47話 オトイック城

「二人ってどういうことだ?」


「どういうことも何もそのまんまですよ。最初は12年前、次は8年前、勇者は現れたんです。あれ、ご存じないですか、『勇者戦争』」


 また新しい事を言われた。『勇者戦争』?


 その言葉の意味は簡単に予想できた。


「二回起こったのでそれぞれ『第一次勇者戦争』、『第二次勇者戦争』って言われています。まあ名前は戦争っていってますけど実際戦っていたのは勇者だけですがね。異次元過ぎて誰も戦いに入る事なんてできなかったんですよ、きっと」


「その戦争は、いつの話だ?」


「それぞれ、現れたといわれる大体2年後だったと思います」


「なるほどね……」


 俺は考えあぐねていた。


 そうだ。ついでに聞いておこう。


「まだ質問したいんだけどいいか?」


「いいですよ」


 ノレジは朗らかな笑みで快諾する。


「勇者の特徴って何かあるのか?」


「それも言い伝えでの記述がありますよ。えーと」


 ノレジは再びメモ帳をめくる。


「『一つ 特異、あるいは稀有な能力を持つ。ただし、『魔の勇者』は二つ保持する。

 一つ 他の世界から逸れた者。』。

 まだ続きはあったらしいのですが、文字がかすれて読めなかったみたいです」


 能力か。思い当たる節はある。


 そして、『他の世界から逸れた者』。


 今のところ矛盾はない。喜ばしい事ではなかった。


「どうしました? 顔色が悪いですよ」


「ああ、気にするな。大丈夫だ」


「お城はまだなの?」


 後ろからハルが声をかける。


「あ、すいません! すっかり話し込んでしまって! もうちょっとです!行きましょう行きましょう!」


「最後に一ついいか?」


「え、いいですよ!」


「ノレジはこの『勇者』たちをどう思ってる?」


「……僕は、『勇者』が憎いです」


 今までの声のトーンから想像できない程低い、暗い声で返答する。


「だから、いつか知りたいんです」


「何をだ?」


「……僕の、家族を生き返らせる方法を」








「もうすぐ着きますよー!」


 ノレジは楽しそうに言う。


 先程は思いっきり地雷を踏んでしまったため、俺は少し後ろの方で黙っている。


 それと、先ほど聞いた話を頭の中でまとめている。


『言い伝え』、『勇者戦争』。


 そして、『四人の勇者』。


 今までは俺が『魔の勇者』としか思えなかったが、能力はまだ一つしかわかっておらず、二つ目があるかどうかわからない。


 先程のノレジの話だけでは俺が『魔の勇者』と断言するのは難しいが。


 今まで言われたことがつっかえる。


 もし、俺が『魔の勇者』なら、世界を壊すことはないだろう。


 そもそも壊すとは曖昧過ぎる。


 しかも、俺がそうする理由すら存在しない。


 なら、俺はどうするべきなのだろうか。


 他の『勇者』を探す?


 どうやって。


 また頭が混乱してきた。


「着きました! これがこの国の象徴、オトイック城です! ドーン!」


 そんな声が聞こえ、俺は顔を上げる。


 巨大な城が立っている。天守閣は白く、空からの光を反射させて輝いている。


 その下、俺たちの前には堀があり、そこに橋がかかっている。


 石垣も高く急になっている。


「すごく綺麗でしょ! 僕はこの城を見るのもす……」


 辺り一面に腹に響くような爆発音。


 ノレジの興奮気味の声が途切れる。


 それは当然のことだった。


 天守閣が崩れ、辺りに粉塵をまき散らす。


 俺はいきなりのことに呆気にとられたままだった。

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