第8話 販売ショップ

 ◇◇◇◇◇


 クランハウスを出た2人は、別館の販売ショップに来ていた。


カレン:「ごめんね。私、食糧のストックしておくの忘れちゃってた。」


龍太郎:「いいよ。よくやるあるあるだから。」


 エクスプローラは、ゲートに入るときには、常に予備も含めて、最低でも探検期間の3倍の食糧を持っていくことを推奨されている。

 これは、緊急事態用の予備と言う意味なのだが、パーティとしての生存確率を上げるためでもある。

 と言うことを新人研修で教えられるのだ。


カレン:「うーんといつものやつね。」


龍太郎:「へえ。ホーンラビットの肉か。」


カレン:「そだよ。安い方がいいでしょ。」


龍太郎:「確かに。俺はランバードの肉を良く買うんだけど、やっぱり、コスパ重視で選ぶよな。」


カレン:「そそ。食べられれば、なんでもありだよ。

 そこにお金をかけられるほど、余裕ないしね。ちりつもだよ。

 じゃ、これ買ってくるね。

 ちょっと、待ってて!」


龍太郎:「おう。」



 カレンがレジで支払いを済ませる間、この販売ショップに並ぶ商品について説明しよう。


 まずは食糧。


 食糧は、基本的にはモンスターの肉を長期保存可能な状態に加工したものである。

 現在では、モンスターの素材で調味料も開発されたため、比較的美味しくなったようだが、それでも、こちらの料理に比べると不味い。


 ただ、昔は調味料もなく、モンスターの肉をただ調理しただけのもので、食事は相当に苦痛なものであったらしい。

 それに比べると全く問題ないと初期からのエクスプローラはよく昔話をする。



 次に衣服。


 衣服も、モンスターの素材を加工したものである。主に革製品が主流だ。縫製も筋繊維を使用するなど、すべてをモンスターの素材で加工する必要があり、価格によるが、相当に着心地は良くない。特に下着などは最悪である。


 これも、昔に比べるとマシな方だとか。

 価格も昔は超高級品であったが、徐々に抑えられている。

 ただし、現在でも適正価格とは言い難い。



 次に装備(防具)。


 こちらも、モンスターの素材で製作したもののみで、主に革製品もしくは鱗製品。

 初期装備のみとなっている。

 あまり、良いものは販売していない。

 新人研修で配布されるものに毛が生えたようなもので、購入する人は少なく、品揃えはすこぶる悪い。

 主に破損した際に再購入する程度の頻度で利用されている。


 基本的に装備は、武具、防具共にゲート内の販売ショップで購入することになる。

 が、ゲート内で販売している装備は、おいそれと購入できないようなビックリ価格になっている。

 現在のカレンや龍太郎の収入では、とても購入は不可能。



 最後に雑貨。


 これも同様にモンスターの素材を使用したもののみである。

 代表的なものはリュックや水筒やテント。

 大型パーティであれば、荷物台車なども購入することがある。

 基本、キャンプ用品を思い浮かべれば、分かりやすい。でも、価格はまあまあ高い。



 以上が販売ショップの商品であるが、これらの商品の説明に少し違和感があったのではないだろうか?


 そう、すべての商品がモンスターの素材のみで出来ていることだ。


 これにはある理由が存在する。


 この後、龍太郎たちが通過するであろうダンジョンゲート。

 このゲートを通過できるものは、実は2種類しか存在しないのである。


 1つは、龍太郎たちのような、スキルホルダーである一部の人間の体そのもの。


 もう1つは、異世界に住むモンスターの体そのもの。


 この2種類のみなのである。


 要するに、龍太郎とカレンがこちらの世界の衣服を着たまま、ゲートを通過したとしよう。

 すると、向こうの世界に着いた瞬間に2人はスッポンポンの丸裸状態になっているのだ。


 そして、更にゲートを通過して、こちらの世界に戻ってきたとしよう。

 すると、元着ていた衣服の状態になっているのだ。なので、衣服が無くなりはしない。

 あくまで、通過できないと言うことである。


 その逆に、向こうの世界にあるもので、向こうの世界から通過できるものは、モンスターの体のみなのである。

 モンスターの素材、モンスターコアも同様に通過できるので持ち帰ることは可能。

 もちろん、通過できると言う条件なので、向こうの世界に持って入ることも可能である。


 お分かりいただけたであろうか?


 ちなみに、この仕組みについても各国で研究はされているようだが、当然、現代社会で究明できるような代物ではなく、全くの不明案件である。



カレン:「天堂くん!お待たせ!買ってきたよ。」


龍太郎:「おし。じゃあ、行こうか。」


 龍太郎とカレンは、販売ショップを後にして、ゲートの方に向かって歩いている。


カレン:「うん。そういえば、ちょっと天堂くんに聞きたいことがあったんだった。

 私たちって販売ショップも買取センターも当然、頻繁に利用するじゃない?

 なのに、ソロになってから滅多にエクスプローラに会わないんだよね。

 不思議じゃない?

 天堂くんはいつもどうなの?」


龍太郎:「そういえば、そうだな。会わないな。

 考えたことなかったけど、言われてみれば確かに不思議だな。」


カレン:「やっぱり、そうなんだね。

 なぜかな?気になるよね?」



 なんでだろ?ちょっと聞いてみるか。


龍太郎:『アイちゃん!』


AI:〈はいはい。マスター、何?〉


龍太郎:『聞いてたでしょ!なんで?』


AI:〈了解!

 まず、日本人のスキルホルダーは5870人って、この前言ったよね?

 でも、エクスプローラ登録している人数で言うと、3230人なんだよね。

 このうち、渋谷ゲートを利用している人数は、525人だね。これは変動はするけど。

 そして、この中でも、エクスプローラ登録者の最低ノルマの月に1回だけ潜る人もいるし、高ランククランのパーティなんかは、一度入ると探検期間も長いしね。

 あとはマスターたちみたいに、規則正しい生活を送っている人は朝から潜るけど、入り時間はまちまちだよね。

 むしろ、夜から潜る人の方が多いみたいだよ。不規則な生活の人が多いんじゃないかな。

 向こうの世界は、結構いつでも明るいじゃない?場所によってはいつも暗いとか。

 だから、会う確率ってそんなに高くないんだよ。

 まあ、理由はそんな感じかな。〉


龍太郎:『へえ。アイちゃん、すごいな。

 分かりやすかったよ。サンキュ!』


AI:〈うんうん。いつでもどーぞ。〉


龍太郎:「夢咲さん。

 たぶん、朝入りの方が少ないからだよ。」


カレン:「え?そうなんだ。

 結構、長いだったね。」


龍太郎:「ん?えーっと。

 エクスプローラ登録してる日本人の人数って3230人で、そのうち、渋谷ゲートを利用している人って525人って知ってた?」


カレン:「へえ。知らなかった。

 天堂くん、変なとこ物知りだね。意外。」


 なんとか、誤魔化したぞ。


 そんな会話をしながら、ゲートに向かって着々と歩いて行った。


 ◇◇◇◇◇

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