26話 蛇との別れ
「なぜ貴様らはここに入ってきた?」
先程と同じ質問をされたが、先ほどとは違い敵意が全く感じられなかった。
「ここを通り抜けようとした。他の国に行くために」
「ほう、ほかの国にか。気をつけろよ」
「え?」
俺は再び驚いた。なぜこいつが俺の心配をするのか。
2人も考えていることは俺と同じのようだ。先のセリフに困惑している。
不意にバジリスクは始めに追いかけていた女性に目を向ける。そして、なにかに気付いたように目を開いた。
「貴様だったか。追いかけて悪かったな」
「え、あ、気にしないで」
そして再び俺を見据える。
「この方向に進めば早くここから抜け出せるはずだ」
バジリスクはそう言いながら首を左に向ける。
「では、吾輩はこれで」
そして、俺たちが何も聞く暇もなく、森の奥へと帰っていった。
なんだ、なぜ攻撃するのをやめたんだ?
俺の頭は混乱していた。
「あいつは帰ったの?」
ハルがまだ完全に力を入れられない足でフラフラと立ち上がりながら言った。
「別れの言葉も言ってたし帰ったと思う」
「そうよね、じゃあなんで……」
ハルも同じことを考えているのだろう。頭を抱えている。
「あのー、考え事の最中に申し訳ないんだけど……」
突然ハルの声じゃないものが聞こえてきた。
あっ、そういえば。
「大丈夫か?」
俺は声のした方へ顔を向ける。そこには、完全に座り込んでいる女性の姿があった。
「ええ、だけど少し手を貸してくれると助かるわ」
桃色の髪が風によってなびいてキラキラと輝いている。
俺はそんな光景を見ながら、彼女に手を差し出した。彼女がその手を握る。
「よい、しょ!」
俺は力を入れて引っ張る。
「キャッ!」
しかし、力を入れ過ぎた。彼女は起き上がりそのまま俺の方に倒れこんでくる。俺は支えるために彼女の体を抱きしめた。
そう、
「「え?」」
俺と彼女は素っ頓狂な声を上げる。お互いの顔が驚くほど近くにあった。
彼女の顔が瞬く間に紅潮する。
俺は咄嗟に体を引き離した。
「なーにやってんですかー」
ハルが横から野次を飛ばしてくる。
「すまん! 大丈夫か?」
「え、あ、はい、おかげさまで」
そのまま二人とも黙ってしまう。気まずい空気が流れる。
「ところであなた、名前は?」
そんな空気を張るが断ち切ってくれた。
「え、あ、私は、メイよ。あなたたちは?」
「俺はイツキだ」
「私は、ハルよ」
「助けてくれてありがとう、イツキ、ハル」
「私は何もしてないけどね」
「ねえ、今からどこに行くつもりだったの? バジリスクが言ってた方角に行くならば……イチアかしら」
メイは空を仰ぎながらそう言う。
「そ、そうそう、そこに向かってたんだ」
「偶然ね、私もそこに行くつもりだったの。一緒に行ってもいいかしら」
「え、ああ、いいけど」
「おっけー、ありがと。よろしく」
そして、俺たちが次に向かう場所はイチアに決まった。
あと、何故か仲間がもう一人増えた。
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