53話 拒絶

 その忍者は静かに俺たちの前で着地する。


「お主らが件の輩か?」


 女声。くノ一か。


 背格好ではいまいち性別が読めなかった。


「まあ聞くまでもないか」


 静かに視線がが抱いている少女に向けられる。


「返してもらおう。さすれば見逃してやらんこともない。今重要なのはその子を連れ帰る事なんでな」


 何物にも遮られることのない風が通り過ぎていく。誰も何も動かない。


「……嫌」


 静かになっていた腕の中のセルウェラが小さく言葉を零す。


 それはくノ一にも届いたようだった。


「な、何故ですか?! 家に帰るべきです!」


「家って、何ですか。あの、崩れ落ちた、瓦礫ですか。あんなところで、私に、何をしろと」


「王が早急にお戻りになるそうです。お願いです。王に貴方様が元気であるところを見せてあげて……」


「貴方もお金目当てですか」


「なっ!? 滅相もございません! 拙者はただ、ただ……」


 最後の声は消え入るようだった。動揺か、また別のなにかか。


「お母様は?」


「あのお方は、その……」


「死んだんでしょ?」


「――!? ご存じで?」


「傭兵が話しているのを聞きました。あと、私を持って帰れば一生分の金が手に入るとも。貴方も同じでしょ?」


「拙者は違います。仮に貴方様を連れて帰ったとして、報酬は一切受け取らない事をここに誓います」


「そんなことを言われようとも私は嫌です」


「拙者はどうすれば」


「私はイツキ様についていきます。この方は私の将来の伴侶です」


「……は、伴侶?」


「……え?」


 ここで俺を巻き込むの? え、なんで伴侶?


 俺の腕にお姫様抱っこされたまま、セルウェラは饒舌に語りだした。


「私が城から逃げ出した時、助けてくれたのがイツキ様でした。刀を振るう敵を退け、共に逃げてくれました」


「退けたの私だよ」


 ハルが喋る。しかしセルウェラは聞いていない。


「あの時の横にいてくれたという心の支え、身を挺して庇ってくれた勇気、行動力。私はこのお方に全てを捧げる覚悟はできています」


「勝手にそのようなことを決められましても」


「少なくとも貴方達よりは信用できます。この方たちなら、すぐにお父様に会わせてくれます」


「……そうですか。何故だ。なんでセルウェラ様がこんな風に……」


 文字通り頭を抱えるくノ一。


 そして急に静かになった。


「お主らのせいか」


 そう言い俺達をねめつける。


「許さない。絶対に。『ストプレル』」


 なにかを呟いた瞬間、俺の体が硬直する。


 一切何も動かせない。


「ふふ、全員動けないだろ。まずはお主からだ」


 そして再びクナイを投げようとする。


 しかし、それは


「『フリセッド』!」


 メイの魔術によって防がれた。

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