第17話 均等に叩き売り
「ここに五本入りの二百円のバナナがあったとします。四個入りの三百円のミカンも一緒に購入して三人の友達に均等に分けるとしたらどのような方法で分けたらいいでしょうか?」
早速、出ましたな。
数学の基本と言える、これらを買ったので色々と計算してもらえませんか、レッツゴーオープン戦、ホームラン宣言。
あーあー、コホン。
君たちの持ってるその携帯電話は、紙飾りか、粘土細工、それとも金次郎飴かね。
「……とりあえず均等なサイズに切って配る」
ジーラが痛バッグからキッチンばさみを取り出した。
この調子だと、剪定ばさみや高枝切りばさみ、斬鉄剣なども隠し持っていそうだ。
また余計なものを斬ってしまった。
「あのさあ、そんな都合のいい設定なわけないやろ?」
「はい、それじゃあ、ちぎるのですね」
ミクル教師がちぎりパンをトートバッグから出して四人で仲良く分けようとするが、今は授業中であーる。
「だから式を求めろや」
ケセラ数学教諭は正しい答えを望んでいた。
しかし、周囲の生徒サイドはあまり関わりたくないのか、ノートに書き記すシャーペンの筆記音のみで一向に答えは来ない。
望めば何でも願いが叶うドラゴンもどきのようにはいかないものである。
そうか、お前たち。
そんなに親子ごっこが嫌で他人丼が食べたいか。
「へい、嬢ちゃん。今日はバナナが安いですわよー‼ まずは二百万円から」
リンカ教育実習生がねじりハチマキを頭に巻いて、なぜか浴衣姿で、大きなハリセンでバナナの置かれたテーブルを叩く。
待て待て、二百万もするバナナって何よ?
「百九十円」
その黄金色のドーピングバナナに食いついたミクルが大幅な値下げ交渉をする。
「……百八十七円」
続いてケチかリッチか分からないジーラが何円か値下げする。
「誰が教室でバナナの叩き売りをやれと?」
ケセラは二人の言動に腹を立てて、周囲を騒がせるわけにもいかず、バナナを買ってみようとするが、リンカから『これは売り物ですので』とやんわりと断られる。
それでもケセラは一歩も引かず、『いや、ウチは売り物を買いに来たんやけど?』と問い正しても、『今、責任者のリンカは外出中ですので、その問いにはお答えできません』のマニュアルガチガチな対応。
あのリンカさん、さっきまでここに居ましたよね?
今授業中ですし、別室で流行りの異世界転生中ですかー?
「あっ、ミカンの方がお好みでしたか。すみません、鮮度が命なもので……」
ミカンをハリセンで叩くわけにはいかずに鮮度が問題と言い張るミクル。
おい、お嬢さん。
そんだけ鮮度にこだわるなら、ウチにある糖度計持ってくるぞ。
「魚市場か!」
だが、ケセラの脳内イメージでは別の市場の流れだったらしい。
「フムフム。この際ですからシーフードミックスも売りに出しましょうかしら?」
「……それよりも喉が渇いた。フルーツミックス飲ませろ」
「いや、それよりもこの問題を解いてや」
今日もケセラ数学教諭の授業は進みそうにない。
進んでいるのはミクルを除いた無言で問題を解く生徒たちのシャーペン音のみだ……。
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