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「ホント凄いよ二人とも…。オークを倒しちゃうなんて。そんなこと出来るのこの町にいないよ…」
キラキラと瞳を輝かせるトーマス。あれくらいの年齢の子供は強さってやつに憧れちまうもんだ。さっきまではそれがアスカさんだけだったが、目出度くルナもその対象になったようだ。そんな尊敬の眼差しを向けられているルナは、トーマスの言葉に疑問を感じたのか首を傾げる。
「トーマスたち子供が無理なのはわかるけど、大人のエルフなら倒せるんじゃないの?」
「僕たちエルフは魔法や弓矢が得意だけど、オークを倒せるほど強くはないよ。まあゴブリンには負けないけど」
「そういう、ものなのね」
どこか納得がいかないとばかりに首を何度も傾げるルナ。俺としてはなにをそんな違和感を感じているのかわからないが、そろそろ動いたほうがよくないか?
「ねえみんな、そろそろ行かない?」
おずおずと言葉を発するホー。丁度俺も同じことを思っていたところだ。
「ホーの言う通りだ。町まであと少しなんだ。話すのはそれからでも遅くないんじゃないか」
「将吾さんの言う通りですね」
「そうね。みんな! 油断せず行きましょ!」
ルナの言葉に元気よく「おー!」と声を上げるちびっこ三人衆。思わずほっこりした。
あと百メートルほどの距離だが、耳を澄まし少しの物音も聞き逃さないようにして歩く。オークを倒して油断したところをゴブリンにやられましたんじゃ、笑い話もいいところだ。俺の心配は杞憂に終わり、特に何もなく道を進み、町へ辿りつけた。
「ここまでで大丈夫よ。あとはあたしたちだけで家に帰れるわ」
スキップするように俺たちの前に出たエリカが笑顔でそう言った。同じようにトーマスも笑顔で前に出る。
「本当にありがとう! アスカお姉ちゃんとルナの魔法、本当に凄かった!」
「あなたも、力強い言葉であたしたちを励ましてくれてありがとね」
「まあ俺は魔法なんて使えないからな」
笑顔でそういったエリカに若干照れくさくなって思わず出た言葉。それが伝わったのか、トーマスとエリカ、二人は軽く吹く。
「けど僕たちは自分の出来ることを精一杯やる姿に勇気づけられたよ! おめでとう。これでクエストクリアだ。トパーズの酒場に行くといいよ。マスターにはもう話しがいっているはずだ」
なんというか話が早すぎる。町についたばかりだというのに、もう狼男のマスターに話がいっているのはおかしい。とはいえここがゲームの世界で、イベントクエストだというのなら納得が出来る。攻略に必要なイベントだから、クリアした後の展開が早いのだろう。
「じゃあね、僕たちみんなのこと忘れないよ」
笑顔で別れを告げるトーマス。そのまま二人は走り去ろうとし、ホーの右手がトーマスを掴んだ。
「どうしたの? ホー」
「トーマス、エリカをたいせつにね。ぜったい嘘とかダメだよ。いつまでもいっしょになかよくね」
いつになく真剣なホーの表情。どこか思いつめたような表情に、トーマスも真剣な表情で応える。
「わかった。約束するよ、ホー」
「ぜったいだよ! 約束だからね!」
トーマスとエリカは町の喧騒に消えていった。残されたのは俺たちだけ。
「それじゃあトパーズの酒場に行くか」
「そうですね」
答えてくれたのはアスカさんだった。そのまま俺たちは無言で歩く。いつも賑やかに場を盛り上げてくれるホーが、どこか気落ちしたように喋らないせいで、妙な空気になってしまっている。
トパーズの酒場に着いた。出迎えてくれた狼男のマスターは「おう。お疲れさん」なんて労いの言葉をかけると、噴水のある広場に行けばいいと教えてくれた。特になにも注文もせず、トパーズを出て噴水のある広場へ向かう。そこまでろくに会話もない。ルナはホーを心配げに見つめ、何を話していいかわからないって感じだし、それは俺とアスカさんも同じだった。気まずくてぽりぽりと頭を掻く。なにかホーが元気になるようなことが起きればいいんだが。
そんなことを思いながら歩いていると、噴水のある広場に着いた。広場の中心の噴水は、白い陶磁器で出来ており、俺の身長と同じくらいの高さ。一番上には小さな男女の飾りがついていて、その下のお皿のような所から水が噴き出ている。水が溜まったプールは小さく、本当に見て楽しむためだけにあるようなシンプルなもの。周囲にはホットドッグなんかを売ってそうなキャンピングカーと、オープンテラスのカフェテリア。
「おーい。アンタたちだろ。MAMのことについて知りたいっていうプレイヤーってのは」
声をかけてきたのはカフェのテーブルで紅茶を飲んでいた女性だった。俺より少し年上で、犬耳というより狼耳のワイルドな雰囲気。
「そうだけど、アンタがMAMに会ったことがあるって人?」
「おうおう。随分と小生意気なおチビちゃんだ。まあいいよ。こっちへ座って一緒にお茶でも飲もう」
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