第125話 世界の勢力図

 ◇◇◇◇◇


 日本探検者協会本部副会長室。


 紗英は、セカンドインパクトの後処理で多忙な中、またもや直接かかって来たAEA会長ハワードからの電話に対応中。


ハワード:『ミスノガミ。元気かね?』


野神:「ええ、心配無用ですよ。」


ハワード:『はは、相変わらずだな。まあいい。それでは、いつもの通り前置きは割愛するぞ。日本はまだイエローゴッドダンジョンを発見していないんだったな?』


野神:「そうですね。今は正式名がイエローキャッスルになってますけどね。」


 実は、すでにカーバンクルが発見していたのだが、あくまでキャッスルの所在確認に留まっていたため、あえてその事実は伏せておいた。


ハワード:『ふ、そうだったな。

 単刀直入に言う。東京に我が国のエクスプローラを派遣する用意がある。どうする?

 すでにドイツとは合意済みだ。

 ベルリンのホワイトキャッスル討伐に関して、合同作戦を組むことになった。

 まあ、ドイツのエクスプローラは所詮、最高でスリースター。

 大して期待はしていないがな。』


 こいつ、何を勝手なこと言ってんのよ!

 しかも、ドイツはすでに合意した?

 そんなに早くに何があったのよ?


野神:「お気持ちだけで結構です。

 日本は独自で討伐を目指しますから。」


ハワード:『ほぅ。そうか。

 今や、神級迷宮の5つのキャッスル討伐以外に世界を救う手がかりはない状況なのだ。

 そして、ジャパンもその役目を担っている。

 第二位の中国は1000名規模で我が国と同等の戦力を持っている。

 第三位のインドにしても、800名程度。

 しかも、両国ともファイブスターのエクスプローラが在籍している。

 我が国を含めて、この3国であれば単独討伐もいいだろう。

 しかし、ジャパン在籍のエクスプローラはたかだか50名弱。

 ドイツは100名弱はいる様だが、協力の要請は断らなかったがな。

 明らかにお前たち2国には無理があると思うが、それを承知でその回答でいいんだな?』


 紗英は、痛いところを突かれて少し戸惑った様子を見せた。

 確かに上位3国と他の国との戦力は圧倒的にかけ離れている。

 緊急を要するこの状況で、ハワードの提案も世界から見ると妥当なものだろう。


野神:「分かりました。もう少し検討します。」


ハワード:『そうか。それは賢明な判断だな。

 我々はいつでも協力を惜しまんよ。

 では、良い回答を待ってるぞ。』


 ガチャ!


 もう!相変わらず、すぐ切るわね!


 ただこの件は、一度総理の耳に入れておいた方がいいわね。

 出来ることなら、信用出来ないアメリカの協力は断りたいところ。ただ、そうすると日本として世界から非難の目に晒される可能性もあるわね。

 個人的には……。

 でも、協力体制を取るなら、中国のミスヂユーガにお願いしたいところだけど、国家間の同盟関係から難しいでしょうね。

 そこは総理がどう判断するか……。



 ◇◇◇◇◇



 紗英は、ハワードとの電話の後、秘書を通して緊急案件を伝えてアポを取り、宗方首相に合うべく総理官邸に赴いていた。


 総理官邸の特別応接室にて。


宗方:「野神。お前が来るのは珍しいな。

 いつもは工藤が来るのにな。」


野神:「ええ、直接話をしたくて。」


宗方:「で、どうした?」


野神:「実は先ほど、AEAのハワード協会長から電話がありまして……。」


 紗英は、宗方に先ほどの会話の内容を伝えて意見を伺っている。


宗方:「なるほどな。その前に聞くが、本当に他国の協力が必要なのか?

 それによって、話は変わる。」


野神:「普通に考えれば必要ですね。

 ただ、日本には一人、訳のわからない想像を超えた存在のエクスプローラがいます。

 いわゆるジョーカーってやつですね。

 なので、個人的には少し楽観的ではありますけど、必要ないと思ってます。」

 

宗方:「ふっ。お前らしいな。

 お気に入りの天堂のことだな。

 三上も同じようなことを言ってたな。

 そうか。じゃあ、決まったな。

 日本は独立路線で行くぞ。」


野神:「でも、大丈夫なんですか?

 国家間での関係とかがあるのでは?」


宗方:「そうだな。あるにはあるが、俺も楽観主義でな。なんとかなるだろう。」


野神:「アメリカは同盟破棄も視野に入れるのでは?あのトランパス大統領は強硬派で有名ですから。」


宗方:「俺も視野に入れてるよ。」


野神:「どういう意味ですか?」


宗方:「なあ、野神よ。俺が総理大臣になって何年だ?」


野神:「10年ですね。」


宗方:「そうだ。その間、俺が何もしていないと思ったか?

 こんな世界だ。軍事力強化には力を入れて来た。それにな。これはまだ秘密だが、我が日本もすでに核保有国だ。」


野神:「え!嘘でしょ?」


宗方:「ははは。驚いたか?

 しかも今までにない画期的なものだ。三上のところでな。

 そうか。三上は野神にも言ってなかったんだな。あいつはその辺りはしっかりしてるな。」


野神:「乃亜が?いえ、何も聞いてません。」


宗方:「まあ、それは極秘事項だからな。

 親友といえども、そういうものだ。

 で、アメリカは同盟破棄を条件に我々に踏み絵を迫って来るだろうが、その時はこちらから破棄してもいいと思っている。

 核保有の件も、今回の状況次第で公表に踏み切れるだろう。時期としてはちょうどいい。

 国民にも説明しやすいしな。

 あくまで抑止力のための核保有だ。」

 

野神:「まったく、恐れ入ったわ。」


宗方:「だろう?惚れたか?」


野神:「あなた、妻子持ちでしょう?

 そういう冗談は総理大臣やめてからにしてくださいね?」


宗方:「三上といい、お前といい、どうなってんだ?」


野神:「なんの話ですか?」


宗方:「ん?ちょっとは隙がある方が……。

 いや。なんでもない。

 まあ、日本は独立した国家として振る舞う。

 世界情勢は混沌として来たがな。

 それよりもお前たちの方が心配だぞ。

 うまくやってくれよな。」


野神:「それはもちろん。

 直接話が出来て良かったわ。」


宗方:「ああ、俺もだ。」


 宗方首相との直接会談の後、紗英は協会に戻るとすぐにハワードに直接電話を掛けた。



 ◇◇◇◇◇



 場所は変わって、国士無双クランハウス。


 召集されたメンバーは総勢8名。

 40名在籍していたメンバーのほとんどは引退して、すでに脱退していた。


北斗:「なあ、ジェシカ。

 お前は来なくてもいいんだぞ。」


ジェシカ:「いや、私も行くよ。

 ただ、足手纏いにはなりたくないからさ。

 ダメだって思ったら置いて行ってくれていいよ。」


北斗:「そうか。わかった。

 じゃあ、もう一度言うぞ。

 俺たちは、これからイエローキャッスル討伐に向かう!

 ただ、魔人と対峙するには圧倒的に戦力が足りていない。それは俺たちがブルーキャッスルで身を持って分かっている。

 よって、もし魔人が現れた場合は、俺と南斗以外は俺の指示を待たずに即刻パーティを離脱して撤退しろ。これは絶対だ。分かったな!」


 ここに集結したメンバーは、ジェシカと宝生以外はクラン古参のメンバーであり、一応目を合わせて頷いているが、彼らも北斗と同じ様に決意を持って討伐に向かう決心をしていた。


南斗:「それじゃあ、いっちょカニバル子爵とやらを殺りに行くかぁ!」


北斗:「よし、行くぞ!」


 掛け声と同時に北斗が立ち上がり、それに合わせて全員が気合の入った顔で立ち上がり、それぞれの想いを胸に討伐に向かって行った。



 ◇◇◇◇◇



 セカンドインパクトの後、至る国でアメリカと中国主導の強引な国家併合が起こり、それに合わせる様に様々な準併合や同盟が相次ぎ、国家間での調整が入ったことによって、数日の間に世界の勢力図が激変していった。


 まず、アメリカ地域についてだが、カリブ海周辺の中米諸国については、選択肢のない中、アメリカへの国家併合に合意。

 そして、カナダとメキシコとは併合ではないが、国家としては存続しつつ、連合という形でアメリカの援助を求める形となる。

 実質、アメリカ主導の連合である。

 これにより、北中米地域全体が、アメリカ合衆国改めアメリカ帝国の勢力範囲となる。


 そして南アメリカ地域だが、こちらも主要12カ国のうちブラジルとアルゼンチンを除きアメリカ帝国に併合。ブラジルとアルゼンチンもやむなく連合に加盟する。

 よって、アメリカ帝国主導のアメリカ連合は、北中南米の全域を掌握した。

 そして、その地域に在籍する全エクスプローラはアメリカ連合管轄となり、全域によるエクスプローラの再配置を行なった。

 また、南極大陸からの防衛拠点を南アメリカ大陸最南端に配置。

 アメリカ連合の初代総司令にはトランパスが、副総司令にはハワードが就任した。

 この男は、根回しが抜かりがない。


 一方、アジアに目を向けると中国が、ここ最近の事情で国力の弱っていたロシアに併合を迫り、強引に合意させる。

 それを皮切りに、モンゴル、北朝鮮、韓国と東アジアを次々と併合。

 そして、旧ソビエト諸国および東欧諸国の一部まで併合に合意させた。

 ここに北アジア全域の掌握を完成させる。

 これを機に中国もアメリカ帝国に対抗すべく、国名を中華帝国に変更した。


 この世界の2大勢力は、時にビッグブルー&ビッグレッドと呼ばれることになる。


 中華帝国が国家を拡大していく中、危機を感じたインドが主体となり、東南アジア、オセアニアの国々と連合を形成する。

 この地域の小国はインドや隣国に併合されて、国家の数は減っていたが、特に東南アジア地域はエクスプローラの人数が確保されていたため、複数の国家が存続している。

 そして、この連合はインドを盟主としてインダス同盟と名付けられ、世界の第三勢力として位置付けられる。


 次にヨーロッパに至っては、すでにあった枠組みのヨーロッパ連合での協力体制を模索していたが、その中でドイツのみが除名される形で存続している。

 これはドイツにはアメリカ帝国からの援助が決まり、そのドイツがアメリカをバックに高圧的に暴走した結果であった。

 ただし、ヨーロッパ連合の各国も意向が統一されず決して一枚岩とはいえない状況だ。

 勢力としては、第四勢力に位置付けられる。


 残るは中東とアフリカだが、中東は過激な国が多いが、金の力で集めたエクスプローラが多数在籍しており、アラブの旗の元、団結する意向を示し、アラブ連合として協力体制を取ることとなったようだ。第五勢力、アラブ連合。


 問題は、アフリカ大陸である。

 一時、アメリカと中国への併合に向けて各国の交渉が進んでいたが、アフリカ各国に対する処遇が明らかに不利なことで、歴史的に白人支配によほどの抵抗を示したのか、ついにアフリカ統一の方向で話は進んでいった。

 そして、究極の選択としてアフリカ大陸が一つの国に統合される。

 新しい国の名は、アフリカ連邦。

 ただし、国土の面積に比較して、エクスプローラの在籍が圧倒的に少ない。

 これが第六勢力であり、世界の爆弾と呼ばれることとなる。


 そして最後に日本だ。


 日本だけは、どの勢力にも属さないことを宗方首相が公式に世界に向けて発表。

 その後の交渉には一切応じない姿勢を見せる。そして世界から孤立し、一斉に叩かれる。

 弱小独立国家日本は、俗にスモールイエローと呼ばれることとなる。

 ただし、救いなのが日本国民からの反発は少なく、予想外に宗方首相の支持率は高い。

 だが、所詮は自衛隊とエクスプローラ頼みの他力本願であり、黒船来航の時のような侍魂から来る反骨心のようなものではなかった。

 しかし、首相にすればそれで良かった。

 これを機に、頼みの自衛隊を日本国軍として昇格し、一気に後追いで憲法改正に踏み切る。

 さらに、探検者協会を防衛省から切り離し、首相直轄の特別組織に昇格させ、宗方、工藤、野神、三上、龍太郎の5名が決定権のある幹部とした。なぜ、龍太郎?


 これが世界の第七勢力である大改革日本!


 ババーン!

 

 セカンドインパクト後の世界大併合。


 1.アメリカ連合 2140 ☆5

 2.中華帝国 1880 ☆5

 3.インダス同盟 1487 ☆5

 4.ヨーロッパ連合 868 ☆4

 5.アラブ連合 612 ☆4

 6.アフリカ連邦 505 ☆3

 7.日本 48 ☆3


 ◇◇◇◇◇

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