第2章 先取先生、我々はスポーツマンシップさえも乗っ取り

第12話 点呼にて音楽科へ転向の姿勢

「それでは出席をとります。名前の言われた者は返事をするように!」


 ケセラ教諭が出席簿を開いて、生徒たちとの点呼てんこをとる。

 点呼とは喉ごしのよいと言葉の響きが似ているが、食べ物の進化系でもないし、ましてや食べ物でもない。


「はいです!」

「あのー、ミクル。あんた教師なのに何で生徒の席に座ってんの?」


 ケセラ教諭が先週から新米教師としてきたミクル教師に当たり前の会話をする。

 ミクル教師は窓際の席に座っており、机には直に彼岸花が生えていた。


 彼岸花が咲く条件として死体を栄養の糧とているようだが、この場合は机に入れたままの腐った牛乳か、カビの生えた食パンだろうか?

 異次元の食料に侵されて、食虫植物にならなかっただけでも奇跡だ。


 ちなみに教師は一般職だが、教諭は教員免許を所持した者限定となり、ケセラの方が偉い立場になる。

 是非ともケセラ『頑張ったで賞』を送りたい。


「ケセラ教諭。それは生徒に対してのパワハラ行為ではないでしょうか?」

「だからミクルは……」


 ミクル名だけの教師が糸を絡めた指を小刻みに動かし、子供のように無邪気に笑う中でケセラ教諭は頭を抱えていた。

 校長先生、よりにも何て教師を採用するのですか?


「あー、もうしょうがないですね。一から説明しないと駄目ですか」


 ミクルがあやとりをする手を休めて、席からゆらりと立ってみせる。

 他の生徒が不思議そうに見ながらもケセラと乱闘の始まりなのか?

 この争いは席ヶ原の戦いと呼ばれ、後世へ語り継がれた……そんなわけがない。


「……ミクルは元から駄目人間」

「教師になった理由も学食が食べたかったという不純な動機からですわ」


 ジーラとリンカの教育実習生二人の方がミクルの教師ステータスにやたらと詳しかったりするから不思議でならない。


「ケセラ教諭。話せば長くなりますが、あれは私がお母さんのお腹にいる時でした」

「どんだけ過去を遡っとん?」

「……鮭の大冒険みたいな」


 産卵前の鮭のメスは子供を生むために激流の川をひたすら上る。

 上った先に新天地があることを願って。


「その調子だと、ミクル教師も大きく出世できそうですわ」

「まあ、一番の理由は生徒に戻りかったというものですが……」


 出世してサーモンになったとしても、優秀な成績の生徒になれるとは限らない。

 二束三文にそくさーもんとは、まさにこのことだ。


「……転生したらミクルは生徒だった」


 ジーラが大ヒットした異世界ファンタジーの小説本を片手に色々と語り出す。

 別に転生しなくも、普通の生徒にはなれるのだが?


「いんや、ミクルのはただの現実逃避や」

「逃避。実にいい響きです。アン、ドーナツ、トロワー♪」


 ケセラ教諭が檀上で白鳥のワルツを踊ろうとしたミクルを現行犯で捕まえる。


「これは何の真似ですか? 私は音楽科の教師ですよ? 授業内容を生徒に提供するのは教師として当然のことかと?」

「だったら己の授業中にやれやー!」


 今ここに教師の格好だけをしたミクル教師にケセラ教諭は逮捕状をおくった。


「──皆さん、おはようございまーす!」


 だが、未遂だったため、翌朝には釈放され、次の日、何食わぬ顔をしてミクルは出勤してきたが……。


「……死者は墓から蘇るか」

「何なん、その宗教設定……」


 苦しい時の神頼みなケセラ教諭はつくづく思った。

 生きるしかばねはどこまで追いつめても、てんで駄目な屍でいるものだと……。

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