第66話 戦技リンク

『予想通り、チーム・玄武とチーム・キルトが接敵しました』


 エイドステーションから移動した俺たちは、障害物の多い部屋に身をひそめていた。


 フェリナが即座に他チームの状況を教えてくれる。

 索敵はオペレーターの仕事であり、フェリナの能力は他チームのオペレーターより優れている。俺たちにとって心強いアドバンテージだ。


「ふん、余らは眼中にないという事か」


「その余裕が命取りだね☆」


 ここまでの戦いでボロボロになり、エイドステーションを出た後は他のチームと距離を取っている。おそらく5位~8位決定戦に向けて切り替えたのだろう。


 ……ほかのチームにそう思わせるのが俺たちの作戦だ。

 5位~8位決定戦では、準決勝のスコアによって加点が行われる。

 そのルールも俺たちの作戦を助けてくれるのだ。


『現在の位置からですと、チーム・ドーンを狙う事も可能ですが……』


「そうだな……」


 チーム・ドーンは世界ランク7位のダンバスを擁するチームだ。

 全滅させることは無理でも、一人でも倒せれば大きなスコア加点が期待できるが……。


「いや、彼らは防御に特化したチーム……当初の計画通り、2位と3位のチームを狙おう」


「了解しました」


 最悪なのが、時間切れまで粘られるパターンだ。

 そうなれば、スコアは殆ど増えずに敗退が決まってしまう。


『チーム・玄武とチーム・キルト、バトル開始。

 わたくしたちに対する”サーチ”の激減を確認……移動を開始してください』


「了解だ、フェリナ」


 俺は二人に合図を送る。


「リーサ、ミア。

 連中が戦っているフロアまで移動するぞ。

 急いで、なおかつ静かにな」


「らじゃー!」


「くくっ、魔王に奇襲される恐ろしさ、味あわせてくれよう。

 最近の魔王は迷宮の最奥にはいないのじゃぞ?」


 なにしろコタツで大型犬とモフモフごろごろしてるからな。

 脳裏に浮かんだ光景に思わず口元が綻ぶ。


 俺たちはフェリナの指示に従い、すばやく移動を開始した。



 ***  ***


「よし……なんとか気づかれずに移動できたな」


 10分後、俺たちは無事に両チームが戦いを繰り広げているフロアまで移動してきていた。


 ガインッ!


 ドオオンッ!


 剣戟の音がここまで聞こえ、魔法の炸裂音がフロア全体を揺らす。


 さすがに上位ランカー同士の戦い、

 戦いの様相は一進一退で、いまだ決着はついていないらしい。


 ======

 ■準決勝第1試合スコア速報

 チーム・ドーン    1032

 チーム・玄武     933

 チーム・キルト    929

 チーム・アカシア   756

 ======


『残り5分! 決勝進出はいったいどちらか!!』


 実況もすでに俺たちは眼中にないようだ。


 チーム・アカシアは既に5位決定戦を見据えている。

 俺たち以外全員がそう思っているだろう。


「行くぞふたりとも……”戦技リンク”発動!!」


「うんっ!」


「心得た!」


 俺はダマスカスブレードを抜き放ち、顔の高さに構える。


「ふぉぉ……」


 リーサは目を閉じ、両手を大きく広げる。


 ふわり


 彼女の全身から発せられる白い魔力がマントと尻尾を浮き上がらせながら、俺の身体を包んでいく。


「次は余の番じゃな」


「こおおおおおおおっ」


 ぶあっ


 ミアの双眸が怪しく光り、黒い魔力が全身から吹き上がる。


 ずずずず……


 ミアの魔力はリーサの魔力と混ざり合い、俺の全身を何重にも包んでいく。


 戦技リンク……元は魔王ミアライーズに対する切り札として、俺とリーサが研究していた強化スキルだ。


 対象者をマナ的にリンクさせ、まったく同じタイミングで異なるスキルを叩きこむ。

 格ゲーのコンボキャンセル技のようなものと考えてもらえば分かりやすいが、魔力の消費量と術式の調整に大きな問題があり、魔王との最終決戦には間に合わなかった。


「くくっ、余を倒すために編み出した秘奥を共に使うとはな♪」


 まったくである。

 魔導書の内容をほぼ全て思い出したリーサは、ミアと協力してコイツの研究に取り組んでいたのだ。


 マナ……スキルポイントの消費が激しいという欠点はいまだ解消されていないものの、一応の完成を見た戦技リンク。

 実戦で初お目見えである。


「準備かんりょー!

 フレア・バーストをリンクさせるよ」


「こちらはダークバスターじゃな」


 俺の身体を包んでいたリーサの魔力は紅く、ミアの魔力は蒼く染まり……ダマスカスブレードに飲み込まれていく。


「これで、リーサとミアちゃんの極大魔法がユウの剣とリンクしたね!」


 きらり、とリーサのエメラルドグリーンの瞳が光を放つ。


「ふむ……ユウが剣を振るうだけで、リーサのフレア・バーストと余のダークバスターが発動するのか。恐ろしい術を考えるものじゃな大魔導士よ……決戦時に間に合ってなくて良かったぞ」


「ふふ、こっちの世界の”ゲーム”がヒントをくれたからね!」


 複数のスキルをリンクさせる術式、というのが最大のネックだったが、似たようなスキルが存在するゲームのお陰で完成にこぎつけることが出来た、とリーサ。


「よし、じゃあ行ってくる!」


「うんっ! 頑張ってね!」


「決めてくるのじゃぞ!!」


 全てのスキルポイントを使い切ったリーサとミアにもう出来ることはない。

 ぶんぶんと手を振る二人から元気を貰う。


『試合時間残り140秒……ラストチャンスです』


「ああ!」


 フェリナの合図に合わせ、物陰を飛び出す。


 俺はダマスカスブレードを振り上げると、ありったけの声で叫んだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」



「!? なっ!?」


「チーム・アカシアだと!?」


 突然最下位チームのリーダーが戦場に乱入してきた。


 一瞬混乱する両チームだが、すぐに目の色が変わる。


 最下位とはいえ、Bランクのダンジョンバスターだ。

 パーティメンバーは見当たらない、既にスキルポイント切れだろう。

 コイツを倒せば、相手チームを上回れる。


「貰った!」


「連中より先に仕留めろ!」


 スキルポイントが殆ど尽きた、破れかぶれのBランクダンジョンバスターなど怖くない。


 両チームのメンバーは矛先を変え、俺に向かって殺到してくる。


(掛かった!!)


 作戦成功を確信した俺は、大きく剣を振りかぶる。


 にやり


「くらえ!!」


 6人のダンジョンバスターに向かって放たれた何のことはない剣技。

 相手は防御の必要すら認めないだろう。


 だが。


 ヴィイイイイイイインッ


 振り下ろされたダマスカスブレードが赤と青の光を放ち……。


「「んなっ!?」」


 ズッ……ドオオオオオオオオオオンンッ!!


 巨大な爆発が、俺に向かってきた全員を吹き飛ばした。


『チ、チーム・玄武全滅……チーム・キルト、レルナ選手以外リタイア……?』


 ピッ


 スコア速報が更新される。


 ======

 ■準決勝第1試合スコア速報

 チーム・ドーン    1032

 チーム・アカシア   982

 チーム・玄武     933

 チーム・キルト    929

 ======


 ピッ、ピッ、ピイーーーーッ


 その瞬間、試合終了のホイッスルが響き渡る。


『決勝進出は、チーム・ドーンと……チーム・アカシア!!』


「やった!」


 俺は思いっきり右手を突き上げる。


「やっほう!! かっこよかったよユウ!!」


「くく、見事だったぞ!」


 物陰から飛び出して、抱きついてくるリーサとミア。


 こうして俺たちは下馬評を覆し、決勝進出を決めたのだった。

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