第3話 あたたかな温もり

その日、わんこ式は愛する雪姫の膝の上ですやすや眠っていた。

その姿を雪姫は愛おしそうにふわふわの毛並みをなでながら眺めていた。

わんこになった式はとても愛くるしいのだ。しかし、ふいに。

「ぐすっ・・・おかーさん・・・!」

と子チワワ式は眠りながらぷるぷる震えてぽろりと涙をこぼすのであった。きっと今でも亡くなった最愛の母親を夢に見るのだろう。

「式・・・・・」

(無理もないわ。最愛の母親が目の前で自害したのだから。この人はやさしいから、今も気にしているのね・・・・)

そう思うとさらに夫への愛しさがこみあげてくるのだった。


やがて数時間後。

「ふえ?」

「おや、式。起きたのかい?」

「姫様!姫様!」

そういって立ち上がるとわんこ式は愛おし気に雪姫の胸に抱き着いた。

「ずっと、おそばにいてくれたのですか?姫様のおひざ、とってもあったかくって気持ちよくて熟睡できました!ありがとうございます!」

「ふふ。それは良かったね。ここのところ頑張ってたからご褒美にね」

「えへへ。ありがとうございます!その、それと・・・えっと・・・」

「なあに?わんこ式」

「あ・・・あの!今日は姫様の寝所で寝てもいいですか?」

「ええ?犬の姿で?」

「そうじゃなくって!人間の姿で!式は、式は一人寝が寂しゅうございます!どうか今宵は夜伽の相手を

させてくださませ!」

「う―――ん、そうはいっても今日はそんな気分じゃないしなぁ。お前がいやらしいことしないって誓うなら寝てもいいけど」

「誓う!誓います!!どうか今宵は姫様のおそばに・・・!どうか・・・!」

頭を畳にこすりつけて土下座しだしたので、雪姫はしょうがないなと嘆息した。

「わ―――かった。けど、少しでもいやらしいことしたらベッドからたたき出すからな!」

「はぁい・・・。姫様」


やがて夜になり、夕餉と風呂を終えた二人は仲良く雪姫の寝所へと赴いた。

式は枕を抱っこしながら、ちらちらと雪姫を見ていた。

「なあに?式。こっちを見て」

「・・・・・姫様は、突然いなくなったりしないですよね?」

最初、質問の意図がわからなかったが、母親の夢と重ねてみていってるのだろうと理解した。

「・・・いなくならないよ。指輪にも書いてあったでしょう?離れても心は常に貴方のそばに、と」

「ああ・・・!それは、それはわかっているのですが!式は、式は姫様と離れたくありませぬ!本当は仕事にも遠征にも出たくない!!ずっと貴方さまのそばにいたい!!」

苦しい胸の内を吐露すると、式は切なそうにぎゅっと愛する妻の体を抱きしめた。

「なあに?いきなりニート発言して。雪姫は仕事しない奴は嫌いだよ」

そういうと式の黒髪の頭をやさしくなでてあげた。

「さっき見た夢で不安になってるんだろ?今日はそばにいてやるから安心しな」

そういわれると式は眉尻をさげて、素直にこくんとうなずいた。

「よしよし。いい子、いい子。じゃあ寝ようね」


「姫様・・・・」

「うん?」

「式は、式は、姫様と結婚できて幸せでございます!」

「そう・・・」

「姫様は?姫様はいかがでございますか?」

「それはお前次第かな。私がお前を幸せにするように、お前も私を幸せにしてくれるんだろ?」

「はい!もちろんでございます!わが身のすべてを、姫様にお捧げいたします!」

「ふふ。じゃあ期待しないで待ってるから。ちゃんと幸せにしてね・・・」

「はい!姫様!・・・・お休みなさいませ、式の愛しい愛しい姫様」

そういって彼女の頬に恭しく口づけすると、二人はすやすやと静かな寝息をたてて眠りへと落ちていくのであった。

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