ったであろう魔物達を見つめる。残ったのはそれなりに知性の働く、厄介な相手に分類される存在。一番後ろに控える合成獣キメラや、鶏蛇コカトリスなどの数十体の魔物はBランクパーティーで狩るのが通例とされる難敵だ。


「前の雑魚は俺が処理出来るが……残ったヤツら俺抜きで狩れるか?」


「……無理だな。我々のパーティーが死力を尽くしたとしても同時に二体相手にするのが限度だ」


「他の皆さんを気にしなくていいなら同時に四体までなら〜。まぁ、十中八九他の皆さんに注意が向くでしょうけど〜」


「だよなぁ」


 確かに廻が半分以上引き付けたことによって全員生存の難易度はグッと上がった。しかし、それでもまだ。後ろの商隊の人間を守りながらこの包囲を突破出来るかと言えば、不安が残る。


「_____案が一つあります〜」


「……どうせ、ロクな案じゃないだろうが聞いてやる」


「酷いですね〜。私達が包囲網を切り開くので、その隙に商隊の皆さんと護衛パーティーの方で王都まで逃げてもらうって感じです〜」


 一つ目の案を聞いたフロストが露骨に嫌な顔をする。確かに、それならば商隊の面々や護衛のパーティーの生存率は高くなる。


「……俺は彼奴ら相手に殿なんてごめんだっての。そもそも、俺たちの護衛対象は此奴らじゃない。コイツらだって相乗り用の料金はウチのギルドマスターに貰ってんだし、そこまでしてやる義理はねぇ」


私たちの護衛対象マワル君はそんなの関係ないみたいですけど〜?」


「……アイツはお人好し過ぎるんだよ。本来なら、俺は此奴ら守るんじゃなくてマワルの安全確保に移りたい位なんだぜ?」


 そこまで言った槍使いは一度大きく溜息を吐くと、前髪を後ろに流す。そして、暫く目を瞑る。


 暫くの瞠目の後_______目を開いた槍使いは槍で地面を叩き鳴らす。


「________だがまぁ、任されちまったからな。護衛対象が命張ってんのに此処で日和っちまったら、漢として終わりだ」


 自身のリスクと護衛対象たる廻からの頼みを天秤にかけて覚悟を決める。本来ならこんなそんな役回りはゴメンだが、自身に憧れてくれている相手を裏切るような恥知らずにはなりたくはない、それがフロストの考えだった。


「じゃあ、決まりですね〜」


「お、おい、殿なら俺達が______」


「出来もしないことを言わないで下さい〜」


「な、なら、せめてウチのパーティーから二人は殿に加えさせてくれ!このままでは俺達の面子が……」


「面子と命どっちが大事なんですか〜?それに、貴方達じゃ足でまといです〜。邪魔なんでさっさと消えて下さい〜」


「なっ!?」


 女戦士がシスターの言葉に食ってかかろうとする。敵意を見せる女戦士の瞳をシスターはじっと何時もの柔らかな瞳ではなく、冷めた瞳で見つめる。


「いいですか〜?私達の護衛主は貴方達の『全員生存』を求めているんです〜。そして、貴方たちの依頼は『商隊の護衛』です〜。吐き違えないで下さい〜。私達は自己犠牲なんてものから言っているのではありません。私達が生き残るためには貴方たちがです」


 かなり強い語気でそう言いきったシスターに護衛パーティーがたじろぐ。


「ははっ、わざわざキツく言ってお前が泥被ってもマワルは喜ばないぞ?」


 わざと口調をきつくする事で、護衛パーティーに対して商隊の悪印象減らそうとしているシスターをフロストが笑う。


「黙っていて下さい〜。それ以上喋るなら舌を抜いた上で【白狼の牙】の皆さんに秘密を喋りますよ〜」


「ごめんなさい」


 今までにない位の眼光で睨まれたフロストは一瞬で萎縮すると、潔く頭を下げた。凄く情けなく見えるが、これでも戦闘力はAランクの中でも上澄みである。


「______それじゃあ、私達が道を切り開くので皆さんはどうにか逃げて下さい〜」


「……恩に着る」


 護衛パーティーのリーダーからの礼を最後にフロストとシスターが魔法の詠唱をしながら、包囲網に向かって駆け出した。



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