48話 城の中から

 爆発音は静寂を齎した。


 崩壊していく天守閣。


 再び爆発音がなる。


 先程天守閣があったところから火が出ている。


「イツキ! 早く離れるよ!」


 ハルの声で我に返る。


 その声の方へ走ろうとした時、城だった所の門から豪華な着物を着た少女が走って出てくる。


 俺はそれを見て、放っておくことはできなかった。


 俺はハルの声と反対方向に走る。


「ちょっと!」


 ハルの驚く声が聞こえる。


 それを無視し、俺は少女の元へと向かう。


「大丈夫か?」


「え、お兄さんは?」


「気にするな、それより早く」


「え、あ、わかりました」


 俺はハルの方に向き、走り出す。


 少女が俺の後に続く。


 そのとき、背後から何かを感じた。


「――!? 危ない!」


「え――」


 俺は少女を抱き寄せ身を小さくする。


 なにかの魔術が真上を通り過ぎていく。


「早くいくぞ!」


「あわわわわわわ」


 何故か混乱して俺の声が届いていない。まずい。


 次の瞬間、俺は魔術ではなく人が飛び出してくる気配を感じた。


「――ッ!?」


 俺は再び彼女を引き寄せ、彼女を上にするような形で横に飛ぶ。


 刹那、そこには刀が振り下ろされていた。


「避けられた、と。褒めてやるよ。もう終わりだけどな」


 突然現れたそいつは黒いフードを深く被り、顔は見えないが殺意に満ちた目を俺に……いや、この子か?


 そいつは右手だけで持っていた刀を左に引き、それを少女の首めがけて横に振った……はずだった。


 甲高い金属がぶつかり合う音がした。


「なっ!」


 そいつはいきなりの出来事に怯んだ。


 俺も驚きを目を見開いた。


「イツキ、大丈夫?」


 目の前で刀をはじいたのは、ハルだった。


 両手にダガーを持っている。


「邪魔すんな!」


 フードの男はハルに標的を変え、刀を振る。


 しかし、何度振ろうとも決してハルには当たらない。


 全て弾くその早業に俺は思わず固まっていた。


「イツキ、早くその子を連れて逃げて」


「わ、わかった。でもハルは……」


「早く行って!」


 その声に突き動かされるように俺は立ち上がり、少女を連れて走り出した。








「……どういうつもりだ。俺の獲物を逃がすとは。俺に勝てるとでも?」


「ええ、多分余裕ね」


 スカーフで顔を隠していてもわかるほど、ハルはにっこりと微笑む。


戯言ざれごとを。死んで後悔しろ」


 再びフードの男の刀がハルを襲う、が、それもダガーによって軽くいなされる。


「チッ、くそが!」


「無駄、そんな攻撃じゃ私を殺せないよ」


 刀を振る。しかし弾かれる。


 それは何度やろうとも変わらなかった。


 すると、城の門から他の人たちが出てきた。


「ゲラリア、見つけたか?」


 そのうちの一人がフードの男に呼びかける。


「逃げられちまったよ」


 男は答える。


「お仲間さん?」


 ハルは暢気に質問する。


「お前には関係ねえ」


 刀を振る。また弾かれる。


 連続で振るも状況は変わらない。


 そんな様子を先ほど門から出てきた人たちはじっと見つめる。


「なんで当たんねえんだ、よ!」


 また弾かれる。


 そこで動いたのがハルだった。


「そのフードが邪魔なんじゃない? 取ってあげる」


 次の瞬間、ハルがダガーをフードに引っ掛け、一気に引き裂いた。


 フードが外れ出てきた顔は、毛に包まれていて、獣のような耳が生えていた。

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