第47話 駐車場で社会主義

「おい、お前ボロ負けじゃないか」

「ああ、今月の給料ほとんどすっちまった」

「あのなあ、ほどほどにしないと足をすくわれるぜ」


 パチンコ店を出て、悔しい顔をした若い男とその男を宥めるおじさん。

 同じ職場の同僚だろうか?


「……もうとっくの昔にぬかるみ行き」

「何だとー!」


 駐車場の近くで交通整備もせずに、のほほんとしていたジーラからのツッコミ。


 時刻はお昼過ぎ。

 お客さんの往来もなく、何もすることがないジーラがとった行為がこの毒舌染みたツッコミである。


「全く何だよ、この失礼な警備員は?」

「コイツ知ってるぜ。今月からここを担当してる女の子だぜ」

「えっ、女の子にパチンコの警備なんて勤まるのかよ?」


 男二人がジーラの容姿をマジマジと見ながら、子供たち扱いをする。

 例え、幼く映っても18過ぎたら立派な大人なのに。


「その下りなら入社前も聞かされましたわ」

「……失礼な、かわらにもほどがある」

「それ、やからじゃね?」

「……そうとも言う」

「いや、類義語じゃないから」


 リンカがジーラに国語辞典を押しつけながら、日本語の良し悪しを伝えてくる。

 ケセラの言う通り、類義語辞典の方が良いのでは?


「何だ? 似たようなお馬鹿な警備員がぞろぞろと現れたぞ?」

「人をゾンビのような扱いで言うなや」


 ケセラが手刀を構えた姿勢になり、戦闘のスイッチを入れる。

 このボケの漏電に対し、アース線は取り付けてあり、高圧電流は流れないので安心して欲しい。


「……いや、辛うじて脳は機能している」

「ジーラ、萎縮の間違いじゃないかしら?」

「あんたらウチを何だと思ってるん?」

「ゾンビの警備員かしらね?」

「そのゾンビの下りはええから‼」


 ジーラとリンカの生身の攻撃に言葉のナイフで反撃するケセラ。


「あははっ、面白い警備員たちだな」

「お嬢ちゃん、そんな警備員より、ここのパチンコの店員になってくれん? その方が儲かるで?」

「そうそう、四人とも美人だからな」


 どうやら、美人ゆえに男衆の受けの方はいいらしい。


「いえ、お気持ちはありがたいですが、私たちはこの仕事に誇りを持ってます。そう簡単にコロコロと転職するわけにはいかないんです」

「……ミクル、この物語では転職しまくり」

「まあ、あくまでも妄想の設定やから、好き勝手してるけどな」


 ミクルが真っ当な答えを返しても、この物語は女子高生がそのまま社会人になったフィクションな設定である。

 色々と仕事のルールや作業に無知なのは、しょうがない。


「お嬢ちゃん、まだ若いのに色んな世間に飲まれて来たんだな」


 男二人して、女子の前で涙を流す。

 広大な玉ねぎ畑でも刈ったのか?


「いえ、お兄さんたちには負けます」

「……パチンコで負け続けなのに、めげずに通う部分とかが何とも」

「とても粘り強いですわ」


 リンカが『自然薯といい勝負ですわ♪』と叫びながら、がら空きな彼らのハートを掘り起こす。


「おい、おちょくってんのか。お前ら?」

「……遊んで儲ければ良いとする考え自体からおかしい」

「お前ら、人が黙っていれば」

「どうやら、ヤキを入れんといけんようだな」


 ジーラの正義感に満ちた正論でぶちギレる男二人。


「いいんですか? あと五分でここの駐車料金が値上がりしますわよ?」

「なっ、それを早く言えよ‼」

「おい、コイツらに構う前にさっさと行くぞ」


 リンカが助け船を出し、ジーラの身の安全を確保する。

 男二人は颯爽さっそうと車で駐車場から出ていった。


「ありがとう、リンカ」

「いえいえ。親友が困ってるもの、礼には及びませんわ。リンカ的にはコーヒー牛乳と菓子パンがあれば結果オーライですわ」

「昼飯をたかるなや‼」


 あれだけクールに決めておいて、最期は飯の話になる。


 イラついたら、まずは空腹を満たすといいというおかしな発想。

 その社会的思想がジーラの胸の奥まで行き届いていた。


 ここは資本主義の日本だよ?

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