41話 パフェ
ハルの後を追う。
ハルはとある店の前に置かれた看板を見ていた。
上から羊羹、饅頭、みたらし団子、ウルトラスペシャルファンタスティックイチゴ特盛クリームパフェ、などたくさん書かれている。
ん?
最後のやつは何だ。適当に言葉を並べたネーミングセンス0のメニューは。要はイチゴパフェだろ。
このザ・和菓子のところにこんなメニュー置くのはどうなのか。
ここでこれを頼む人なんて……。
「なあメイ」
「ん? どうしたの?」
メイは目を輝かせながら一点を集中して見ている。
「もしかしなくても、その長ったらしいパフェ食べるつもり?」
「当たり前でしょ。ウルトラ、スペシャル、ファンタスティック。こんな言葉が並んでたら選んじゃうに決まってるでしょ」
ここにいました。しかも語感で選んだっぽい。
少しテンションが上がってる様子を見て、急にメイが幼稚に見えてきた。いや、単に甘いものが好きなだけか?
「はい決まり―! 楽しみだなー!」
飛び跳ねそうなほど体の軽くなったメイは鼻歌を歌いながら店の中に入っていった。
「イツキはどれにする?」
メイがいなくなり、ハルが俺に話しかけてくる。
「お金ないから我慢かな」
「一個ぐらい奢ってあげる」
「いいのか?」
「一人だけ何も食べないのはかわいそうでしょ。ここ最近何も食べてないし」
「ありがとう。じゃあ何にしようかな」
俺は改めてメニュー表に目を向ける。
あ、これは。
「おはぎにしようかな」
「安いのを選ばなくても好きに選んでくれていいのよ?」
「いや、そういうつもりじゃない。母さんがよく作ってくれたんだよ」
「そう、いいお母様ね」
「まあもう死んでるけどね」
「あ、その、ごめんなさい」
「いいんだ。両親もどっちも死んで妹と二人ぐらし、普通じゃなくてもそれはそれで充実してたから」
「そっか、強いのね」
「周りの環境が良かったってのもあるけど、慣れればそんなもの。俺は特に早く立ち直らなきゃいけなかったし。
こんな話を聞いても楽しくないだろ、店に入るか」
「……そうね」
少し空気が暗いが仕方ない。もう何度も人に言って、その度に経験したことだ。
そして、ハルと店の中に入ろうとした時、ふと先ほどの違和感の理由に気が付いた。
「ハル、髪の毛の色が変わってないか?」
あの綺麗な銀髪に少し黒が混じっているような。これはこれで光を綺麗に反射しており綺麗なのだが。
「え」
ハルは自分の髪を手ですくい、見つめる。
「はぁ、『……』」
なにか小さく呟く。
その時、ハルの髪が一段と輝き、そして元の銀髪に戻った。
「教えてくれてありがと」
「その髪色は、染めてるのか?」
異世界人は元から派手な髪色をしているというが普通だと思ってたため、少し衝撃的だった。
「……したくてしてるわけじゃない」
低く、抑揚のない声でハルは答える。この話題を続けるのは避けるべきだというのは容易に想像できた。
話を変えよう。
「そういえば、ハルはどれにするんだ?」
「私はウルトラスペシャルファンタスティックイチゴ特盛クリームパフェ」
「ハルもかよ」
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