②
「は……?」
学校を出る前に、用足しにトイレに寄ったは俺は――。
鏡に映る自分の姿に愕然とした。
握った拳とともに腸が瞬時に――。煮えくり返る。
「ギャルじゃない、だとぉ?! おぉん?!」
恐怖に打ちひしがれたはずの彼女――。現俺の身体は百獣の王とは掛け離れた外見をしていた。
おさげに厚渕メガネ。THE女版オレと称しても申し分ないほどに、陰なる世界の住人だった。
「冗談じゃない……」
完全に場を掌握されていた。
あまつさえ敬語を使い、眷属たる振る舞いでゴマすりヨイショをしまくった。
夢だからと言って、到底――。許されることではない。
陰なる者の眷属になるなど、一級日陰師の名折れ!
「クッッッッッソォォォォ!」
とはいえ夢の世界。
目が覚めれば夢で良かったと安堵する。
しかし。
もしこれがリアルだったら俺は――。陰なる住人同士のカースト争いで敗れたことになる。
陰なる世界に上下の関係などあってはならない。手を取り合わずして、争うなど――。そんなものはもう、地獄でしかない。
怯える俺の心が、ギャルと錯覚させた。
恐れるな。俺は一級日陰師である!
「はははっ」
なるほどな。明晰夢ってやつは、ひょっとしたら俺を次のステージへと上げてくれるのかもしれない。
一級の上。さらにその、上。
『日陰師免許皆伝』
ならいっそ――。
スカートの丈を短くして、ノーパンで街中を歩いてみるか? 開放感とスリルを味わってみるか?
このスリルを乗り越えた先には、人として一皮、いや二皮も剥けるような気がする。
だって俺は男。
ノーパンで街を歩いたところで所詮、ズボンに守れるだけ。
日頃からパンツを履かない男子ってのは、少ないながらも一定数いるときく。
しかし今の俺はスカート。大事なものを守るバリアーは存在しない。野ざらし状態。
夢とはいえ、リアルなこの感覚は本物だ。
明晰夢が極まっている今なら、ノーパンロードで高みを目指せる――!
そうと決まれば脱ぐ!
ズボンを脱ぐ必要はない。だってスカートだから! パンツの一枚や二枚、簡単に脱げてしまう――!
パンツを脱いで…………さらに俺のターンドロー! トラップアイテム、スカートを短くするを発動!
「き、きき、、君ぃ!」
なんだおっさん。やけに見てくるし驚いてやがるな。
つーか。科学教師のおっさんじゃんよ。まじでリアルな夢だなー。
って、あ、そっか。
夢とはいえ――。俺はいま、女子高生。
入るべきは男子トイレではなく、女子トイレ。
「す、すみませんっ。まっ、ままま間違いまひた!」
夢だとわかっているのに鼓動が熱い……。
俺ってば所詮、陰なる世界の住人だ……。
ノーパンで街中を歩く? 無理無理。夢の中で心臓発作起こしてお陀仏しちまうよ。
もういい。帰ろ。
夢の中とはいえ、六人分の掃除をやらせれて疲れてるんだよ。
風呂入って寝よ。
+++
しかし家の前まで着くと、見るからに軟弱物の情けない男の姿あった。
表札の前で体育座りをする姿からは哀愁が漂っており、声を掛けていい雰囲気ではなかった。
って、俺かよ!?
「ど、どうしたんですか?!」
「あ……鍵がなくて、家にも誰もいなくて入れなくて」
「それよりも、ズタボロじゃないですか?」
「うん。普通に家に帰ったらさ、妹に不審者と間違われちゃって。この身体、今のままだとやばいかもしれない」
ん? えーとつまり、俺の身体のまま本来の自分の家に帰ってしまったってことか!
「まぁ、夢ですからね? そんなに気にしなくてもいいですよ?」
「……いやいや。どう考えても現実でしょ」
「ええっ?!」
「いいかげん気づけよ。こんなリアルな夢があってたまるかよ」
確かに。夢にしてはリアル過ぎる。……けど、じゃあ入れ替わり現象はどう説明するんだ……。
「いやいやいや! だって身体が入れ替わってるんですよ? 夢ですって!」
「馬鹿野郎! そんなこと言って既に! 取り返しのつかないことになりそうなんだぞ? わかってんのかよ?!」
え……。いや……だとしてもそれって、俺の身体で、あんたがやらかしただけじゃんかよ……。
被害者、俺じゃね?
「ごめん。ここでわたしたちが争っても仕方ないよね。とりあえず家入れて。鍵ってどこ? 話はそれから」
おかしいな。いや、おかしだろ。だってお前、陰キャ女子の地味子だろ?
ここには上下の関係なんてあってはいけないのに、どうして俺が敬語で、お前はそんなに偉そうなんだ?
んん~。度し難いですねぇ。
「早くしろよ‼ のんびりしてる暇はねえんだよ!」
ひぃ!
「ひゃ、ひゃいぃぃ!」
この迫力はどう考えても、百獣の王!
舐めた態度を取ったら、命を取られる!
陰キャな俺が、無口系アイドルと『魂』入れ替わり! お口にチャックして空気に徹していたはずが、気付けばグループメンバーの全員と恋仲に――。あっという間に百合三股の出来上がりで修羅場到来の大ピンチ! おひるね @yuupon555
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