第十三話「最強の剣いらね」
建物の外では、既に奈路とカルマイが向かい合っていた。
奈路は、武器屋のアデクから貰った曲刀で戦おうと思っていた。しかし、大きな剣を悠然と構えるカルマイを見て、すぐに挫けた。
あの大剣が、構えた細い曲刀ごと頭蓋を砕くのが、容易に想像できてしまったのだ。
ズルじゃない、臆病でもない。シュレッダーに指を突っ込まないのと同じことだ。心のなかで、無理やり自分にそう言い聞かせたあと、奈路は女神から貰った剣を抜いて構えた。
「なんだ。大したことないな」
その剣を抜いた瞬間に、目の前の相手への恐怖がなくなった。
ハザンは、すぐにこのふざけた試合を止めるつもりだったが、奈路の落ち着いた様子と構えを見て考えを改めた。
「ナロ、お前は馬鹿なんじゃなくて、本当は強いのか?」
おせっかいだったのだろうか。ハザンは頭をかいた。
ある程度経験があると、少ない情報で、例えば構えを見るだけで相手がどれ程できるかが分かる。
奈路は、構えこそ全く素人のものに見えたが、一つ異常なことがあった。恐怖が微塵も無いのだ。
大剣を構えたカルマイを目の前にして、そんな態度を取れるやつは、少なくとも自分が知る中では見たことが無い。
「始めるぞ」
カルマイがそう言うと、上段に構えた大剣を振り下ろした。
奈路とは数メートルの距離があったが、一歩で詰められた。
その距離が無ければ、いくら剣が軽くても、横に構えて受けるのは不可能だっただろう。
ただ奈路は間に合った。はっきりと剣の太刀筋が見えたわけではなく、バントをするような感覚だった。
なんとなく上から来ると感じて、それに合わせて剣を横にして頭上に構える。
勝負は一瞬だった。
剣と剣がぶつかり、カルマイの方の剣が折れた。
いや、折れたというより「斬れた」というべきかもしれない。その断面は美しく、剣を受けた奈路に衝撃はまったくなかった。剣豪の一太刀ですら、豆腐を斬るような感覚で受けることが出来てしまった。
折れた剣先は奈路の背後の地面に深々と突き刺さり、奈路は危うくそれを踏んで怪我をしてしまいそうだった。
カルマイは目の前で起きた光景が信じられないという様子だった。
それは周りにいた野次馬たちも同じだ。今、眼の前で起きたことが信じられずに唖然としている。剣と剣がぶつかり合って片方が一方的に斬れるなんてことが起こるのか。
「やりやがった。なんてやつだ」
ハザンがそう言ってようやく、周りの野次馬たちも歓声を上げた。
カルマイは斬れた剣を地面に放り投げた。
「私の負けだ。殺せ。悔いはない」
「いや、殺さない。殺さない」
奈路は慌てて手を降った。
「すまないマモ太郎。お前の敵は討てなかった」
カルマイは目をつぶり、静かに涙を流し始めた。
その様子を見て、奈路に罪悪感がわき始めた。パーティを組まずに完全ソロでのマスターランク到達。小さなマーモロットにすら手こずった自分に、同じことが出来るとは全く思わなかった。
持って生まれた才能も多少はあろうが、それでもこの実力に到達するまでに、彼女がしてきた努力を思う。
それを自分は、女神から貰ったチートを使って簡単に勝ってしまった。
「剣も折れてしまったしな。ははっ。また買いに行かないとな」
奈路は女神から貰った剣をカルマイに渡した。
「これ、やるよ」
カルマイは奈路の顔を信じられない者を見るような表情で見た。
「いいのか?」
「俺はもう使わないから要らない。折れた剣の代わりになるかは分からないけどな」
そう言うと、振り返らずにその場を立ち去った。
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