第十四話「魔王」

 戦いを終えた奈路は、金貨一枚で一月借りている宿屋に入った。


 この世界には、流石にシャワーはなかったので、井戸で水浴びをした。

 足の怪我はすでに癒えている。


 道具屋で買った回復液を、マーモロットに噛まれてボロボロになった足に掛けると、ジュワリという音とともに煙があがり、傷口が塞がったのだ。


 傷口があった場所には薄いかさぶたのようなものは残ったが、痛みも引いて、指で押しても、中に血が溜まっているような感じもない。純粋に怪我の治りを早送りにしたようだった。


 中学校の学ランもボロボロになってしまったので、動きやすく丈夫そうな服を新調し、不要になった制服は「ボタンや襟などの造りや生地が珍しいから」という理由で、金貨一枚という高値で買い取ってもらえた。


 忘れずにすね当てを買い、目に入った胸当てもついでに買う。

 驚いたのは、これらの取引を通貨を使わず、店のカウンターに描かれた直径10cmほどの小さな魔法陣に、冒険証をかざすだけで出来たことだ。


 奈路は自分が元いた世界にあった言葉をつぶやく。

「キャッシュレス決済だ」

 どういう仕組で動いているかは知らないが、それを完璧に実現できている。


「誰がこれを作ったんだ?」


 奈路が冒険証を見つめながら独り言のようにいうと、髭面の店主が答えた。

「魔王だよ」


 遠くの空を見上げながら続けた。

「かつては無限の富を与えたが、今じゃ無限の災厄を振りまいてる」

 そのセリフが、なんだかやけに印象に残った。


「『かつては無限の富を与えた』か」

 どうやら、魔王はただの悪役ではないらしい。いったい何者なのか。


「この世界の歴史も、少しは知る必要があるな」

 明日ハザンにでも聞いてみるか。また馬鹿にされるかもしれないけど。

 今日は色々ありすぎた。まだ一日しか立っていないのが信じられないくらいだ。奈路は目をつぶると、すぐに眠りに落ちた。

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