「は……?」


 学校を出る前に、用足しにトイレに寄ったは俺は――。

 

 鏡に映る自分の姿に愕然とした。

 握った拳とともに腸が瞬時に――。煮えくり返る。


「ギャルじゃない、だとぉ?! おぉん?!」


 恐怖に打ちひしがれたはずの彼女――。現俺の身体は百獣の王とは掛け離れた外見をしていた。


 おさげに厚渕メガネ。THE女版オレと称しても申し分ないほどに、陰なる世界の住人だった。


「冗談じゃない……」


 完全に場を掌握されていた。

 あまつさえ敬語を使い、眷属たる振る舞いでゴマすりヨイショをしまくった。


 夢だからと言って、到底――。許されることではない。


 陰なる者の眷属になるなど、一級日陰師の名折れ!


「クッッッッッソォォォォ!」


 とはいえ夢の世界。

 目が覚めれば夢で良かったと安堵する。


 しかし。


 もしこれがリアルだったら俺は――。陰なる住人同士のカースト争いで敗れたことになる。


 陰なる世界に上下の関係などあってはならない。手を取り合わずして、争うなど――。そんなものはもう、地獄でしかない。


 怯える俺の心が、ギャルと錯覚させた。


 恐れるな。俺は一級日陰師である!


「はははっ」


 なるほどな。明晰夢ってやつは、ひょっとしたら俺を次のステージへと上げてくれるのかもしれない。


 一級の上。さらにその、上。


『日陰師免許皆伝』


 ならいっそ――。


 スカートの丈を短くして、ノーパンで街中を歩いてみるか? 開放感とスリルを味わってみるか?

 このスリルを乗り越えた先には、人として一皮、いや二皮も剥けるような気がする。


 だって俺は男。


 ノーパンで街を歩いたところで所詮、ズボンに守れるだけ。

 日頃からパンツを履かない男子ってのは、少ないながらも一定数いるときく。


 しかし今の俺はスカート。大事なものを守るバリアーは存在しない。野ざらし状態。


 夢とはいえ、リアルなこの感覚は本物だ。

 明晰夢が極まっている今なら、ノーパンロードで高みを目指せる――!


 そうと決まれば脱ぐ!

 ズボンを脱ぐ必要はない。だってスカートだから! パンツの一枚や二枚、簡単に脱げてしまう――!

 

 パンツを脱いで…………さらに俺のターンドロー! トラップアイテム、スカートを短くするを発動!


「き、きき、、君ぃ!」


 なんだおっさん。やけに見てくるし驚いてやがるな。

 つーか。科学教師のおっさんじゃんよ。まじでリアルな夢だなー。


 って、あ、そっか。

 夢とはいえ――。俺はいま、女子高生。

 入るべきは男子トイレではなく、女子トイレ。


「す、すみませんっ。まっ、ままま間違いまひた!」


 夢だとわかっているのに鼓動が熱い……。

 俺ってば所詮、陰なる世界の住人だ……。


 ノーパンで街中を歩く? 無理無理。夢の中で心臓発作起こしてお陀仏しちまうよ。


 もういい。帰ろ。


 夢の中とはいえ、六人分の掃除をやらせれて疲れてるんだよ。


 風呂入って寝よ。







 +++


 しかし家の前まで着くと、見るからに軟弱物の情けない男の姿あった。

 表札の前で体育座りをする姿からは哀愁が漂っており、声を掛けていい雰囲気ではなかった。


 って、俺かよ!?


「ど、どうしたんですか?!」


「あ……鍵がなくて、家にも誰もいなくて入れなくて」


「それよりも、ズタボロじゃないですか?」

「うん。普通に家に帰ったらさ、妹に不審者と間違われちゃって。この身体、今のままだとやばいかもしれない」


 ん? えーとつまり、俺の身体のまま本来の自分の家に帰ってしまったってことか!


「まぁ、夢ですからね? そんなに気にしなくてもいいですよ?」


「……いやいや。どう考えても現実でしょ」

「ええっ?!」


「いいかげん気づけよ。こんなリアルな夢があってたまるかよ」


 確かに。夢にしてはリアル過ぎる。……けど、じゃあ入れ替わり現象はどう説明するんだ……。


「いやいやいや! だって身体が入れ替わってるんですよ? 夢ですって!」


「馬鹿野郎! そんなこと言って既に! 取り返しのつかないことになりそうなんだぞ? わかってんのかよ?!」


 え……。いや……だとしてもそれって、俺の身体で、あんたがやらかしただけじゃんかよ……。


 被害者、俺じゃね?


「ごめん。ここでわたしたちが争っても仕方ないよね。とりあえず家入れて。鍵ってどこ? 話はそれから」


 おかしいな。いや、おかしだろ。だってお前、陰キャ女子の地味子だろ?

 ここには上下の関係なんてあってはいけないのに、どうして俺が敬語で、お前はそんなに偉そうなんだ?


 んん~。度し難いですねぇ。


「早くしろよ‼ のんびりしてる暇はねえんだよ!」


 ひぃ!


「ひゃ、ひゃいぃぃ!」


 この迫力はどう考えても、百獣の王!


 舐めた態度を取ったら、命を取られる!

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陰キャな俺が、無口系アイドルと『魂』入れ替わり! お口にチャックして空気に徹していたはずが、気付けばグループメンバーの全員と恋仲に――。あっという間に百合三股の出来上がりで修羅場到来の大ピンチ! おひるね @yuupon555

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