第十六話「サボドッグ」

 奈路が受けた依頼は、砂丘に現れるサボドッグというモンスター2体の討伐だった。

 前日に訪れた草原を横切ったが、今回はマーモロットに脛を噛まれることはなかった。

 すね当てのおかげだろうか。サボドッグと戦う前に怪我をしなくて済み、奈路としてはありがたかった。


 受付嬢に教えてもらった砂丘は、この草原の先にある。2時間ほどずっと歩いていると、線を引かれたように草原が突然終わり、砂丘が現れた。


 周囲を眺めるが、サボテンと砂しかない。本当にただの砂漠のようだった。

 注意深く見ると、気のせいだろうか、景色の中にサボテンが一つ増えている気がする。


 いや、気の所為ではない。確かに一つ増えている、あの丸いサボテンはさっきまであそこにはなかった。増えている。というより移動しているのか? じっと見ると、少しずつ右から左に動いている。


 武器屋のアデクに貰った曲剣を抜いて、その丸いサボテンを突くと、猛烈な砂塵とともに、地中から獣が現れた。


 サボドッグは小型犬の頭にサボテンが乗ったような見た目をしている。

 顔は愛くるしかったが、見ようによっては、頭に乗ったサボテンが露出した脳みそのようにも見えて、気持ち悪い。


 気性が荒いモンスターなのか、奈路の存在を認めると、刺されると痛そうな針の生えたサボテンで、迷わずに頭突してきた。

 完全に不意を突かれた形になり、奈路は剣で防ぐことに失敗したが、胸当てのお陰で、傷を負うことはなかった。


 改めて剣を構えて、距離を取る。

 金属製の胸当てが凹んでいるのに気づき、少し不安になる。


 またマーモロットの討伐を受ければよかった。

 ただ、永遠に小型のげっ歯類を殺し続けても仕方がないと思ったのだ。少しずつでも強いモンスターにシフトして行かなければ、成長はない。


 ただの運動不足の中学生とはいえ、剣を持っている。どんなモンスターかを聞いて、頭にサボテンをかぶった犬だという答えが帰ってきたとき、それくらいだったら倒せそうだと思った。


 剣は重い。その重さのせいで振りづらく、足かせにもなるが、心強くもある。

 金属バットで殴りつけるように剣を斜めに降った。サボドッグの頭のサボテンに当たった。サボテンは植物のような見た目に反して硬かったが、剣があたった場所が少しだけ欠けてヒビが入り、その傷から深い緑色の液体が犬の顔に垂れて来た。


「フシュー、フシュー」

 サボドッグの息が荒くなる。サボテンから垂れた緑色の液体が、サボドッグの目に入ると、目が真っ赤に血走り黒目が小さくなり、口からよだれを垂らし始めた。


 サボドッグの体が一回り大きくなったように見える。それは奈路の気の所為ではなく、実際に筋肉が隆起して、闘犬のようになっていた。そしてそれとは対象的に、頭にかぶったサボテンのサイズが、一回り小さくなっている。


「フギャァアアァァッ」

 血走った目で、牙をむき出しにしてサボドッグが吠える。

 特急列車のようにふらふらと揺れながら高速で、奈路に向かって突進する。

 

 勝てない。奈路はそう思った。

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