第71話

「_______マワル殿。拙者、思ったことがあるのですが……」


「_______なんだ、ハル。……息が続かないから、手短に頼む」



必死に走る俺の横をハルが余裕そうな表情で並走している。なんか、どんどんとハルが遠い存在になっていってる気がする。……いや、元々遠かったのは遠かったのだが、【逃走】スキルに余裕で追い付くとか、ハルだけインフレ加速おかしくね?……いまならエルザといい勝負出来そう。


「非常に申し上げ難いのですが、その……そのですね……」


懐かしのバトルを思い出しながら走っているとハルが口ごもった。


「__はぁはぁっ……な、何だよ……俺と、ハルの仲、だろ。遠慮、ゲホッゲホッ、なんてするなよ」


親しき仲にも礼儀ありと言うが、こんなに命を預けあった間柄なのだ。多少どころか大概の無礼は許せる。


「マワル殿って常に何かから逃げ……いや、追われてませんか?」


「_______ごふっ!?」


撤回。親しき仲にも礼儀ありって素敵な言葉だね!一番大切にしよう!「逃げてる」って女の子に言われるとすっごく自分が情けなく感じてしまう。やっぱ現実が一番非情なんだなぁ。


「あっ、いや決して悪く言いたい訳ではなくてですね、そういうスキルでも持っているのかと」


「何かに追いかけられるとかどんなスキルだよ!?」


「【挑発】とかでしょうか」


「俺、そんなに他人煽ってる風に見えるか?」


「見えませんが_____これは、ちょっと……」


そう言ってくるりと後ろを振り返るハル。後ろから涎を垂らしながら追いかけてくるのは五百匹を優に越える魔物の大軍。なんならさっきより目が血走ってる上、それぞれが俺を食わんと争いながらこっちに向かってきている。……うん、俺だって他人がこんなに魔物に狙われたらそういうスキル持ってる可能性疑う。


エルザも実質言動が魔物みたいなとこあるし、俺ってば殆ど何かから逃げてる気がするな。嬉しくねーよ!


確かに俺は弱いけど、商隊の人達よりか強い!なんで、お前ら揃いも揃って大興奮しながら俺の事追いかけてきてんだよ!ほら、横に美人いんだろ!視線向けろよゴブリンが!何で息荒くしながら俺見てんだよ!?


「……マワル殿、拙者何故か凄く負けた気分になるのですが」


「……奇遇だな、俺も男として大事な何かを負かされそうでヒヤヒヤしてるよ」


おい、角生やした兎!俺見ながら腰を振るんじゃねぇ!訳わかんねぇよお前ら!?発情期にしたって限度があるっての!


「そう言えば、マワル殿との初クエストもこうだった気がします。……確かにあの時のオーク達も明らかに目がおかしかった気が……」


ハルさんや、嫌な記憶を呼び覚まさないでくれ。泣くぞ?みっともなく。


それにしても、変人が寄ってくるだけじゃなくて魔物まで寄ってくるとか、どんなフェロモンだよ……。______いや、変人も理屈が通じないという点では魔物と同じか。……それにしたって魔物が発情する意味がわからんが。


「ハル、俺って女の子っぽいか?」


「いえ、そんなことはありませんが……」


「だよなぁ」


俺の弟は中性的で可愛らしい一面もあるので女の子っぽいと言えるかもしれないが、俺はそうでも無い。まぁ、血繋がってないから当然だが。


「______まさか奴ら、俺の女子力に反応してるんじゃ……!」


「マワル殿、それだと拙者とシスター殿の女子力がマワル殿に負けていることに……」


「えっ?……勝ってはないだろ」


「……確かに!」


片やメイスと刀を振る豪傑と、片や包丁をふるう家庭的な俺。魔物の悲鳴を上げさせる二人と、子供達の歓声を受ける俺。言っちゃ悪いが差は明確だ。


シスターは普通に料理が出来るが、ハルは……どうなのだろうか?


「……ハル、お前って料理出来るか?」


「つ、漬物ならお任せ下さい」


_____おばあちゃんかよ!とツッコミそうになったがグッと堪える。ま、まだ漬物作れるだけマシだって考えるんだ!我らが会長は肉じゃがって言いながら石炭作るからな!肉とジャガイモどこだよ!


あの人のタチが悪いところは、その石炭を笑顔で食べさせてくることだ。根性で食った俺とセバスさん(会長さん家の執事)を褒めろ!


二度目に作ってくれたシチューは見た目はマシではあったものの、生ゴミと土とこの世の悪を全て煮詰めた味がした。ご飯食べて白目剥いて気絶したのはあれが初めてだった。あれなら石炭料理食べた方がマシってくらいのレベルだ。


「漬物作れて偉い」


「_____!?拙者、馬鹿にされてますか!?」


「馬鹿なのは俺の方だ。女子力無いとか言ってごめん……イマドキの女子の流行りは漬物だって、俺ん家の近所の婆さんも言ってた」


「マワル殿、それは近所のお婆さんがおかしいのでは……」


チガウ、ハルエライ。スゴイ。ツケモノオイシイ。セキタンヨリマシ。ハクマイトツケモノアレバイキテイケル。


「白米に石炭じゃなければ女子力なんてカンストするんだよ」


「白米に石炭……?」


ハルが困惑してるが、これは実際にあった出来事である。「ちょっと焦げちゃったけど」じゃねーよ!燃え尽きてんだよ、あの阿呆!


「マワル殿。ところで、何処まで逃げるのですか?」


在りし日の文字通り苦い記憶を思い浮かべていると、ハルがそんな事を聞いてくる。……思い出に夢中ですっかり忘れていた。


「……そろそろ距離は十分か。_____んじゃそろそろこれ撒いてくれ」


そう言って取り出すは丸型の手の平サイズの黒い物体。重厚感溢れるその物体の頭には白い紐が伸びている。


それをポンポンと地面に置いていく。そして、ある程度の間隔を空けながら置きおわる。


「よし、ハル。近くに居てくれ」


「な、何をするんですか?」


怯えたようにそう聞いてくるハルに、俺はニヤリと笑みを返すと_____


「_______ボン○ーマンって知ってる?」


____みんな大好きパーティーゲームの名前を出した。

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