勇者というもの
13話 力の差を知らない者
俺は走っていた。一生懸命走っていた。
何故かって? 追いかけられているからさ。
考えれば至極当然のことだった。
王宮の中から全く無関係の人間が出てきたのだから、捕らえようとするのは当たり前だ。
でも、俺に追いかけっこで互角に戦っていることは衝撃だった。
なぜかわからないこの馬鹿力で走っているのにいつの間にか先回りされている。
テレポートでも使えるのか? 何それ欲しい。
あと、俺がお姫様抱っこで抱えているハルも心配だった。完全に酔っている。
そして、そろそろ振り切らないとな、と思っていたらいつの間にか追いかけてこなくなった。
俺は人目につかない路地で彼女を降ろす。
彼女はゆっくりと尻もちをつき、深呼吸をしていた。
「ごめんな。思いっきり走って」
「別に、大丈夫、よ、はぁ、はぁ」
「ちょっと休憩するか」
「そうして、くれると、助かるわ」
そして俺も横に座る。
さて、これからどうしようか。
何故か投獄されたし、しかも投獄された先が王宮だし、何が何だか。
「おい、お前」
とりあえずこの国を見て回るか。
でもお金とかは持ってないし……何か稼ぐ方法はないのか。
「お前って言ってんだよ!」
「え、俺に言ってる?」
「お前しかいねぇだろ」
「いや、この人もいるけど」
「そうだ、そいつをくれって話だよ」
何がそうだだよ。
「ハイどうぞって渡すわけないだろ。馬鹿なの?」
「あーあ、せっかく何もしないでやるって言ってやってんのにそんな口きいていいのかな?……おいお前ら!」
男が後ろを向き呼びかける。
するといつの間にか前後を逃げられないように挟まれていた。
「痛い目見ないとわからないみてーだな」
ニタニタわかっている男たち。勝ちを確信しているようだ。
それもそうだろう。体格は良さそうな奴が六人で一人を囲っているのだから。
「やれ!」
最初に話しかけてきたリーダー格の男が指示を出す。
次の瞬間、襲い掛かってくる。
俺は、一番始めに殴りかかってきた男の拳を受け止め、そのまま反対から来ていたやつに抜けて投げ飛ばす。二人はぶつかり地面に強く倒れこんだ。
ほかのやつらはそれに一瞬怯んだものの、懐から何かを取り出して俺に向ける。
「あまり使いたくなかったが、しょうがない」
手に持っているのは、銀に光るナイフだ。本気で殺す気らしい。
残りのやつが再び駆けてくる。俺に向けてナイフを振り上げながら。
俺は大丈夫かとハルがいたところに一瞬目を向けるが、そこには誰もいなかった。
少し疑問に思ったが、すぐに目の前の危険を対処する方に思考が持っていかれた。
まずは正面のやつから片づける。俺はナイフが振り下ろされるより早く相手の懐に入り込んで鳩尾を殴打した。上からはゴフッという声が聞こえる。
そのままこいつを横に突き飛ばし、次のやつの対応。
こいつもまた同じように鳩尾を殴り、横に突き飛ばした。
次の背後のやつ。前に進んでいた勢いを一瞬で殺し、方向転換。その勢いのまま顔面を蹴り飛ばす。
あと一人、そう思い気配がする方へ顔を向けると、そいつは震えていた。
「わ、悪かった、だ、だから、許してくれ」
懇願していた。
目の前での圧倒的な戦力差。彼は気付いていた。喧嘩を売ってはいけない人を敵に回したと。
俺はゆっくりと近づく。
今更慈悲など必要ない。
彼は腰が抜けて地面に尻もちをつく。震えて声にならない声を上げる。
俺はそいつの前に立ち、手を上げる。彼は身を固くしている。
まるで死を悟っているようだ。
俺は首筋めがけて手刀を振り下ろした。
彼の体はまるで糸が切れたかのように一瞬で力が抜け静かに倒れこんだ。
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