第75話 スキルポイント金策をしよう

「やっぱり、お金の問題?」


 ノートPCを前に頭を抱える俺。

 リーサが心配そうに身体を寄せてくる。


「現金収入はリーサやミアが頑張ってくれているからな」


 俺はリーサを抱きよせると、ガシガシと頭を撫でる。


「えへへ♡」


 幸せそうなリーサの反応に、心が少し軽くなる。


 大会前ほどの頻度ではないが、ダンジョンの攻略配信は続けている。

 俺たちに付いてくれた熱狂的ファンの投げ銭や、スポンサー企業の広告収入で資金繰りはギリギリ何とかなっている。


「だが……」


 問題はやはりスキルポイントの方で。


「……やはり、余か?」


 気づかわしげな表情を浮かべるミア。


「まったく、マクライドも余計な事をしてくれたものです」


 ぴっ


 フェリナが壁に投影したのは、スキルポイント取引市場の状況だ。


 大会前には100スキルポイント=10000円あたりで安定していたのだが、現在は100スキルポイント=18000円の値段が付いている。


「これもノーツが産出スキルポイントの9割近くを管理下に置いて、市場への流通を制限しているせいです」


「”反社会的なダンバスにスキルポイントが渡らないようにする処置”、だったか?」


「ええ。

 ノーツの傘下に入ったギルドには、今までの公定レートで販売しているのが嫌らしいですね」


「ふん、そんなことをすれば”闇”で取引されるスキルポイントが、マフィアどもの養分となるだけであろう?」


「ふお?」


「さすがだな、ミア。

 その通りだ」


「ふふん♪」


 ドヤ顔で尻尾をピコピコさせるミアはとても微笑ましいが、彼女の言う通りノーツが市場へのスキルポイント供給を絞った結果、闇市場のレートは急上昇、マフィアの資金源になっていると聞く。


 まあ、スキルポイントの不足により犯罪行為をはたらくダンバスが減ったのは事実であるのだが……。


「むむぅ。

 となると、問題になるのが……ミアちゃんのごはんというわけだね!」


「うっ!?」


 リーサの指摘に、尻尾の毛を逆立てるミア。


「今日もすでに5000ポイントも食べてるし……なんとか食べる量を減らせないの?

 ほらほら、ギンジマロールを大量に買って来たよ!」


「な、なんと素晴らしい……。

 ではなくっ!」


 口の端に垂れたよだれをぬぐおうともせず、リーサに向き直るミア。


「リーサよ、人間の食事は余によってあくまで副食でありデザートじゃ。

 主食はそなたたちがスキルポイントと呼ぶマナ……リーサもごはんのおかわり禁止と言われたらつらいであろう?」


「ううっ!?!?!?

 そ、それは暴動を起こすしかないよ!」


「……こら」


 ぽこん!


 あっさりと説得を放棄するリーサにチョップを食らわせる。


 ……だが、スキルポイントの枯渇は深刻である。

 自由市場で購入できるスキルポイントにも限りがあるし、このままではミアを飢えさせてしまう。


「……こんなこともあろうかと」


「割のよさそうな依頼を探してました。

 少々”ワケアリ”なクライアントからの依頼ですが」


 流石に仕事では有能なフェリナである。

 効率よくスキルポイントを稼ぐため、依頼を探してくれていたようだ。


「とりあえず、請けるしかないか」


 もう口座には数日分のスキルポイントしかない。

 少しワケアリであろうと、この依頼を断るという選択肢は残されていないのであった。



 ***  ***


「お控えなすって」

「兄さん姐さんたち、遠くまでご足労かたじけのうございます!」


 ざっっ


 数十人の男達が俺たちに向かって最敬礼し、花道を作る。


「Oh……」


 みんな黒スーツにグラサンといういで立ちで、妙にガタイの良い人が多い。


「ほ、ほえ?」


「ほう……」


 リーサとミアは、興味深げに目の前に広がる屋敷を見上げている。

 とある山地の中腹にある高級住宅街。


 広大な敷地は高い壁に覆われており、壁の上には何台もの監視カメラが見える。

 敷地内の車庫には防弾仕様と思わしき高級外車が止まっていた。


「なるほどの。

 つまりココはネストというわけじゃな、まふぃ……むぐっ!?」


 余計な事を口走りかけたミアの口を慌てて塞ぐ。


「この度は、ぶしつけな依頼を受けて頂き、ありがとうございます」


 黒スーツグラサンの男達の中から、白髪の初老の男性が歩みでてくる。

 柔和な雰囲気だが、目つきは鋭い。


 この人が今回の依頼主である山下興業のくみ……社長さんだ。


「我らはの傍ら、市井に出現し行政の手が回らないダンジョンを退治しておったのですが。昨今のスキルポイントの高騰でそれもままならないんですわ」


「わが社にも数人のダンジョンバスター資格持ちはおるのですが、本業の都合でお恥ずかしながら市場でスキルポイントの調達が難しく。

 そのうち我が社の地下室に高位ダンジョンが出現する始末……」


 ま、まあ……それはそうでしょうね。


「ユウ! 野良ダンジョンを退治してくれるなんて、このおじさんたちいい人だね!」


 事情を知ってか知らずか、リーサの無邪気な言葉に口元をほころばせる初老の男性。

 ミアは察しているのだろう、さっきからニヤニヤしている。


「それでは、こちらのダンジョンを?」


 男性に先導され、やけに重厚な鉄扉を潜り抜け地下室前に到着する。

 入り口の扉に、赤い魔法陣が浮き出ている。

 ダンジョンへの入り口だ。


「ええ、お願いいたします」


「事前にお話ししていた通り、獲得スキルポイントの取り分は、御社が3割、わたくしたちが7割という事で。そのかわり、現金報酬は頂きませんので」


「はい、その契約で問題ありません。

 あまり派手に現金を動かすと、ノーツに嗅ぎ付けられますからな」


「ふふっ、まったくですね」


 暗号化されたアプリで契約を取り交わすフェリナ。


 俺たちのギルドは、通常よりも効率的にスキルポイントを獲得できる。

 そういった宣伝文句でフェリナはこの依頼をゲットして来たらしい。


「それでは、行きましょうか。

 わたくしはいつも通り、こちらでオペレーションしますので」


 ノートPCを開き、傍らにあったパイプ椅子に座るフェリナ。


「よし、リーサ、ミア、行くぞ!」


「うんっ!」


「心得た!」


 ……あくまで、ギルド対企業の正当なダンジョン退治契約である。

 俺は気合を入れなおすと、扉に浮く魔法陣に触れるのだった。

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