第十五話「期待の新人ナロ」
翌日奈路は、朝起きてすぐに宿を出てギルドに向かった。ギルドの中を見回したが、ハザンはいなかった。
「おい、あれか? ナロって」
「そうだ。冒険者になって初日で巨大なマーモロットを倒して、カルマイと決闘して勝ったやつだ」
「そんなに強そうに見えないけどな。ただのガキじゃねえか?」
「腕も細いし筋肉もなさそうだぞ」
「バカ。見た目に騙されるな」
冒険者たちの間では、噂はすぐに広まる。巨大なマーモロットを倒し、更にはカルマイとの決闘も制した奈路の武勇はこの場にいる冒険者全員にすでに広まっていた。
その様子を水晶を通して見守っていた女神は、うんうんと満足げに頷いた。
「これよ。私が求めていたのは。最強の能力を見せつける主人公と、それに圧倒される周りのモブキャラたち。さあ、噛み締めなさい奈路。そしてじゃぶじゃぶチートを使うのよ」
「うわぁ」
天使は鼻息を荒くする女神の様子を見て引いていた。
「なによ」
「いえ、何でも」
奈路が自分の噂をする冒険者たちから気まずそうに目を逸らすと、ギルドの受付嬢と目が合った。
「あの、ハザン見なかった?」
「ハザンさんなら朝、王の命令で城に招集されましたよ」
「城?」
「王の城は、街の中心の丘の上にあります。高位の冒険者になると、ギルド経由ではなく、城から直接依頼を承ることもあるんです」
「へえ」
聞きながら、奈路は頭を傾げた。
「アイツのランクってプラチナじゃなかったっけ?」
当然奈路より高いランクではあるが、そこまで高位とは思えない。なんせ上にもう3つもあるのだ。
「まああの人の場合は、少し事情がありますからね」
受付嬢は悲しげに笑いながら言った。ハザンの「事情」と言うのがどんなものかは気になったが、訪ねても答えてくれなさそうで、聞く気にはなれなかった。
「じゃあ、あの猫耳の」
「カルマイさんですか? 朝早くからダンジョンに向かっていました。多分暫くは戻ってこないと思います」
なんだ誰もいないのか。色々話を聞こうと思ったのに。
「仕方ない。じゃあ俺もなにか依頼を受けようかな」
奈路がそう言うと、受付嬢は待ってましたとばかりに、依頼が記載された紙が何十枚も釘留めされた板を持って、器用にめくり始めた。
そうなると周りの冒険者たちも当然、奈路がどんな依頼を受けるのか気になっている。すぐに周囲に人だかりが出来た。
「どれにしますか? ゴールドランクともなると、危険ですが報酬の多いクエストも受けることが出来ます」
奈路はペラペラとめくられる依頼書を眺める。記載されたモンスターはスカルナイトだったり、ゴーレムだったり、昨日討伐したマーモロットと比べるとちゃんとしたモンスターばかりのようで、正直言って微塵も倒せる気がしなかった。
「そうだな。じゃあ今ある中で」
「今ある中で?」
受付嬢も、周りの冒険者も、更には天界に居る女神も、皆が期待の眼差しで奈路を見つめている。
「今ある中で、マーモロットの次に弱いモンスターの討伐依頼をお願いします」
全員がため息を吐いた。
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