第121話 セカンドインパクト3
◇◇◇◇◇
2051年1月某日。
セカンドインパクト発生から数日後、各国の首脳が参加必須の世界緊急会議が開催された。
各国から国家の代表と協会の代表が参加。
日本からは、首相の宗方金太郎と協会の野神紗英が参加していた。
参加と言っても、もちろんWEB会議なので、協会内にある特殊専用回線で繋がれた専用会議室からの参加である。
首相もこの会議に参加するために、渋谷の探検者協会本部に来ているのだ。
各国の首脳が一同に参加する規模の緊急会議はファーストインパクト以来2回目である。
それほどまでに、今回の異変は強烈なインパクトを持ち、重大な決議案を含んでいるということであった。
開催時刻となり、全世界各国の参加が確認された。今回、不参加の国は当然ない。
まずは冒頭に、会議の主催であるWEA議長国のアメリカ合衆国大統領トランパスから、会議開催の宣言と今回の緊急会議の趣旨のついての説明があった。
それが終わると、次にWEA現議長のハワードから状況の説明に移っている。
この時、ハワードから今回の異変がセカンドインパクトと名付けられたことが伝えられた。
今回の異変についての状況として、全世界の全てのエクスプローラ(スキルホルダー)が一斉に異世界内から一番近い地点のゲートに瞬間転移されていたということ。
そして、多数のスキルホルダーからスキルが消去されていることが改めて報告された。
これは各国周知の事実である。
続けて、資料がモニターに映し出され、本題の情報が展開されていく。
ハワード:『今回、各国からの情報を集計した結果、スキルホルダーが以前の100分の1以下に減少していることがわかった。
なお、今回の現象は、エクスプローラの個体強度レベルが10に達しているかが、スキル継続保持の条件となっていた様だ。
よって、個体強度レベルの低いエクスプローラが多く存在していた、一部のエクスプローラ後進国と呼ばれる小国についての影響が極めて大きい。
国によっては、エクスプローラがゼロになった国も存在している。
その国にとっては危機的状況と言っても過言ではない。
さらに、ここ数日の結果からの推定だが、この先、新しいスキルホルダーの誕生はないと考えられる。
要するにセカンドインパクト以降に18歳の誕生日に天啓を授かったものが全世界でゼロだったということだ。
もはや、スキルホルダーはさらに希少な存在となったということだ!』
宗方:「野神。日本の現存は48名だったな。
これ以上は増えんと言うわけか?」
野神:「ええ、そうなりますね。」
宗方:「そうか。超ヤバいじゃん!」
野神:「総理。日本はまだいい方ですよ。
さっき言ってた通り、ゼロの国もありますからね。」
ハワード:『今後のスキルホルダーの活動については、世界規模で再構築する必要があるということだ。
これは本会議の決議案として組み込まれている。のちにこの議案は採決することになるので、そのつもりで。
次に第2の情報だ。この映像を見てくれ。
これは現在の南極大陸を衛星を使って遥か上空から撮影した映像だ。』
この映像にも各国に衝撃が走る。
宗方:「何じゃこりゃ?超ヤバいじゃん!
野神。この状況は知ってたか?」
野神:「ある程度の情報は掴んでいましたが、まさかこれほどとは……。」
ハワード:『見ての通り、すでにモンスターが南極大陸を支配している。
南極点にゲートが発生していたが、発見が遅れたことによりその対処が遅れ、その間に圧倒的な速度でモンスターが大陸を埋め尽くした。
すでに我が国のペンタゴンを持ってしても、制圧不可能な状態に陥っている。
さらに、この大陸の大気はすでに異世界内のそれと似通った成分になっていると思われる。
人間がそこに踏み入れる環境ではない。
よって、この大陸の奪還は断念した。
今後は、このモンスターたちを大陸から拡散させないことを方針として対処していくこととなる。』
宗方:「エクスプローラなら可能性はあるのだろうが、リスクは取らないということだな。」
野神:「ええ。それは私も賛成です。
リスクが大きいですし、今回の異変でエクスプローラの人数は激減しましたからね。
あえて派遣する国はないかと。」
宗方:「そうだろうな……。」
ハワード:『各国の代表も、この2つの情報でお分かりだろう?
エクスプローラの激減によって、全世界の大陸が同様の危機を迎えているということを。
特に今回のセカンドインパクトによって、エクスプローラがゼロもしくは少数になった国のゲートは間違いなく危機に陥る。
そればかりか、その近隣の諸国も同じ運命を辿ることになる。
モンスターに我々の常識は通用せん。
人類は殺戮され、蹂躙され、支配されて、自由を奪われるばかりか、絶滅すら有り得る。』
宗方:「確かに言ってることはごもっともだがな。何か引っ掛かるものがあるな。」
野神:「そうですね。私たちは戦争というものを知らない世代ですが、皮肉なものですね。」
ハワード:『よって、そのリスクを回避するために、世界規模でエクスプローラの再配置が必要になってくる。
そこで、多数のエクスプローラを抱えるアメリカ合衆国と中国の2国は、国からの要請があった場合は、その国を統合する用意がある。』
宗方:「はぁ!?何を勝手なことを!」
野神:「やってくれたわね!まったく、あのおっさんたちのやりそうなことだわ!
総理。これは異議を申し立てるべきかと。」
宗方:「もちろんだ!」
この発言には、各国とも黙って聞くわけにはいかないと、各国から異議を申し立てるための挙手ボタンが押されていた。
ハワード:『まあ、待ちなさい。
異論はあるだろうが、最後まで聞きなさい。
統合要請先は、2国以外でも構わない。
他国を守護可能な能力を考慮して、我が国と中国が率先して受け入れようというだけの話だ。他の国が受け入れようが、我々は一向に構わんのだ。その能力があればだが。
そこは平等な条件で判断するというわけだ。
ただし、すでに防衛が不可能な国はいずれかの国に統合せざるを得ない状況は変わらない。
それを放置することは許されないことだけは念を押しておく。
そして期限は、本日から10日間だ。
お分かりだと思うが、事は緊急を要する。
それ以上の放置は認められん。
なお、この案に反対する場合は、その代案を即刻に用意することを条件とする。』
宗方:「代案か……。エクスプローラの異動。
無理だろうな。」
野神:「そうですねぇ。国のバックアップなしに個人判断での小国への移籍は難しいかと。」
宗方:「かと言って、あいつらの言うとおり、それらの国を放置するわけにもいかんしな。
しかし、いつからアメリカと中国は手を組んだんだ。敵対していたのにな。」
野神:「利害が一致したんでしょう。
ここは争うより利があると。」
宗方:「確かにやり方は汚いが、結果として世界を救う形となる訳か……。」
ハワード:『そろそろ、議論は尽くしたかな?
それでは、決議に移る。
議案に反対の国は挙手を願おう!
もちろん、代案の提示を条件にだ!』
各国の反応は様々だが、今回の異変でエクスプローラを失った国にとっては死活問題だ。
他に案がない状況に賛成せざるを得ない。
また、それ以外の国にとっても、ここは同意する他ないと判断した模様だ。
ハワード:『オーケー。満場一致で賛成という結果になったな。
では、本議案は可決だ。
本日から10日間、要請を受け付ける。
我が国は、どんな国の要請であっても交渉の場を設けることをお約束する。』
この後、国家統合の交渉の場についた国は多数あったのだが、決して平等な条件ではなく、明らかに要請を受けた国が有利に交渉を進めていく。だが、命の保証を受けるためには、やむを得ない判断を強いられていった。
こうして、現在の世界地図が大きく変わっていくこととなる……。
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