第10話 呪い




『呪いのアイテムを手に入れました』


「は、はぁ?」


“あっ……”

“あっ……”

“不味い”

“草”


「それ……呪いの剣、拾ったら二度と手放せないやつ」


「え? マジで?」


 俺は床に落ちていた説明書を拾って読む。

 ええっと……

『赤の呪剣』、所有者が死ぬまでこの剣は離れない?! それ以降の呪剣の力に関する説明は文字化けしており、わからなかった。


“呪剣シリーズ……”

“手放せる?”

“wwww”

“これだからななせんの配信見るのはやめられねぇんだよな”


 試しに俺は剣を地面に向かって投げる。

 すると、剣は途中で方向転換して俺の手元まで戻ってきやがった。


「ははは、正気かよ、呪剣? 聖剣の間違えじゃなくて?」


“呪剣です”

“こんな禍々しい聖剣あってたまるかよ”

“ワロタ”

“現実逃避ななせん助かる”


 なんか、最後のコメントだけ変態味溢れているように見えるのだが、気のせいだよな?


「と、とりあえず、持って帰るしかないか……」


「うん……そうするしかない」


 三つのイレギュラーにドラゴンに呪いの剣……どうやら今日は厄日のようだ。


 その後、俺はリノさんにサポートしてもらいながらダンジョンの入り口までたどり着いた。



 ――――――



 スレッド:七瀬とかいうダンチューバーについて 2



 336 スレ主

 七瀬がエグすぎる


 337

 >336 そんなのテレビで流れてたから誰でも知っとるわ


 337

 ヤバいな……リノもえげつないけど七瀬も一撃でドラゴン倒しやがった


 338

 ていうか、リノの奴、いつの間にか新しい素質なんて手に入れてんだよ


 339

 最近はネットに出てきてなかったからな、運よくオーブを手に入れたんじゃね?


 340

 とにかく、七瀬君が死ななくて良かった


 341

【七瀬は呪いの剣を手に入れた!】


 342

 www


 343

 >341 ホントにななせん、今日ツイてないよな……


 344

 逆に面白くなってきたわ


 345 スレ主

 ていうか、いつの間にかに七瀬の考察スレ、10個ぐらい増えとるww


 346

 そりゃあ、ドラゴンを倒したんだからな、そのおかげでかなりの時間が稼がれた上に何故か、モンスターの強さやダンジョンの構造も元に戻ったからな


 347

 イッチのスレが一番初めやで、おめでとう


 348

 スタンピード起こる前からななせんに目をつけてたイッチすごすぎやろ


 349 スレ主

 >347 >348 あざす


 350

 >346 でもさ、こう考えるとななせんがダンジョンに殺されかけてるみたいだな


 351 スレ主

 >350 というと?


 352

 まるで誰かがダンジョンを操作していて、意図的にななせんのことを殺そうとしていた……みたいな? ごめん、やっぱないか


 353

 >352 ダンジョン操作する技術とか現代にあるわけないじゃんww エアプ乙


 354 スレ主

 まあ、確かにそれは絶対にないな


 355

 >352 そんな技術あったら世界崩壊してるだろww


 356 スレ主

 そうだな、それで話変わるけど、リノが七瀬を助けに行くのちょっと遅くなかったか?


 357

 >356 それ、ワイも思った


 358

 確か、ななせんとリノ氏は同じ大学なんだっけ?


 359

 マ?


 360

 マジマジ、別の考察スレで何人かの特定班が特定してたで


 361 スレ主

 >358 そうなんだよ、だからリノは上手いこと時間を合わせて、七瀬がピンチのタイミングで現れたんじゃないかって俺は思ってる


 362

 深読みすぎだろ


 363

 一応、ななせんを助けた人なんだから感謝しろよ、それに女性なんだから準備とかあったんじゃね?


 364

 >361 ワンチャンある……というか俺もその可能性追ってた


 365 

 >362 >363 ごめんて、でも可能性の一つとしてな


 366

 >361 ありそうだわ、リノって何考えてるかわからないし


 367

 リノ氏って昔からのリスナーなんだろ? なら、ななせんに好意を持っていて好感度を上げるために……ていうのはあるかもな


 368

 もうリノ氏疑うのやめね? 一応、俺らのななせんを助けてくれたんだし


 369 スレ主

 >368 そうだな、すまんかった




 ――――――



「は、は? 何これ」


 ダンジョンの外に出ると、そこには何十台もののカメラが俺らに向いていた。

 あれ? もしかして有名人がダンジョン内に取り残されたのか? それかリノに対する取材とかがあるのか?


「英雄だ! 英雄が来たぞ!」


 そんな声が聞こえるとともに何故か場は大きな熱気に包まれた。

 えっと……つまり、ドラゴンを瀕死にさせたリノさんに対する取材とかみたいだな。よし、邪魔者はおさらばさせてもらおう。


「夕日新聞です! スタンピードを抑制できたのは何故でしょうか? そして――」

「毎々新聞です! スタンピードに一人で立ち向かったのには感動しました、何か視聴者に一言――」

「読読新聞です! ドラゴンを一撃で倒せるほどの実力者であるのに、何故、隠していたので――」


 だが、あまりの人の数に通れる隙間なんてなかった。

 俺はどうしたらいいのか右往左往していると――


「――邪魔、どいて、ななせんを困らせないで」


 そんな氷のような声が場には響き渡り、人々は無意識的に道を開けた。


「行くよ、ななせん」


「う、うっす」


 やべえ、リノさんカッケェ……。





 ちなみに、後日気づいたことなのだが、この取材ラッシュはまさかの俺に対するものだったらしい。

 家に帰ってから大量のメッセージが三宅などの大学の友人から届いており、それで気付いたのだ。


 ……

 …………

 ………………


 あれから1日が経過した日曜日、俺はダンジョン配信をせず、家でゴロゴロしていた。


「ネットでは英雄とかヒーローとか言われてるけど、別に俺は自分のために無謀なことをしただけなんだよな」


 彼女に浮気されて何もかもがどうでも良くなっていたというのも原因にあるだろう。

 もしもあれで俺が死んでいたら、ニュースの内容はスタンピードを抑制した英雄ではなく、調子に乗って死んだ馬鹿者になっていたな。


 何せ、三年間死者ゼロ人を謳う国なのだ、変なことをして国の評判を下げたら、ネットは批判で溢れるに決まっている。


 そんな自虐をしながらベッドの上でゴロゴロしていたら、一件のメールが届いた。


『七瀬蓮様へ 緊急でお話ししたいことがあるので今からでもいいのでお時間いただけないでしょうか? ダンジョン協会より』


 と。

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