45話 圭鐘宮

 ノレジの案内で、俺たちはオトイックの町を歩く。


 街並みがまさに想像する昔の日本で、まるでタイムスリップしたかのような錯覚に襲われる。


 前ではハルとノレジが先ほどの話の続きをしている。


「――つまり、あ、皆さん! 到着しました!」


 ノレジがクルッとこちらに向き直る。


「こちらが世界最高傑作の庭園、『圭鐘宮けいしょうきゅう』です! ドーン! 色んな国から観光客が着て大賑わいなんですよ! あ、でも絶対に荒らさないでくださいよ!」


 セルフ効果音を付けてくれた。


 これは数寄屋門すきやもんだろうか。その門の扉は閉まっている。


「今開いてるのか?」


「開いてないですよ! ちょっと待っててください!」


「え、あ、わかった」


 ノレジは返事を待たず扉の方に走っていき、少し扉を開けその中に入っていった。


 開いてないのじゃなかったのか?


 しばらくすると、再び門が開き、ノレジがそこから顔をのぞかせてきた。


「入っていいって許可が出ました! さあ、行きましょう!」


「開いてないのに勝手に入って大丈夫だったのか」


「気にしないでください! 回りたいところは他にもあるので、早く行きましょう!」


 そう言って再び門の奥にノレジは消えた。


 俺達は恐る恐る門を押し、中へと入った。


 そこに広がる光景は……、


「すごいわね」


「……めちゃくちゃ綺麗、完璧」


 視界一面に広がる池や石、池を渡るための橋など、美しい風景が存在していた。


「おーい!」


 声のする方を見ると何かの建物の前でノレジが飛び跳ねながら手を振っていた。


 こっちに来いということだろう。


 俺達は池に接する石畳の上を歩きノレジのいる方へ進んでいく。


 進みながら、この風景を楽しむ。


 池の反対側には枯山水が広がっている。


 大小さまざまな岩が置かれている中、中心に大きな釣り鐘が置かれていた。


 それらに心奪われているうちに、いつの間にかノレジのいた建物の前にきていた。


「へぇ、この人たちがノレジが連れてきた人かね」


 嗄れた声がする。すると縁側に年老いた女性が出てきた。


「そうだよ! おばあにも会わせたかったんだ! あと、おばあが管理してるこの庭園も見せたかったんだ!」


「そうかいそうかい。ノレジが世話になっとるね」


 ノレジにおばあと呼ばれている人がこちらを見る。


「いえいえ、俺達もこんないいもの見せてもらったし……」


「ノレジ、何て言ってるんだい」


「えーとね、おばあの庭園がすごいって言ってるよ!」


「へぇ、ほめてもらえるのはうれしいねぇ。そうだ、お茶でも飲んでいかないかい?」


「あ、じゃあいただきます」


 俺は軽く会釈し答える。


 それを見てその人は建物の奥に戻っていった。


「耳が遠いのかしら」


 メイがこっそり耳打ちしてくる。


「まぁ年を取れば自然なことだろ」


「それはそうなんだけど」


 ふと、視界の端でハルが庭園を見ながらぶつぶつ呟いていることに気付いた。


「すごい、まさに完璧……」


「すっかり虜になっちゃってるわね」


「気持ちはわからんでもないがな」


「目が離せなくなるってこういうときに使うのかしらね」


「そうでしょそうでしょ! うちのおばあはすごいんだ!」


 メイもハルのようにその景色を見つめていた。


「お茶が入ったよ」


 その時、建物の奥から出てきたおばあに呼びかけられる。


 それに気づくと俺はメイとハルに声をかける。


「おーい、お茶が入ったってよ」


「はーい」


「ハル?」


「あ、今行く」


 そして、おばあのおいしいお茶を風景を見ながら楽しんだ後、俺たちは圭鐘宮を後にした。

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