観覧車を降りる
『――お忘れ物のございませんよう、またお足もとにご注意してお降りください』
ゴンドラの外は完全に暗くなり、僕と彼女はアナウンスに促されるように降りる準備を始める。
拭き取られた涙はもう跡もなく、僕たちはマスクを付け直して立ち上がり、近づいてくる地上を迎える。
「また来る?」
ゴンドラのドアを開けるために係員が動き出すのが見えたとき、彼女が僕の背中にそう言った。
「じゃあ、こういうのどうだ?」
その言葉の本心がどこにあったかはわからない。けれど僕はゴンドラの窓ガラスに映る彼女の窺うようなまなざしを見て振り返り、咄嗟に思いついたことを提案した。
「三十になってもお互い独身だったら――ってお約束の約束」
目を丸くした彼女は、すぐにその目を細めて笑い、
「はは、いいねそれ。乗った」
僕の背中をドンと叩いて前に進み、係員の手で開かれつつあるドアの前に僕と並んで立った。
十年後。
生きているか死んでいるかもわからない、そんな遠い未来に投げた約束は、けれどきっと僕たちの未来の今日を生かすのに役立つだろう。
ドアが開く。
頬を刺す冷気。
イルミネーションの輝き。
夜の街。
僕と彼女は互いに目を交わして笑い合うと、足をそろえて観覧車から降り立った。
観覧車は回り、そして僕と彼女は夕日の中で互いの手を握る ラーさん @rasan02783643
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