第46話 熊による通行爪
「行かせてくれ、嬢ちゃん。俺はその先にある温泉施設に行きたいんだ」
「駄目です。この先は工事中で立ち入り禁止です」
ミクルは一人の警備員として、路地裏からやって来たドライバーと戦っていた。
と言っても乱闘騒ぎではなく、心の葛藤との闘いであったが……。
「とか言いながら嘘なんだろ? 工事中の気配すら感じねえし」
「……普通の人には分からない工事中」
「俗に言う歯医者の治療さんですわ」
ドライバーの方もプライドがあるせいか、一向にひく気配がなく、ジーラとリンカが怖い例えを出しても、何てことはない様子である。
「歯医者なら、なおさら通れるだろ? この道は近道で便利なんだ。存分に利用させてもらうよ」
「あっ、待ってください!」
「待てと言われて待つドライバーがいるかよ。お先にー!」
ドライバーが軽トラのハンドルをきかせて大きくカーブし、立ち入り禁止先を進んでしまう。
三人の新米警備員は呆然とその軽トラを見送っていた。
いざさらば、我が暴走である。
「……あーあー、行ってもうた」
「ケセラちゃん、凄く怒りそうですわ」
「まあ、後は天に祈るしかないですね」
ミクルが天に誘導棒を突き出し、天とやらに天丼をお願いするが、残念ながら天界にあるのは、わたあめでそんな
****
「──であるからに、この場所には栄養豊富な植物が育てられており……」
「へえ、そうなんだ?」
「ねえ、この葉っぱ、触ってみてもいい?」
「どうぞ。なんなら持ち帰ってもいいですよ。その代わり、先生の許可を取って下さいね」
「「はーい!」」
見た目二十歳なお姉さんによる教諭が小学生を連れて、大きなトラックを背にした山のふもとで、ある植物の課外授業を行っている。
「のどかやな、これが平和と言うもんやろうか」
そんなケセラは、その小学生たちの護衛任務をしていた。
どんな怪しいヤツが付きまとうか分からないし、子は生まれながらの宝だ。
ロリコンか、幼子目当ての変なヤツが来たら、問答無用ではったおす。
ケセラはいつになく、この警備に熱が入っていた。
「おら、どけどけガキども‼」
「なっ、この先は通行止めやろ?」
しかし、やって来たのは人間どころか、車ごとであり、ケセラは正直焦っていた。
「ちょい待ち、ここから先は立ち入り禁止で?」
「ヘンッ。工事中でもないのに何言ってやがる」
ならば仕方ない。
ヤツの餌食になってもらおうか。
『ガオオオオー!』
ケセラが大きなトラックの檻に入っていた野獣を解き放つと、ヤツは大きな雄叫びをあげて、周囲に生えている笹を食べ始める。
そう、ケセラの真の護衛は、別の動物園に移動となるパンダを乗せた大型トラックの護衛だったのだ。
「何、まさかのパンダの登場だと?」
「パンダは笹を食うけど熊やからな。どうやらコイツの闘争心に火をつけたようやな」
『ガオオオオオー!』
パンダは小学生に見守られながらも笹を食べ続ける。
とりあえず、飯でも食わせとくか。
「何の。パンダが怖くて走っていられるか。どけどけ!」
ドライバーが車のアクセルを吹かせて、パンダの脇を潜り抜けようとする。
『ガオガオー!』
『バチーン!』
「あひっ!?」
しかし、パンダはその隙を逃さなかった。
破壊力抜群の熊の手が軽トラごとクリーンヒットし、ドライバーもろとも遠い星になった。
本当はホラーな事故なのだが、この物語はコント使用なので、おちゃらけに表現してみた。
「パンダなめんなよ」
子供たちがニコニコしながらパンダに礼をしてるのを傍目に、この仕事も悪くないなと、満足げに白い歯を見せるケセラであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます