第42話 お買い系
「それではご会計の方が三千三百三十二円になります」
本日、このファミレスは人手が足りないため、ミクルがレジを担当している。
こんな小娘にうどん打ちじゃなく、レジ打ちを任せていいのか?
いや、最近の高校生は発育も良く、子供のようで十分に大人びている。
「お客さん、今日はついてますね。今ならもう一円を足すとレシートがゾロ目になってお得ですが」
いきなりミクルが、わけの分からないことを喋り出した。
そのような緊急マニュアルはないはず?
キッチンからの熱気で脳みそをやられたか?
「ええ、その方が受け取った時に気分がいいでしょう? 後でSNSのネタにもなりますし」
ミクルのお客さんへの説得は長い時間に渡るが、相手のおじさんも人柄が良いらしい。
『まあ、この子の気が済むまで付き合ってあげよう』風ないい人オーラが身体から滲み出ていた。
「人生長いんですし、一度くらいバズってみたいでしょ?」
『バズりたいのは君の頭じゃないのかね……』と小言で返したお客さんの前にしゃしゃり出て、お玉とフライパンを持ったまま、こちらへと注意を引かせるジーラ。
いつもは奥に引っ込んでいる料理人が最前線に赴くとは。
ファミレスは接客も大忙しである……。
****
「──お客さん、ご会計の方が三千円ピッタリになりまして」
──何とかケセラの手腕で会計を終わらすが、次のおじいさんなお客さんの会計で、またもややらかすミクル。
「えー、千円分の割引券を三枚使用ですか?」
ミクルが割引券を前にしても、一歩も退かない態度に出る。
「あれだけ食べるだけ荒らして、無料で店を出るなんて後味悪くありません?」
何だ?
ミクルにとってのお客さんはゴミ捨て場を散らかすカラスのつもりなのか?
「悪いことは言わないですよ。せめて千円だけでも、きっちり払いませんか?」
相手が折れるまで、犯人(ミクル)の要求は続く。
「ええ。レシートも見映えが良くなって、SNSでバズること間違いなしです」
『このお嬢ちゃんは、どこか頭でも打ったのかのお?』と、おじいさんが聞こえないような声を発するが、その場に躍り出て、おじいさんにその興味を反らすため、フラダンスをするリンカの姿があった。
ここのファミレスのスキルにはダンスの腕も試されるらしい……。
****
「──なあ、ミクル。最近、会計役でウチがよく呼び出されるんやけど、何か心当たりない?」
後日、ファミレスにてレジを担当しながら、素朴な疑問をぶつけるケセラ。
「ケセラさんの会計がお上手過ぎるんですよ」
「会計に下手も上手も関係ないと思うけど? それに常連客ばかりやし?」
ミクルの上手な使い回しに言いようにされるケセラ。
ここに来て、相手が一味も二味も違う瞬間でもある。
「……正直者は馬鹿をみる」
「立派な会計士になれますわね」
ジーラとリンカが息を切らしながら、ミクルの肩を持つ。
この調子だと、どうやら何かしらのアイテムで買収されたようである。
「はい。これからもお客さんの心に残る会計を」
「トラウマを植え付けるな!」
ケセラがミクルの脳天にピコピコハンマーを当てようとして、ふと気づく。
そう言えば自宅で手洗いし、陰干ししたままだと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます